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僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生を垢抜けさせたら、僕を神扱いするヤンデレ美少女が元幼馴染のすべてを奪い始めた  作者: おなきく


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第20話 元幼馴染と信者

 教室に戻って水田(みずた)さんの鞄を取り、ようやく帰路についた。

 てっきり、この前みたいに普通に一緒に歩いて帰るものだと思っていたのに――


「ひいぃっ……。私、なんでもしますから、ど、どうか守ってくださいぃ……」


 水田さんは僕のシャツの裾をギュッと掴み、背中に隠れるように歩いていた。

 すれ違う人が視線を向けるたびに、彼女はさらに小さく身を縮めていく。

 その怯えようは、週末のモールで見た彼女と重なって見えた。


「水田さん、いくらなんでも男相手に『なんでもする』なんて言っちゃダメですよ」


 もちろん、そういう意味で言ったわけじゃないだろうけど。


 ところが水田さんは、なぜか顔を赤らめながら小さく呟いた。


「男じゃなくて、小町(こまち)さんに言ったんですぅ……」


 え、それってどういう意味だ。

 僕が男としてまったく見られてないってこと?

 それとも……。


 戸惑う僕の横から、不意に聞き慣れた声が飛んできた。


「へえ、キモオタのくせに、さっそく代わりの女の子を見つけたの?」


 その声を聞いた途端、水田さんは「ひいぃっ……!」と悲鳴を上げた。

 次の瞬間には僕の背中にぴたりと張りつき、完全に僕を盾にする。


 声のした方へ振り向くと、そこには今さら会いたくもない人物が立っていた。


「……一生話しかけないんじゃなかったのか、結衣(ゆえ)?」


 そう、僕を切り捨てた元幼馴染だった。

 以前はこの上なく綺麗だと思っていた声なのに、今は自分でも驚くほど冷ややかで、苛立ちしか湧いてこない。


「別に、あんたに話しかけたわけじゃないんだけど? そっちの女の子に忠告してあげたくて」


 結衣は腕を組んだまま、水田さんへ近づいてきた。

 だが水田さんはシャツから手を離さないまま、僕を軸にくるくると逃げ回るばかりだった。

 どうしても顔を合わせたくないらしい。


「何よ、この子。あ、そういうこと? 急にすっごく可愛くなった女の子が隣のクラスにいるって聞いてたけど、その子? へえ、あんた昔から黒髪ロングが好みだったから、自分の趣味に合わせてプロデュースしたってわけ?」

「別にそういうわけじゃ……」

「え? こ、小町さん、黒髪ロングが好みなんですかぁ……?」


 別に隠すつもりはなかったが、妙な形でバレてしまった。

 ……少し引かれたかもしれない。

 気の利いた言い訳も思い浮かばず、僕はただ黙り込んだ。

 ところが、水田さんが小さく笑い始めた。


「へへ、えへへ……。私、小町さんの好みの女の子になれたんですね」


 理由は分からないが、むしろ喜んでいるようだった。

 水田さんは、やはり底が知れない。


 結衣が呆れたように鼻で笑った。


「そこのあんたさ、こいつのこと何も知らないんでしょ? こいつ、見た目と違ってすっごく陰湿だからね。外見に騙されない方がいいわよ。無害を装ってるけど腹黒い最低の奴なんだから」


 まさか、僕に可愛い女の子がくっついているのが気に入らなくて、わざわざ悪口を吹き込みに来たのか?

 結衣って、こんなに醜い人間だっけ。


 僕が思わず顔をしかめると、水田さんは相変わらず僕の背後に隠れたまま、それでも勇気を振り絞って言い返した。


「あ、あのぉ……。私、小町さんのことを、無害だとか、これっぽっちも汚れのない純粋さの結晶だとか、そんなふうには思ってませんけどぉ……?」

「「え?」」


 僕も結衣も、予想外の返答に戸惑いの声を漏らした。


「だ、だって、そんな人いませんから。むしろ、そういう一面が全くない人の方がおかしいっていうか……。私だって、陰湿なところがまるでないわけじゃないし、変なことだって考えますし」


