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幼馴染を男ライバーに奪われゴミ扱いされた僕、隣の陰キャVTuberに神扱いされて初恋ごと捨てる  作者: おなきく


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第2話 地味な転校生

 新学期を迎えた。

 いつもなら、近所の幼馴染――結衣(ゆえ)と並んで登校しているはずだった。

 けれど今日は、僕一人だった。

 案の定、電話もラインもツイッターも全部ブロックされていた。


(まあ、むしろこれでよかったんだ)


 僕も新学期が始まる前に、結衣との思い出の品も写真も全部処分した。

 持っていても、未練が残るだけだ。

 どうせ結衣も、同じように処分したはずだ。


 学校に着いて、掲示板で自分の新しいクラスを確認した。


(2年3組か)


 幸い、結衣は1組らしい。

 同じクラスだったら、気まずいどころじゃ済まなかった。

 内心ヒヤヒヤしていた分、少しだけホッとした。

 ……とはいえ、無意識に結衣の名前を探してしまう癖は、早く直さないとな。


 2年3組の教室に足を踏み入れ、自分の席を見つけて腰を下ろした。


「よお、小町(こまち)


 後ろの席から、聞き慣れた声が飛んできた。

 僕は振り向きざまに答えた。


「またお前かよ、山本(やまもと)

「いやー、俺も驚いたぜ。まさか中1からずっと同じクラスになるとはな」


 山本は数少ない友達で、オタク仲間だ。

 僕と違って背が高く、同性から見てもイケメン。

 だからモテるし、彼女が途切れたこともない。


 山本はふいに教室をきょろきょろと見回した。

 誰かを探しているようだ。


相澤(あいざわ)さんは今回同じクラスじゃないみたいだな。残念だったな」

「あ、結衣は……」


 そういえば、こいつにはまだ言ってなかったな。

 どう説明したものかと頭を掻いた。


「実は振られたんだ」

「え? マジ? 告白したの?」

「まあ、そんなとこ」


 そもそも振られると分かってて告白したようなものだったけど。


「じゃあ、クラス離れてむしろよかったってことか?」

「そうだな。だからまあ、結衣の話はあんまりしないでもらえると助かる」

「分かった。じゃあこの話でもしようぜ」


 山本がスマホを取り出して画面を見せてきた。


「昨日テルコちゃんの配信見たか? いやー、めっちゃ可愛かったわ」

「あー、その……僕、実はもうテルコちゃん見てないんだよね」

「え? お前、あんなに好きだったじゃん。そもそも布教してきたの、お前だろ」

「そ、それはそうなんだけど……」

「あ、分かった。相澤さんと声が似てるからだろ。余計なこと思い出しちゃうんだな」

「ま、まあ、そうだな」


 実は結衣がテルコちゃんだなんて、口が裂けても言えない。

 こんなことになるなら、山本に布教なんてしなきゃよかったと後悔した。


 山本が僕の肩に手を置いた。


「元気出せって。女の子なんて星の数ほどいるんだからさ」

「うちの親父と同じこと言ってるよ。もうちょっとひねりのある言葉ないの?」

「わざわざ男を慰めたくねーよ」

「この野郎」

「あ、ちょっと待って。彼女からライン」

「このクソ陽キャ」


 少しイラッとしたが、こうして軽口を叩き合えるおかげで気が紛れた。


 やがて、新しい担任が教室に入ってきて、手短かに自己紹介を済ませた。

 僕は頬杖をついたまま、その様子をぼんやり眺めていた。

 正直、少し退屈だった。


「じゃあ転校生を紹介するわね。はい、入って」


 ガラッとドアが開き、女の子が一人、おずおずと教室に入ってきた。

 手入れの行き届いていない、長い黒髪。

 一目で緊張しているのが分かるほど、足取りはぎこちなかった。


(……それより猫背やばいな)


 僕もパソコンを使うから人のことは言えないが、この子の猫背は比べものにならないほどだった。

 しかも、伸び放題の前髪のせいで顔もよく見えない。

 まさに教科書通りの陰キャオーラが全身からダダ漏れだった。


「あ、あの……その……」


 女の子は小さく息を呑んで、俯いたまま言葉を続けた。


水田(みずた)芽生(めい)です……。よ、よろしくお願いします……」


 語尾は、ほとんど消え入りそうだった。

 それにしても水田か。

 まさか、父さんから聞いていた隣に越してきた水田家の娘が、この子なのか?


