2. イベント開始直前
細かい描写の修正いれました。
内容は変わってません。
イベント当日、私はサエさんと控室にいた。
こういうイベントにはゲストとして複数人呼ばれるもので、私の他に筋肉系お笑い芸人の篠山マッソォさんと、走ることに向いてなさそうな恰好をしているアイドルの三守涼音さんがいる。
これには意味があり、先頭集団付近を私が担当し、中盤をマッソォさん、走るより歩いて完走を目指す人は三守さんが担当と、まんべんなく交流するのだ。
証拠に三守さんの靴は見かけはブーツだが、ソールはMITHUOの物に入れ替えられている。
先ほどスタッフさんが入れ替えているのを見たので間違いない。
複数の著名人が集まるともなれば、交流のために差し入れを用意しようという思考が働く人もいる。
特に、親しい人間がいたり、売り出し中の人だったりはよくやる行為だ。
「お久しぶりです。琥翠緑子です。今日はよろしくお願いします」
「ああ! お久しぶりです。相変わらず良い筋肉していますね。よろしくお願いしマッソォ」
スポーツイベントでよくご一緒する機会が多いマッソォさんに挨拶をし、大会が近くないかを確認し、よかったらと私が用意した差し入れのフィナンシェを指さした。
「ありがとうございます。僕も美味しいプロテインクッキーもってきているので、どうぞ」
「こちらこそ、ありがとうございます。ラン前は取らないようにしているので、後でいただきますね」
マッソォさんは分かっているという笑顔で応えてくれた。
次に初対面となる三守さんの元へ向かう。
「初めまして、フリーでモデルをやっています。琥翠緑子です。今日はよろしくお願いします」
「わぁ、緑子ちゃんだぁ、本物だぁ。初めまして、銀河事務所の三守 涼音です。今日はよろしくお願いします」
どうやら、こちらのことは知ってくれているようだ。
銀河事務所は多くのアイドルを輩出している事務所で、三守さんはグループアイドルではなく、今時珍しい個人アイドルとして売り出されている。
それだけのことはあって、ひとつひとつの仕草がとても可愛らしい。
マッソォさんと同様に、よかったらとフィナンシェを勧める。
「ありがとうございます。私も地元で有名な豆に拘った浅煎りコーヒーを用意したので、どうぞー」
と指をさしたのは、大きなポット。
ポットに珈琲専門店の名前が書いてあるので、店に頼んで持ってきてもらったようだ。
いつ飲んでも良いようにと配慮してくれたのだろう。
「へぇ浅煎りですか、珍しいですね」
「一杯どうですか?」
差し出された紙コップに注がれたコーヒーを受け取り、匂いを嗅いでみる。
浅煎り特有のフルーティな花のようなフレグランスが強く、焙煎の香ばしさは控えめだ。
しかし、良い豆でないと酸味が強すぎてしまう傾向が強くなってしまう。
一口飲んでみる。
爽やかな酸味がフレグランスを乗せて、鼻に香りが昇っていく。
豆に拘ったという説明通り、ブレンドではなくシングルオリジンで雑味が感じられない。
細かく引いて93℃程度のやや低温で抽出されたのであろう、酸味はそこまで強く感じない。
あとからフルーティな香りが長く細く余韻を残していた。
その余韻からも、きめ細かく抽出されているのは明らかだった。
「これは、おいしいですね。ラン後にゆっくりと楽しみたいと思います」
私がそういうと、三守さんは褒められたと喜び、近くにいたスタッフさんにも差し入れですとポットを渡していた。
その時はそれ以上気に留めず、ウォーミングアップを始めることにした。




