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ポンコツVTuberの育て方~僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生をプロデュースしたら神扱いされた~  作者: おなきく


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第42話 犬の恩返し

 僕にくれるものって一体何だろう。

 しかも、今すぐに。


 分かったと返信してから、数分が過ぎた。


「こ、小町(こまち)さぁん……っ」


 部屋の外から小さな声が聞こえてきた。

 僕はすぐにドアを開けた。

 さっきまで配信画面の中にいた水田(みずた)さんが、そのままの格好で小さなバッグを提げて立っていた。


「へへ、なんだか配信が終わってすぐ会うのって、不思議な感じですぅ……」

「そうですね。僕も芸能人に会っているような気分になりますよ」

「げ、芸能人……! ど、どんな感じの芸能人ですかぁ……? セ、セクシー系のアイドルとか? えへへ……」


 いや、なんでセクシー系なんだよ。

 普通はもうちょっと可愛い系のアイドルを思い浮かべるだろ。

 ……まあ、水田さんのスタイルを見れば、セクシー系というのも間違ってはいないけど。


 水田さんは僕の部屋に入ると、遠慮がちに、けれどどこか慣れた様子でベッドに腰掛けた。


(深夜に女の子と二人きり、か)


 もちろん、親父も下にいる。

 だが、本来なら眠っているはずの時間に水田さんと二人きりで同じ部屋にいるというだけで、妙に落ち着かなかった。

 いつもより部屋が華やいでいる気すらした。


 気恥ずかしさをごまかすように、わざとらしく咳払いをひとつしてから尋ねた。


「それで、僕に渡したいものって?」

「こ、これですぅ……!」


 水田さんはバッグから小さなタッパーを取り出した。

 中に入っていたのは、配信中に食べずに取っておいた柴犬型のクッキーだった。


「や、やっぱり、できたてのうちに食べてもらったほうが美味しいんじゃないかと思いましてぇ……」

「あ、そうですね」


 僕のためにわざわざ取っておいてくれたのだろうか。

 そう思うと、胸の奥が少し温かくなった。

 配信中も僕のことを気にかけてくれていたということだから。


「じゃあ、いただきます」


 僕はさっそく、クッキーの入ったタッパーに手を伸ばした。

 すると水田さんは、タッパーをひょいと引っ込め、背中に隠してしまった。

 ……え? どうして?


「ちょ、ちょっと待ってくださいぃ……! 実は、お礼というか……。小町さんが喜んでくれるか分かりませんけど、ほかにも用意したものがあるんですぅ……」

「ほかにも何かあるんですか?」

「は、はいぃ……。ちょ、ちょっとだけ、あっちを向いててもらえませんかぁ……?」


 水田さんは僕の背後を指さした。

 何をするつもりなんだろう。

 なんだか不安だな。


 僕は椅子ごとくるりと回り、水田さんに背を向けた。


(でも、僕のために準備してくれたんだしな)


 一種のサプライズなのだろう。

 単なる物のプレゼントではなさそうだ。


 期待半分、不安半分で待っていると、背後からいろいろな音が聞こえてきた。

 布の擦れる音。タッパーの蓋が開く音。そして、正体不明の金属がカチャリと当たる音。


(いや、一体何なんだ?)


 振り返りたい。けれど、振り返りたくない。

 そんな矛盾した気持ちがせめぎ合ううちに、期待よりも不安のほうが大きくなっていく。

 水田さんのことだから、きっと普通じゃない気がする。


 つばをごくりと飲み込んで待っていると、すぐ耳元で水田さんの声がした。


「も、もう見てもいいですよぉ……!」


 その瞬間、吐息が耳をくすぐり、肩がびくりと跳ねた。

 彼女の声には、いつになく熱っぽさが滲んでいた。


 クッキー以外に何を準備したのだろう。

 椅子ごと振り返ると――


「……え」


 僕は自分の目を疑った。

 目の前の水田さんは、コスプレ――と呼ぶべきなのだろうか。

 頭には犬耳のカチューシャ。

 両手には犬の肉球グローブ。

 そして首には赤い首輪が巻かれ、そこから短いリードが伸びていた。


「さ、さぁ、く、クッキーはここにありますぅ……!」


 水田さんは真っ赤な顔で、自分の胸の谷間を指差した。

 配信で見ていたときよりも、やけに谷間がくっきり見えるのだが……?

 わざと襟ぐりを下げて、胸を寄せているのだろうか。

 僕に見せるために?


「いやいやいや」


 それよりも、例の柴犬クッキーがその谷間にすっぽり挟まっている。

 まさか、僕にそこから取って食べろと?

 取ろうとすれば、どうしたって触れてしまうのでは?


 頭の中が疑問符で埋め尽くされる間にも、水田さんは指先――いや、肉球グローブの先をもじもじと擦り合わせていた。


「きょ、今日の私は柴犬ですからぁ……!」


 いや、耳も手も全然柴犬じゃないんだけど。

 というか、そのカチューシャ、ネズミーランドのショップで売っていたやつじゃないか?

 僕の知らないうちにキーホルダーと一緒に買っていたのか。


「そ、それならやっぱり飼い主には、飼い主だけの、その……権利? 特権? みたいなものがあるべきじゃないかと思いましてぇ……」

「特権? というか、なんで僕が飼い主なんですか」


 僕は水田さんを引き取った覚えはないんだけど。


「えっ、そこから否定されるんですかぁ……」


 彼女はしょんぼりと俯いた。

 ……普通に考えて、なぜ僕が即肯定すると思ったのだろう。

 僕のことをとんでもない鬼畜だと思っているんじゃないだろうか。


「だ、だって小町さんは私のプロデューサーさんじゃないですか」

「ええ、まあ……」


 最初はたまにアドバイスをする程度だったのに、今ではすっかり配信の関係者だ。

 結衣(ゆえ)のときの二の舞になるんじゃないかという不安もあったが、水田さんは結衣とは違う。

 ……本当に、いろんな意味で。


「だ、だからプロデューサーさんっていうのは、私のご主人様というか……!」

「話が飛躍しすぎですよ」

「プロデューサーとVTuberの関係は、飼い主と従順な犬の関係に似ていると思うんですぅ……!!」

「その発言、世界中のプロデューサーとVTuberに謝罪してください」


 いきなり炎上しかねない発言をぶち込んできた。


「す、少なくとも私にとって小町さんは、そんな感じというかぁ……」

「ええ……」

「だ、だからぁ……! 飼い主には他の人にはない特別な権利があるというかぁ……」


 結局、何が言いたいんだ。

 まったく見当がつかない。


「わ、私は小町さんのペットみたいなものですし、私にお金をかけて可愛くしてくれたわけですしぃ……?」

「そんな風に思ったこと、一度もありませんけど」

「い、今からでもそう思ってくださいぃ……!!」


 いや、なんでだよ。


「とにかく、飼い主はペットに自由に(さわ)れるじゃないですかぁ……?」

「まあ、本物の犬の飼い主ならそうですね」

「ほかの人が勝手に触るのは駄目ですし、触るなら飼い主に許可をもらわなきゃいけませんし」

「それがマナーですからね。本物の犬なら」

「だ、だからぁ……」


 水田さんは胸の谷間に挟んだクッキーを指さし、言葉を継いだ。


「ご主人様である小町さんだけが自由にさ、触れる、言うことを聞くペットというかぁ……」

「……え」

「い、犬の恩返しだと思ってくださいぃ……!!」


 猫は恩返しにネズミを持ってくるけど、犬は巨乳を触らせてくれるらしい。

 初めて知った。

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 こんなペットが居たら、僕はもう……!
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