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ポンコツVTuberの育て方~僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生をプロデュースしたら神扱いされた~  作者: おなきく


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第23話 勇気の出し方

 なんとか父さんの誤解を解き、再び一階へ降りた。

 ……肝心の勉強はまったくできなかったな。

 なんでよりによって今日、父さんは早く帰ってきたんだろう。


 三人で食卓を囲む。

 中央のカセットコンロでは、鍋がぐつぐつと煮えていた。


水田(みずた)さん、楽にしてていいよ」

「で、で、でもお父様の前ですしぃ……」

「いや、お父様って……」


 はははっ、と父さんが豪快に笑った。


「まさか本当に隣のお嬢さんとそんな仲になるとはな!」

「え? ど、どういうことですかぁ……?」

「いやいや、水田さんは気にしなくていいよ」


 正直言って、この連続する偶然には未だに驚かされる。

 隣に越してきたのは同い年の女の子で、しかも同じクラスに転校してきて、おまけにVTuber。

 そのうえ、僕が正体を知ってしまうなんて。

 ここまで偶然が重なる確率は、宝くじの当選確率と大差ない気がする。


 父さんが水田さんに尋ねた。


「そっちのご両親は、(たすく)のこと知ってるの?」

「は、はいぃ……」


 水田さんは父さんと目を合わせられず、うつむいて答えた。

 この人見知り、いつになったら直るんだろう。

 この先チャンネルがもっと大きくなって、ファンミを開くことになったら、このままじゃ困るだろうに。


「で、ご両親は翼のことをどこまで知ってるの?」

「ええっと……名前と年齢、顔と声、あとユーチューブのアカウントくらいです」

「いやいや、なんで知ってるの?」


 思わず会話に割り込んだ。

 僕は水田さんのご両親と直接会ったことなんてないのに、どうして僕の顔や声を知ってるんだ?

 ……ユーチューブのアカウントのことも気になったが、ひとまずスルーした。


「あ、いや、それが……」


 水田さんが僕の顔をチラチラと見た。

 とても言いにくそうに。


「と、撮りましたぁ……」

「え? どういう意味ですか?」

「そ、それがぁ……」


 水田さんはスマホを取り出し、画面を僕に向けた。

 そこには、教室で僕と山本(やまもと)が話している動画が映っていた。


「と、盗撮を……」

「……」


 いや、一体いつ撮ったんだ?

 そもそもなぜ?

 水田さんの数々の奇行を見てきたが、今回ばかりはさすがに理解が追いつかなかった。


 僕が言葉を失っていると、水田さんは慌てたように何度も頭を下げた。


「す、すみませんっ……! 私、なんでもしますから、嫌いにならないでくださいぃ……!!」

「いやいや、僕は別に撮られたこと自体は気にしてませんよ」


 変な格好だったわけでもないし。


「でも一体なぜ撮ったんですか?」


 それに、なぜそれをご両親に見せたのだろう。

 単に、ご両親が僕のことを気にしたからか?


「あ、いや、それが……」


 水田さんは胸元で指先を絡ませた。


「い、いくら小町(こまち)さんでも、そ、それだけは絶対に言えませんっ……!」

「ええ……」


 本当に何に使うつもりなんだ。

 むしろ、ますます怪しいんだけど。


「まあ、いいじゃないか」


 父さんが鍋に肉を入れながら言った。


「俺だってな、お前くらいの歳の頃は好きな女の子の写真とか集めたりしてたもんだよ」

「父さん、それ普通に犯罪」

「いや普通に写真だけなのに!?」

「普通にキモい」


 制服姿のJKの写真にハァハァする父さんを想像した瞬間、その背後に刑務所の鉄格子が重なって見えた。

 まあ、当時の父さんだって制服姿だったんだろうけど。


 すると水田さんがびくっと大きく肩を震わせ、しゃくり上げるような声を漏らした。


「こ、小町さぁん……。異性の写真集めるのって、そんなにキモいですかぁ……?」

「え? どういう意味ですか?」


 さっきの動画一本だけじゃなかったのか?


