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僕をゴミ扱いした幼馴染を見限り、隣の地味な転校生を垢抜けさせたら美少女になって懐かれました  作者: おなきく


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12/18

第12話 自分でも気づかなかった長所

 確かに水田(みずた)さんの言う通り、最近は実写カメラを取り入れたVTuber配信も増えてきている。

 ただ、それが完全に主流かといえば、まだ微妙なところだ。

 抵抗を感じるリスナーも少なくない。

 何よりも――


「水田さん、カメラの前で緊張せずにいられる自信、ありますか?」


 そう。どう考えても、今の彼女にはハードルが高すぎる。

 もちろん、資料に書かれたスリーサイズを見る限り、目を引くのは間違いない。

 しかし、僕たちはグラビア写真やコスプレの画像を売っているわけではない。

 配信そのものの面白さが大前提なのだ。


「そ、それは……」


 やはり水田さんは即答できず、目を逸らした。

 一対一の会話すらままならない彼女が、ネットの向こうの大勢を相手に、震えずに受け答えできるか?

 答えは否だ。

 今はアバターという仮面があるから、独り言みたいに喋れる。

 それで辛うじて配信が成り立ってるだけだ。


「まあ、でもカメラは首から下までならOKってことですよね」

「あ、は、はいぃ……!」

「それならコンテンツはちょっと作りやすくなりますね」


 2Dのままじゃ、どうしても企画の幅に限界が出る。

 3Dモデルを使えば幅は広がるが、とんでもなく金がかかる。


「それに、水田さんのスタイルを活かすにしても、あまり露骨すぎるのはよくないですよ」

「え? そ、そうなんですか」

「下手をすると、そっち系の空気に引っ張られかねませんからね。水田さんだって、別にそういう方向性を目指してるわけじゃないでしょう」


 ご両親がVTuber活動を認めてくれたとはいえ、そこまで踏み込むことまでは許していないはずだ。


「そ、それはそうですねぇ……」

「だからまあ、例えば料理配信をしながら、さりげなくスタイルの良さが際立つコーデにするとか」

「な、なるほど……。露骨にアピールするんじゃなくて、さりげなく」

「そうです。むしろその方がSNSなんかでも話題になりやすいですからね」


 それに、メリハリも必要だ。

 あくまでメインはVTuber。

 中の人が見えすぎると、リスナーの没入感を削いでしまう。


「スタイルの良さが際立つ服……。童貞を殺すセーター、とかですか」

「……」


 僕、たった今、露骨すぎるのはアウトだって言わなかったっけ?



