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幼馴染を男ライバーに奪われゴミ扱いされた僕、隣の陰キャVTuberに神扱いされて初恋ごと捨てる  作者: おなきく


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第3話 騒音への苦情

 水田(みずた)家の前に着いた。

 あまりの騒がしさにカッとなって、勢いのまま来てしまった。

 だが、配信中の相手の家にいきなり押しかけるのは、さすがにやりすぎだろうか。

 いや、配信中だからこそ、水田さんも無下にはできないはずだ。


(配信する側としても、自分の声が隣に丸聞こえでは恥ずかしいだろうし)


 ここは一度ビシッと言っておくのが、お互いのためになるだろう。

 そう思いながらインターホンを鳴らした。


 ピンポーン、という音が長く響いた。

 だが、一向に出る気配がない。


「あのー、水田さん? 水田芽生(めい)さーん? 今いるのは分かってるんですよ!」


 いくら呼んでも返事はない。

 気づけば、取り立て屋じみた妙な口調になっていた。

 ヘッドセットでゲームに夢中だから、声がまったく届いていないのだろうか。

 これならいっそ、自分の部屋から窓越しに叫んだほうが早かったかもしれない。


(もしかして怖かったり恥ずかしかったりして出られない、なんてことはないよな?)


 女の子が一人でいる家に、見知らぬ男がいきなり訪ねてきたのだ。警戒されても無理はない。

 水田さんのご両親を通じて伝えるべきだろうか?

 いや、そもそもいつ帰ってくるのか分からないし。


(どうにかして出てきてもらえないだろうか)


 本当に聞こえてないのか、確かめてみよう。

 ひとまず部屋に戻った。

 自分の部屋の窓とカーテンを開け、隣の窓に目を向けた。


(……窓が開いてるな)


 道理でうるさいわけだ。

 カーテンだけは一応閉まっている。

 おそらく、窓を閉め忘れただけなのだろう。


 万が一にも本名を拾われないように、言葉を選びながら声を張り上げた。


「お隣さーん! 聞こえますか? 隣に住んでる者ですけど、少し話があるんですけど!」


 しかし、何の反応もなかった。

 いくらなんでも、ここからなら聞こえるはずなのに。


 いや――耳を澄ませば、変化はあった。

 さっきまで絶え間なく響いていた話し声が、いつの間にかぴたりと止んでいた。


(……インターホンに気づいて、今は息を潜めているのか)


 正直、少し呆れた。

 だが、学校で見せたあの気弱な態度を思えば、理解できなくもない。

 一瞬、警察を呼ぶべきかとよぎったが、さすがに最終手段だ。

 できれば、穏便に話し合いで済ませたい。


(コメントでそれとなく伝えてみるか)


 僕は机に戻り、ノートPCを立ち上げた。

 そして、配信の特定に取りかかった。

 配信中であることと、話し声が聞こえ始めた時間。

 この二つを手がかりに、開始時刻を逆算して絞り込んでいく。

 聞こえてくる用語からして、ゲームは有名なヒーローシューターで間違いなさそうだ。


(見つけた)


 思ったよりもあっさり見つかった。

 念のため、シークバーを冒頭まで戻して再生してみた。


『きょ、今日はですね! 転校初日だったんですけど、す、すっごく緊張しちゃって! 周り知らない人ばっかりで……』


 この声。

 それに、このセリフ。

 水田さんで間違いない。


(それにしてもVTuberだったのか)


 考えもしなかった。

 隣に越してきた同い年の子が同じクラスに転校してきて、そのうえVTuberまでやってる。

 そんな偶然、あるのか?

 この業界のレッドオーシャンぶりを、まさかこんな身近なところで思い知らされるとは。


(……中の人と印象違いすぎだろ)


 現実の水田さんは陰キャそのものなのに、アバターはピンク髪で衣装もかなり際どい。

 いかにも活発そうな見た目だった。

 本人と一致しているのは、胸の大きさくらいだった。

 これが水田さんの理想の姿なのだろうか。


(同接は5人か)


 お世辞にも、規模の大きな配信とは言えなかった。

 0人よりはマシだが、底辺には変わりない。


 意外にも、活動歴自体はかなり長かった。

 チャンネルの開設時期を見ると、すでに一年以上経っていた。

 アーカイブを遡ると、サボっているどころか、ほぼ毎日のように配信していた。


(なぜ伸びないのかはだいたい察しがつくが……)


 僕が気にするようなことじゃない。

 ともかく今大事なのは、水田さんに声のボリュームを落としてもらうことだ。


 僕はキーボードに手を伸ばし、コメントを打ち込んだ。


『突然失礼します。隣人です。窓が開いていて、声が丸聞こえです』


 僕のコメントが目に入ったのか、画面のアバターの視線が泳いだ。

 次の瞬間、画面の中の彼女がハッと目を見開いた。

 ガタッと椅子が鳴り、慌てて立ち上がる気配が伝わってきた。

 間髪入れず、ガラッ!と隣の窓が勢いよく閉まった。


「あ、あの……。ほ、本当にお隣さんですか? もしかして、ス、ストーカーじゃないですよね……?」


 マイク越しに、水田さんの震える声が届いた。

 いや、ストーカーって。

 ……でも、よく考えれば、そう勘違いされても仕方ないことをしていたな、僕。

 あまりのうるささに、少し頭に血が上っていたようだ。


『僕、クラスメイトでもあるんですよ』

「え、えっ……? う、嘘……」

『とりあえず、僕のイニシャルはK.T.です』

「す、すみません、全然記憶にないんですけど……」


 いや、今日クラス全員が順番に簡単な自己紹介をしたはずなのに。


『僕の後ろの席にいた、窓際のイケメンなら覚えてますか』

「あ、その人は覚えてます」


 やっぱりか。

 分かってはいたが、なんだか悔しい。

 別に水田さんに覚えてほしかったわけじゃないのに。


『そのイケメンの前に座っていたのが僕です』

「そ、それじゃ本当にクラスメイトで、お隣さん……?」

『はい。先ほどインターホンを鳴らしたのですが、出てきていただけなかったので、仕方なくコメントしました』

「あ、す、すみません……。私、リアルの人間はちょっと怖くて……」

『ええ、まあ……こちらこそすみません。とにかく声のボリューム、もう少し抑えてもらえると助かります。では』


 コメントを送信すると、ノートPCをパタンと閉じた。

 もうこれ以上関わることもないだろう。

 そう思いながら、再び参考書へ意識を戻した。



 ◇



 ――その予想は、あっさり裏切られた。


 翌日の午後。

 いつも通り下校し、部屋で勉強に取りかかろうとした、その矢先――


 ピンポーン。


 不意に、うちのインターホンが鳴った。

 宅配便が届く予定もない。一体誰だろうか。

 首を傾げながら、インターホンのモニターを覗き込んだ。


「あ、あの……み、水田ですぅ……。昨日のこと、ちゃんと謝りに行きなさいって……お、お母さんに言われてぇ……」


 正直すぎるだろ。

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