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ポンコツVTuberの育て方~僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生をプロデュースしたら神扱いされた~  作者: おなきく


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第36話 エロ本とギャルゲー

「あ、あー、俺は溜まってるネトフリでも見るとするかな〜」


 結局、父さんは逃げるように洗面所を出ていった。

 残されたのは、僕と水田(みずた)さんの二人だけ。

 気まずい空気が流れた。


「あの、待ち合わせは玄関の前じゃありませんでしたっけ?」


 そもそも、約束の時間まではまだ二時間以上ある。


「そ、そうなんですけどぉ……。な、なんだかよく眠れなくて、いっそ早く準備しようと思ったら、その……」


 水田さんは普段にも増して口ごもり、言い訳がましく答えた。

 要するに、遠足前の小学生並みに浮かれてしまったらしい。

 そこまでネズミーランドを楽しみにしてたのか。

 誘った甲斐があったな。


「それじゃあ、予定より少し早く出発しましょうか」

「は、はいぃ……!」

「でも、僕まだ準備が終わってないんで、少し待っててください。コーヒー淹れますね」


 洗面所を出て、水出しコーヒーをグラスに注いで手渡した。

 もちろん、いつものように甘くして。


 水田さんはすぐに一口飲んだ。


「ふえぇ……。やっぱりコーヒーは小町(こまち)さんが淹れてくれるのが一番美味しいですぅ……」


 最近は、彼女の分も考えて、水出しコーヒーを少し多めに作っておくようにしている。

 こうして毎回美味しそうに飲んでもらえると、自分が凄腕のバリスタになったような気分になる。


 その後、僕は自分の部屋に戻って服を選んだ。

 きちんと見えつつもカジュアルで、歩きやすくて汗ジミが目立たないように。

 そんなことを考えて、少し悩んでしまった。


(これくらいでいいか)


 正直、以前ならまだしも、今の水田さんは誰が見ても可愛い。

 僕がいくら着飾ったところで、釣り合うなんてお世辞にも言えないほどだ。

 そう思うと、少し自信がなくなってくる。


 再び一階に下りると、父さんが水田さんと話していた。


「ふえぇ……。小町さん、本当に今まで苦労が多かったんですねぇ……」

「そうなんだよ。だからあいつを優しく包み込んでくれるような、いい子と結婚してほしいなって思ってるんだよね。俺みたいに失敗しないでさ」


 いや、二人で何の話をしてるんだよ。

 呆れていると、父さんは僕の気配に気づいたらしく、ちらりとこちらを見た。


「そういえば、(たすく)が小学生の時、道端に捨てられてたエロ本を拾ってきたことがあってさ。聞きたい?」

「な、なんだかすっごく面白そうですぅ……! 聞きたいですぅ……!!」

「なんかその日に限って、やたらと不審者みたいにきょろきょろしながら自分の部屋に入っていってな。なんとまあ、そのエロ本を見て——」

「いやいやいや、何の話してんだよマジで!!」


 たまらず、僕は二人の間に割って入った。

 ……それより、あの日エロ本を拾ってきたの、全部バレてたのか。

 好奇心という名の黒歴史のせいで、思わず顔が熱くなった。


 すると、水田さんが目を輝かせながら食いついてきた。


「ど、どんなエロ本だったんですかぁ……!? 小町さんは一体、そこに出てくるどんな女の子を見て、こ、興奮したんですかぁ……!?」

「そうだねえ。俺も遠目にちらっと覗いただけだから詳しくは分からないけど、ぱっと見た感じ、黒髪ロングの子だったな。推測だけど、あのエロ本が翼の好みを決定づけたんじゃないかな」

「いやいやいや、違うから!」


 実際、当たっている。

 なんでそんなに正確に把握してるんだよ。

 本当にチラッと見ただけなのか?