 ◇



 その後は約束通り、一緒にゲームをした。

 流れで例のゾンビゲームだけでなく、二人で遊べる別のゲームにも手を出した。


「こ、小町(こまち)さん、上手すぎじゃないですかぁ……」

「いや、水田さんが下手なんですよ」

「ひどいですぅ……」


 実のところ、僕はどんなゲームでも平均よりほんの少し上手い程度だ。

 水田さんはちょうど平均くらい。僕はそこから半歩だけ上手いから、勝ちやすい。それだけだ。

 ただ、ゲームに対する執念だけは、彼女のほうが恐ろしいほど強かった。


「少し休憩しましょうか」

「はいぃ……」

「あ、そういえばお昼、食べました?」

「あ、いえ、まだ」

「じゃあ、僕が何か作りましょうか」

「え? 小町さんって、自分で料理できるんですか」

「ええ。こう見えても、同年代の男子の中ではできるほうなんですよ」


 両親が離婚したのは僕が小学生の頃だ。

 あれから五年、つべこべ言っている暇もなく家事をこなすうちに、いつの間にか上達していた。


「そ、それじゃあ私、この前お弁当作ってきたとき、内心めちゃくちゃ笑ってたんじゃ……」

「いやいや、そんなわけないですよ。正直、好きで料理してるわけじゃないですから」


 弁当は結衣(ゆえ)のこともあったし、うちの学校には学食もある。

 だから、わざわざ作るのが面倒だっただけだ。


「こんなこと言うと引かれるかもですけど……他の人が作ってくれた手料理、久しぶりだったんです。ちょっと感動しました」

「え? そ、そうなんですか」

「はい。実はうち、両親が離婚してて母親がいないんですよ」

「あ、ああ……」


 水田さんの肩が、びくっと跳ねた。

 しまった、少し重い話をしてしまったか。

 僕自身はとうに吹っ切れているんだけどな。


 空気を変えるため、わざと冗談めかして言った。


「水田さんのお弁当、ママみたいでしたよ。そう、まるで水田ママ」

「み、水田ママ……」


 キモい、とツッコんでほしかった。

 ところが、返ってきたのは意外な言葉だった。


「うへ、うへへ……。水田ママぁ……。ママって響き、なんだかすっごくいいですねぇ……」


 水田さんが両手を頬に当て、うっとりと頬ずりした。

 何か変なスイッチを押してしまったような。


 僕は急いで話題を変えることにした。


「あ、そうだ。水田さん、一緒に料理しましょうか」

「え? い、一緒にですか」

「はい。最近料理を始めたばかりじゃないですか。料理をコンテンツにするつもりなら、今のうちに色々覚えておいたほうがいいですから」


 もちろん、学びながらやっていくスタイルもアリだろうが、あまりにも下手すぎると、リスナーは笑う前にイライラしてしまう。

 それに、一人で火を扱う以上、何も知らないと本当に危ないし。


「た、確かにそうですね。それじゃあよろしくお願いします、師匠……!」

「いや、師匠って大げさな」


 正直、この前の弁当を見る限り、僕が教えることなんて特にないかもしれない。


 ともあれ席を立ち、二人でキッチンに並んだ。

 冷蔵庫を開け、中身を見ながら何を作るか決めた。


「す、すごいです……。パッと見ただけで何が作れるか分かるなんて、本当にプロの主婦みたいですぅ……!」

「まあ、半分主婦ですからね」


 それにしてもプロの主婦ってなんだろう。

 アマチュアの主婦もいるのか?


 そんな些細な疑問を抱きつつ、昼食作りは僕の主導で始まった。

 アシスタントを任せてみると、水田さんの手際は思った以上によかった。


「本当に、料理はこの前が初めてなんですか」

「は、はいぃ……。ちょ、調理実習くらいはもちろんありましたけど。やっぱり何か私、間違ってますかぁ……」

「いやいや、逆です。上手すぎるくらいで」

「そ、そうですか……? へへ、実は私、他の勉強はダメでも、調理実習だけは先生によく褒められてたんですよ」


 水田さん自身が用意した自己紹介メモには載っていなかったが、もしかすると彼女は手先が器用なのかもしれない。

 それなら、カメラを取り入れることで展開できるコンテンツの幅がぐっと広がる。

 料理だけでなく、プラモデルの組み立てや、ちょっとした工作など。


「水田さん、今思いついたんですけど。次の宿題、こんなのはどうですか」

「え? な、何をですか……」

「僕にお弁当を作ってくれるところ、ですよ。それを一度、一人でVlog風に撮ってみてください」

「え、えええっ……!?」

「カメラを前にしたとき、水田さんが本当にいつも通り動けるか、確認してみるんです」


 ぶっつけ本番でライブに挑戦するよりは、よっぽどマシだろう。

 スタイルも含め、自分の長所を画面でどう見せるか考える機会にもなる。

 ついでに、カメラの操作にも慣れておく必要がある。


「で、でも私、カメラなんて持ってないんですけど……」

「ないわけないじゃないですか。もう持ってますよ」

「え?」

「スマホ」

「あ……!」


 水田さんがポケットから自分のスマホを取り出した。


「実は私、今までほとんどフェイストラッキング用にしか使ってなかったんです……」

「え? 普段使いのスマホを配信にも使ってるんですか」


 何かと不便だから、中古でもいいから配信専用にもう一台買ったほうがいいと思うんだけど。


「だってどうせ私にとってスマホなんて、朝のアラームくらいにしか使ってませんから……。あとは地震速報を受け取ったり、QRコードを読み取るくらい?」

「ラインとかは?」

「どうせインストールしても、ラインする相手がいませんからぁ……」


 いやまあ、僕だってラインの友達が多いわけじゃないけど……。

 少なくとも、家族とはやり取りするんじゃないか。


「あ、あの……。動画を撮ったら小町さんに送らなきゃいけないから、その……。ラインが便利ですよねぇ……」

「ええまあ、そうですね」

「そ、それじゃあ……」


 水田さんが顔を真っ赤に染めて言葉を続けた。


「私のラインの、最初の友達になってくれませんかぁ……」

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