 確かに、水田さんには純粋なところもあるが、かなり危ういことを考えている節もある。


 彼女は僕の顔をチラチラと窺いながら言葉を続けた。


「だ、だからぁ……! お二人がどういう関係なのかは知りませんけど、私にとって小町さんは、なくてはならない存在というか、神様なんですぅ……!!」

「か、神様?」


 水田さんの気持ちはありがたいけど、その言い方はちょっと……。

 結衣も呆気にとられたように目をパチパチさせている。


「ふん、何だか知らないけど、お似合いじゃない。後悔しないことね。私は警告したから」

「へへ、へへへ……。小町さん、私たちお似合いだそうです」

「……」


 どう解釈したらそうなるんだ。

 明らかに皮肉だろうに。

 もしかすると水田さんには、人の言葉を自分に都合よく解釈する才能があるのかもしれない。


 結衣はぷいっと顔を背け、足早に去っていった。

 水田さんはその後ろ姿を眺めながら、ぽつりと呟いた。


「なんだか、テルコの声にすごく似てますね。不思議です」


 僕の肩がびくりと跳ねた。

 いや、どうしてこういう時だけ勘が鋭いんだ。


 僕は作り笑いでごまかし、再び足を速めた。

 すると、僕の背後でシャツを掴んだままの水田さんが、恐る恐る尋ねてきた。


「あ、あのぉ……。さっきの、ゆ、ゆ……ゆなんとかさんとは、どういう関係なんですかぁ……?」

「結衣です。相澤(あいざわ)結衣」


 どう説明したものか。

 わざわざ結衣が初恋だったことまで話す必要はあるだろうか。

 VTuber絡みの話など、なおさらできるはずがない。


「まあ、ただの……昔からの幼馴染です」

「え、ええっ!? こ、小町さんには、すでに幼馴染の女の子がいるんですか……?」

「さっきのやり取りで分かると思いますが、今は絶縁状態っていうか、敵対関係になっちゃいましたね」

「そうなんですねぇ……。それじゃあ、私が朝起こしに行くのなんて、別に小町さんにとっては特別なことじゃないんですね……?」

「いやいや、現実でそんなシチュエーション、少なくとも僕にはありませんよ」


 たまに思うのだが、水田さんはフィクションを少し真に受けすぎるきらいがある。


「そ、それじゃあ……」


 水田さんは僕をチラチラと見つめながら言葉を継いだ。


「私が相澤さんの代わりみたいになれたら、小町さんは喜んでくれますか……?」


 この質問の真意は何だろう。

 まさか、僕が結衣に抱いていた気持ちに感づいたとでもいうのか。


 意図は分からないが、僕が言うべきことは一つしかない。

 僕はすぐさま首を横に振る。


「結衣は結衣、水田さんは水田さんです。僕は、水田さんだからこそ、こうして一緒にいるんです」


 そう、結衣の代わりだなんて思ったことは一度もない。

 そんなのは水田さんに失礼だし、そもそも二人はほとんど似ていない。

 突拍子もないところはあるが、僕を気遣い、僕のためを思ってくれる彼女が、ただただ可愛くて、ありがたかった。


「へへ、へへへ……」


 水田さんの顔が、とろけるように緩んだ。


「小町さん、すっごく恥ずかしいセリフを平気で言いますね。ごちそうさまでしたぁ……!」

「……二度と言いませんからね」


 途端に、熱が顔にのぼった。



 ◇



 僕の家の前に着いてから10分。

 僕たちはまだ中に入れず、ただ立ち尽くしていた。

 その理由は――


「水田さん、心の準備はまだですか?」

「ま、まだですぅ……!」


 そう、水田さんが極度に緊張しているからだ。

 父さんが仕事から帰ってくるまで、まだ少し時間があるというのに。


「こ、小町さぁん……!」

「はい」

「や、やっぱり土下座して『息子さんを私にください』って言った方がいいでしょうかぁ……!?」

「……」


 いったいどんな挨拶をするつもりなんだ。

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