 水田さんは「へへ、へへへ……」と、両手の指をもじもじと絡ませた。


「それじゃあ、私のことも、いつもエロ本を見るときみたいな目で……」

「いやいや、絶対にそんなことないですから」


 あっという間に、僕を危険人物に仕立て上げている。


「え……? そ、それだと少し困るんですけどぉ……」


 ところが、水田さんはどこか悲しげな表情を浮かべた。

 え、なんでだ。


 父さんがため息をつきながら言った。


「翼、そういう時は正直に言えって」

「いや、セクハラじゃん」

「セクハラになるようなことを考えてた、ってわけだな?」

「い、いやそういうわけじゃ……」

「よく考えろ、翼。お前のその言葉は、お嬢さんに女の子としての魅力がないって言ってるようにも聞こえるぞ?」


 そ、そうなのか……?

 だから水田さんはあんな顔をしたのか。

 そんなつもりはなかったんだけど。


 彼女に向き直り、気恥ずかしさに頭を掻いた。


「たまにはその……。水田さんの無防備な姿というか、少し刺激が……」

「そ、そうですかぁ……? ぐ、具体的には、どんなところですかぁ……?」

「まあ、可愛い顔とか、その……揺れるところとか……」


 つい視線が、水田さんの胸元へ吸い寄せられる。

 それに気づいたのか、彼女は顔を伏せ、さっきよりさらに蕩けるような声で笑った。


「えへ、えへへ……。小町さんからなら、セクハラがセクハラじゃないというか、なんだか気持ちよく聞こえますぅ……。だ、だから——」


 彼女がチラチラとこちらを窺いながら、恥ずかしそうに言葉を継いだ。


「た、たまにはセクハラもしてくれたら、う、嬉しいですぅ……!」


 一体僕はどんな要求をされているのだろうか、ただただ呆気にとられた。



 ◇



 準備を終え、僕たちは家を出た。

 隣にはベージュのスクエアネックのラップワンピースをまとった水田さんがいた。

 この前モールで一緒に買った、体の曲線がさりげなく際立つ一着だ。


「あ、あのぉ……」

「はい?」


 水田さんが恐る恐る話しかけてきた。

 僕が見つめすぎたせいだろうか?


「きょ、今日も小町さん、すっごく陽キャオーラが出てますねぇ……」

「え? 今日はむしろ、水田さんのほうがずっと目立ってますよ。僕じゃ釣り合わないと思うくらいです」

「め、目立ってますかぁ……!?」

「あ、はい。もちろんいい意味でですよ」

「か、可愛いですかぁ……?」

「当然ですよ」


 僕が即答すると、水田さんは嬉しさを隠しきれない様子で、くしゃっと顔を綻ばせた。

 今日はいつにも増して、頬がとろけそうなくらい緩んでいる気がした。


 そんな会話を交わしているうちに、駅へ着いた。

 ネズミーランドまではそれほど遠くないとはいえ、しばらくは電車に揺られることになる。


「な、なんだか少し人が多いですねぇ……」

「そうですね。万が一にもはぐれないように気をつけましょうか」

「は、はいぃ……!」


 僕はただ、近くにいてほしいという意味で言っただけだった。

 けれど水田さんは、片手を腰のあたりまで浮かせたまま、何やらためらっていた。

 何がしたいんだろう?


 次の瞬間、水田さんが僕の手首をがしっと掴んだ。


「み、水田さん?」

「は、は、はぐれちゃいけませんからぁ……!!」

「あ、はい」


 なんで手首?


「うぅ……」


 水田さんが顔を真っ赤に染めた。


「私、たまに思うんですぅ……。ギャルゲーが現実になればいいのにって……」

「はい? どういう意味ですか?」


 ヒロインをモニターの外に引っ張り出したい、ってわけでもないだろうし。

 ……いや、水田さんならそう思ってもおかしくないか。


 彼女は僕の手首を離さないまま、言葉を継いだ。


「ギャルゲーなら、相手の台詞がテキストで表示されて、ログも見返せるから、ゆっくり考えながら読めるじゃないですか。しかも、答えるまで待ってくれるし……」

「……まあ、ギャルゲーですからね」

「私、どうやら選択肢を間違えちゃったみたいで……。ロードさせてもらえませんかぁ……」


 一体、水田さんの脳内にはどんな選択肢が表示されていたのだろう。

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― 新着の感想 ―
 ある意味、凄く可愛い。
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