「……もしかしてネットに上げるんじゃないですよね?」

「ち、違いますぅ……!!」


 水田さんが慌てて両手をぶんぶんと振った。


「た、ただ普通に……。撮った写真をコンビニで印刷して部屋に貼っておけば、ヤンデレっぽく見えるかなって思って……」


 全然普通じゃないんだけど。

 それになんで急にヤンデレなんだ。

 思えば、飾りの絆創膏の件もあったし、今さら驚くほどのことでもないか。

 ……そもそもVTuberを始めたきっかけだって、メンヘラヒロインへの憧れみたいなものだったし。


 水田さんは両手の人差し指をちょんちょんと合わせながら、僕を見上げた。


「め、迷惑ですかぁ……?」

「いや、まあ……。あまり変なことでなければ構いませんよ」


 なぜよりによって、僕がヤンデレを演出するための相手役に選ばれたのかは分からないけど。


 父さんがニヤリと笑いながらスマホを取り出した。


「俺も実は、翼を隠し撮りした写真が――」

「父さんは普通にキモいから却下」

「なんで!? なんで俺は駄目なんだ!? 差別だ!」

「JKとおっさんは別の種族だから」

「くっ! これだから最近の若者は!」

「あ、肉も煮えたし、そろそろ食べよう」


 そんな冗談を父さんと交わしながら、すき焼きに箸をつけた。

 すると、父さんのほうをちらちらとうかがっていた水田さんが、意を決したように口を開いた。


「あ、あのぉ……! さっき言ってた写真、お、送ってもらえませんかぁ……?」


 なんでそういう時だけ勇気を出すんだよ。



 ◇



 その後は何事もなく夕食を終え、僕は水田さんを家まで送っていった。

 家まで送るといっても、すぐ隣だから大して意味はなかったけど。


(結局、勉強はまともにできなかったな)


 机に向かっても、明日の小テストは大丈夫だろうかと、水田さんのことが気になって仕方がなかった。

 ……自分から進んで勉強するタイプには見えないしな。


 ノートを開き、今回の小テスト範囲をスマホで撮って、ラインで送った。


『このあたりを丸暗記すれば、ある程度はカバーできるはずです。満点は厳しいでしょうけど』


 送信して数秒も経たないうちに、ピコン、と返信が届いた。


『やっぱり神様!! あとできちんとお返ししますね!!』


 お返しか。

 どんなお返しなのだろう、とつい期待してしまう。


 一通り勉強を終えて、ベッドに横になった。


(今日も水田さん、配信してるんだろうな)


 スマホのロックを解除し、ユーチューブを開いた。

 ピンク髪のキャラクターが描かれた配信サムネイルをタップした。

 今日は、可愛いモンスターたちと一緒に村を作るゲーム『ポコランド』をプレイしていた。

 ……もっとも、先月の頭にリリースされたゲームだから、もう今さら感はあるけど。


(それにしても『サキュミ』ってどういう意味なんだろう)


 水田さんのチャンネル名は、前からずっと気になっていた。

 今度聞いてみようか。

 まさかサキュバスから取ったんじゃないよな?

 ピンク髪のキャラだし、サキュバス由来でも似合ってはいるけど。


 そんなことを考えているうちに、いつしか眠りに落ちていた。


「こ、小町さぁ〜ん……」


 耳元をくすぐるような声に、僕は目を覚ました。

 なんだ……?

 目をこすっているうちに、ぼやけた視界のなかで、声の主が少しずつ像を結んでいった。


「お、おはようございますぅ……」

「み、水田さん……?」

「は、はいぃ、水田です……」


 あ、そういえば朝、起こしに来てくれることになってたっけ。

 本当に来てくれたんだな。

 それにしても、女の子に起こされるのって、思ったより恥ずかしいな。


 上体を起こすと、腹の上に乗っていたスマホが、ぽとりとベッドへ落ちた。


「ふ、ふえ……? 小町さん、私の配信ずっと見てたんですかぁ……?」

「え? あ、はい」


 どうやら配信を見ながら寝落ちしてしまったらしい。

 まあ、夜配信なら、僕みたいに寝落ちするリスナーだって多いだろう。

 そう自分に言い訳していると、水田さんはいつも以上に頬を赤く染め、もじもじと指先を絡ませた。


「そ、それじゃあ私の配信を見て朝から大きく……」

「……え?」


 その瞬間、頭が真っ白になった。

 けれど、その言葉の意味を理解するのに数秒もかからなかった。


「いやいやいや、違いますから! 生理現象ですから!」

「わ、分かりますぅ……! やっぱり男の子ならムラムラするのは生理現象ですもんねぇ……!!」

「違います!!」


 いっそ罵倒してほしいと思った。

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