 妙な縁を感じつつも、僕はすぐに思い直した。


(まあ、たまにすれ違って挨拶する程度で終わるだろうな)


 漫画じゃあるまいし、美少女転校生とどうこうなるイベントなんて起きるわけがない。

 だいたい、漫画なら幼馴染の女の子と両思いになるのが定番だが、現実の僕を見れば分かるだろう。

 そんな都合のいい話はない。


「じゃあ水田さん、あそこの空いてる席へ」

「は、はい……」


 もちろん、転校生が偶然僕の隣の席になる、なんてお約束もなかった。



 ◇



 その後、特に水田さんと話すこともなく昼休みを迎えた。

 いつもなら結衣と食べていた昼飯も、今日は山本と二人、学食で済ませることになった。


「そういえばお前、彼女は?」

「あ、言ってなかったっけ? 今の彼女、他校だからさ」


 今の彼女、なんて言葉がさらっと出るあたり、こいつとは生きている世界が違う。

 普段なら茶化して終わるところだ。

 それなのに、失恋したばかりの今は、少しだけこいつが羨ましかった。

 僕ももっとこいつみたいにイケメンだったら、結衣とうまくいったのかな、なんて。


「そういえば、転校生のことだけど」

「水田さん?」

「ああ」


 山本がカレーを一口食べてから言葉を続けた。


「なんか可愛い子じゃなくて、めっちゃ地味だったな」

「え?」

「え?」

「何言ってんだよ。あれが地味だって?」


 確かにおしゃれっ気はゼロで、身を縮めてもいた。

 前髪と猫背で顔も体つきも隠れていたけど――女慣れしている山本なら気づくと思ったのに。


「水田さん、顔も結構可愛かったし、その……ここ、めっちゃデカかったぞ?」


 僕は声を潜めながら自分の胸元を指さした。

 すると、山本が目を丸くした。


「え、マジで? 全然気づかなかったわ」

「雰囲気が地味なだけで、ちゃんと整えたらかなり化けると思うぞ?」

「へえ……。お前、昔から妙に見る目あるからな。いっそお前が水田さんを垢抜けさせてみたらどうだ?」

「いや、なんで僕が」


 それに、いきなり垢抜けさせてやる、なんて言うのも普通に失礼だし。


「お前にも春が来るといいのにな」

「うるさい」


 そんなこと言うなら紹介でもしてくれよ。

 まあ、別にこいつにも悪気があるわけじゃないんだろうけど。



 ◇



 家に帰るなり、ベッドに寝転がった。

 いつも通り誰もいない家なのに、今日はやけに寂しかった。

 ゲームも漫画も小説も、いまいち手につかない。

 ユーチューブを開けば、おすすめに結衣――テルコの配信が出てきそうで、さらに気が滅入る。


(こんな時だし、勉強でもしとくか)


 もともと、成績はそこまで悪くなかった。

 それが、結衣のVTuber活動を手伝ううちに勉強は後回しになり、気づけばガクッと落ちていた。

 付き合っていたわけでもないし、彼女が僕の人生の責任を取ってくれるわけでもない。

 それなのに、どうしてあんなに必死になっていたんだろうな。

 女にうつつを抜かして人生を棒に振る、とはよく言ったものだ。


 机に向かって勉強を始めた。


(……遅れを取り戻すには、結構時間がかかりそうだな)


 始めてみると、思っていた以上にあっさり行き詰まった。

 少なくとも大学には行かないといけないのに。

 シャーペンの尻でこめかみを掻き、ため息をついた。


 ――その時だった。


「きょ、今日はですね! 転校初日だったんですけど、す、すっごく緊張しちゃって! 周り知らない人ばっかりで……。あ、私、前の学校でも全員知らない人みたいなもんでしたけど。それでも、みんな優しい……ですよね? わ、私、陰キャっぽすぎてイジられたりしませんよね……?」


 窓越しに、やけにハイテンションな話し声が聞こえてきた。

 うちは隣家との距離が近すぎる。

 しかも古い造りのせいか、窓を閉めていても声が丸聞こえになるのだ。

 それにしても、この声は今朝聞いた水田さんに似ている。

 ただ、誰かと電話しているというより、ネット配信でもしているような口調だった。


(もしかしてVTuberだったり?)


 いや、ないない。そんなわけがない。

 苦笑いして、とりあえず聞き流した。

 そのうち簡易防音室でも設置してくれ、と心の中で祈った。


 しかし――


「うおおおおっ……! あ、だめ! や、やられる!! あ、あああっ……!! や、やられた!! うあああっ――!!」


 声量は、さらに跳ね上がった。

 もう勉強どころではない。

 配信だからリアクションが大事なのは分かる。

 けれど、これはさすがにうるさすぎる。


(よし、一言言っておこう)


 これから隣人として付き合っていく以上、配信そのものに文句を言うつもりはない。

 とはいえ、ずっと我慢しているわけにもいかない。

 せめて防音カーテンや吸音材、マイクのセッティングくらいは、やんわり提案してみよう。


 そう心に決めて、僕は玄関へと向かった。

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