5. 豆の故郷
「はい、そうですか。承知いたしました。……いえ、こちらこそよろしくお願いします」
サエさんが電話を切り、私を見ながらニンマリとしている。
「オススメコーヒー用の撮影決まり。ついでにラテ用のも追加よ」
プレ販売で起こった問題がら、コラボの開始日が1月延期となった。ただし期間は4ヶ月に延長。
それで、もっとオススメブレンドをプッシュしていこうということになり、『だったら個別にイメージ展開してはどうか』とサエさんが提案したものの回答だった。
「グリーンとブラックとブラウンの三色展開でグッズも売れる計算なんですよね」
宮内さんたち本部の立ち会いのもと、新藤さんが工場で確認した結果、正規のイルガチェフェ産の代わりにシダモのミックスが混ざっていた。
ロットで味が違つていたのは、I01、 J01を作った時は正規の材料で製造していたが、J02を製造する際に猫山商事さんが用意した豆がミックスだったことに気づいて、担当の津田さんに連絡したが「指定の豆は入っているんでしょ。なら問題ないよね」との回答だったとのこと。
確かにミックスされている中には近隣地域ということで指定の豆も入つているが、メインはシダマ州産の豆だ。
J02はまだ正規の豆が残つていたこともあり、残りと代替品。K01は代替品のみでブレンドすることになった。
同じエチオピア産で味は似ているかもしれないが、ブレンドに狂いが生じて酸味が前に来すぎるものになってしまったという流れだと、吉永さんから説明を受けた。
さらに工場からの正式な整理として、101は試作の最終ロットで元々数が少なく、試飲会用に量産へ切り替えるためJ系統としてJ01を製造。
その後、原料に別ロット(シダモ混在)が入ることが判明し、本来ならロットを分ける予定だったが、J02の製造には間に合わず。
以降の生産からは分離してK系として管理―ということだった。
その為J02の ブレンド量については、正確にはわからず再現するのは困難かと思われたが、私の提案が功を奏した形になった。
3つのブレンドの違いを言い当てたあのスタッフの2人を、今回だけでも開発に回すよう提言した。
特にラテだとおいしいと言った彼は、柔軟な発想で試したことが正解だった。そして、もう一人の彼も味の違いの細微について言及していた。
あの軌道を読む力は眠らせておくにはもったいなさすぎた。
彼らのやりたい事であればそのまま続けて欲しいものだ。
そういうわけで、新藤さんと2人の協力の元、J02の再現、さらにはもつと完成度の高いラテ用ブレンドを開発してくれた。
というわけでオススメラテの販売追加も決まり、最初の話に戻るというわけだ。
「グリーンは全体イメージ。ブラックでシックに、ブラウンはカジュアルに緑子の色んな姿を見てもらえるわね」
「私はいつでもカジュアルですけどね。性格の話ですけど」
ちなみに津田さんは、事情聴取を受けるということで、出頭する姿が小さなニュースとして放映されていた。
その際知り合いの様な影が見えたのだが、勘違いだろう。雰囲気が違い過ぎる。
「ちなみに気になったんで、例のシダモミックス飲んでみたんですよ」
「へえ~、相変わらず好きな物には節操ないわね。で、どうだったの?」
「今、サエさんが飲んでるものです」
一言でいえば、普通に美味しいコーヒーだ。
酸味は強めだが全然嫌な感じではなく、香りは低空飛行だが、その代わりにフローラルで、ちょっぴリスパイシーな味がアクセントになっていた。
「味で感じさせるブレンドですね。これはこれで完成してたんですよ。他の豆を加えちゃったから一から計算しなおさないといけない部類の物なんでしょうね」
そして、偶然ラテに適した物ができてしまった。
本来、猫山商事はムーンバックスに重大な契約違反となるところだったのを、津田さんの処分だけで済ませたのはこのラテのおかげという側面もある。
豆の故郷に感謝し、一から出直してくれるならいいんだけど……。
「ふふ、いい笑顔するようになったわね」
「焦ってませんからね」
王様の言いつけ通り、これまでは逃げる事を中心に考えて焦っていたんだろう。
でも、焦っていては見逃すことがある。そう王様のいう通り。




