12話:訪問
――時刻は夕刻、街に、灯がともりはじめている……光樹は、スマホを取り出すと、亜希に連絡をする。
「もしもし、先日、世話になった佐々木だが、今大丈夫か?」
やっぱり、初めて電話する相手に対しては、少々緊張するよな……
「あっ! 光樹かっ…… 何か用?」
最初に出た時の声は甲高い声をしていたが、相手が光樹とわかった瞬間、少々ドスのきいた声にかわった。
おい、俺ってわかった瞬間のこのかわりよう、相変わらず可愛げねぇなこいつ。
「何か用があるから電話してるんだ、えーとだな、野村先生から連絡は入ったか?」
「うん……連絡来て色々聞かれた……」
亜希の返事は少々歯切れが悪い。
「そうか、俺の方にも途中経過という事で、野村先生から連絡が来た、電話で伝えてもいいが、何分、デリケートな内容だから、直接会って説明したいんだが、時間は取れるか?」
「はぁ……別にいいけど? いつ?」
「明日又は、明後日の日中……って、学校だからダメか、んじゃ、終わった夕方くらいだとどうだ?」
「んっ……いいよ、じゃあ、何処で待ち合わせする?」
「もし可能であれば、家の状況を確認させてもらえると助かるんだが、大丈夫か?」
光樹は恐る恐る聞いてみた。
「えっ?! ウチ来るの? じゃあ……明後日で……」
亜希は、少々戸惑っていたが、了承してくれた。
「悪いな、じゃあ、17時くらいにいく。正直あんまり人を家にいれたくないだろうが、よろしく頼むな」
「わかった。じゃあ家で待ってる」
亜希との電話が終わる。
――翌日、光樹は亜希の家の前にいる。
「とりあえず、家に着いたが……よし、インターフォンを鳴らすかな」
光樹は玄関横にあるインターフォンのボタンを押すと、呼び鈴が鳴り、亜希の声が聞こえた。
「はい、吉田です」
「佐々木だが、大丈夫か?」
「うん、待って、今行くから」
音声通話が切れると、足音が近づき、玄関ドアが開く。
「よう、学校の後で疲れてるところ、悪いな」
亜希の格好は、制服のままだった。
着替える時間無かったのかな、そうだったらなんか申し訳ない。
「ううん、大丈夫、特に部活とかもしてないから、放課後は暇だし……えっと……あんまり片付いてないけど、どうぞ」
「おぅ……じゃあ、お邪魔します」
光樹は、亜希の自宅へ入ると、リビングに通してもらった。
「なんだ、綺麗じゃないか、なんなら俺の部屋なんかこれと比べると豚小屋だぞ」
光樹は部屋を見渡す、部屋の中はしっかりと整頓されていて、所々可愛らしい小物類などが飾ってある。正直、中古住宅としては状態の良い部類だろう。
光樹は、お客さんの家に行くとき、家の中の物を観察する、これは、職業病の一つでもある。そこには、お客さんと仲良くなるヒントが隠されているからである、例えば、趣味の物が目立てばその話を振ってみたり、旅行の写真であればその話題を振ったり……etc 営業はお客さんと共感するものが多いと信頼関係を築きやすくなるため、些細な話題から信頼してもらえるよう全力でコミュニケーションを取るのである。
「あぁ~、光樹の部屋って、いかにも独身男の部屋って感じだったね、あっ、飲み物はコーヒーでいい?」
「コーヒーで頼む、ブラックで大丈夫だ」
「わかった、ちょっと待ってて」
亜希は台所へ向かい、ポットでお湯を沸かすとコーヒーを持ってきた。
「はい、どうぞ、インスタントのやつだけど」
「別になんでもいいよ、とりあえず本題に入るが、大丈夫か」
「うん、わかった」
光樹は頭の中で話す内容を組み立てて説明する。
「端的に言うと、どんな選択肢であっても家は手放す可能性が高い、何処かで聞いたことがあると思うが、相続が発生すると、放棄するか、そのまま引き継ぐか選べる、放棄はその言葉の通りだ、逆に、相続する場合は、親の資産をそのまま引き継ぐ事になる、厳しい言い方になるが、亜希の母親は、保険を掛けていなかったため、月々の住宅ローンを払わなければ、家を売るしかない、一括で返済できればいいんだが、他に、資産等もあるわけじゃないらしいんだ」
光樹は、現状をストレートに伝えた、今までの経験則上、こういった内容は、ウソをついたり、取り繕った言い方をして相手に希望を持たせるとかえって相手に迷惑を掛けトラブルの原因になるからである。
光樹が現状を話した後、少々沈黙になり、続けて光樹は話す。
「正直、高校生にこんな話するのもどうかと思うがな……世の中、義理や人情でどうにもできない事ってたくさんあるんだ、まぁ、今即答する必要はないが、どうするかを決める時間もそう多くはない、俺が決めたわけじゃなくて、国が決めた事だからどうしようもないんだ」
亜希は下げていた顔を上げると、力強い声で話す。
「ん……わかった、あたし、相続する、家を売るのは正直嫌だけど、放棄して全部投げ出すのは、お母さんの思いまで投げ出すと思うから……それは嫌っ!」
こいつなかなか決断力あるな。色々と将来化けるかもしれんな。
「そうか、もう気持ちを固めたなら、あとは、任せろ。俺からも野村先生には話すが、本人の意思が無いとあっちも動けないから連絡を入れておいてくれ、それと、家を売るにあたって俺からもいくつ聞きたいことがある、わかる範囲で全然構わないから教えてくれ」
「うん、わかる範囲でいいんだよね?」
「あぁ、わかる範囲でいいぞ、ちなみに、先に行っておくが、悪いことは先に言えよ? 例えば、何処か雨漏りしてるとか、壊れてる所があるとか、些細な事でも構わない、隠すと後から、俺もだが、売主も責められる事になるぞ、これでトラブルになるケースは非常に多いから頼むな」
不動産売買に関しては、基本的には買主保護が強い、また、売主は瑕疵担保責任という負担を負う、これは、簡単に説明すると、隠れた傷と呼ばれるものだ、土地の場合であれば、買主が買った後、地中から産業廃棄物等がたくさん出てきたとか、中古戸建の場合は、雨漏りや、家が傾いてたりしてた等、目的を達せれないことが判明した場合、個人間売買の場合は、引き渡しから3ヶ月間の期間を設けて、その間に見つかった不具合は、売主が直して、あるべき姿にして引き渡すという内容だ(契約内容によっては免責にしたり期間を短くしたりするケースもある)。ちなみに、一般の個人が売主だと3ヶ月という短い期間だが、不動産業者が売主だと2年間という長い期間を設けなければならない(だから、業者が売る土地や、中古戸建は、後から見つかった不具合を直す費用も見込むため、市場より少々高い金額で販売してたりする)。
「悪い事…… う~ん、今のところ思いつくとこはないけど……」
「わかった、じゃあ、次だ、ちなみに、近所でちょっとかわった人とか、気難しい人とかいるか」
正直、これが一番怖い、数年前に、何処かで布団を叩いてるおばさんがいたが、あのような人が近隣にいると厳しい。
「う~ん…… 近所は正直挨拶するくらいだし……でも、そういえば、後ろのおじさんがよくお母さんと何か話してたような気がするけど……」
うむ、ちょっと気になるな、そういえば、登記簿にあった過去の売買数の多さ……もしかしたらその人がちょっと曲者かもしれんな。
「わかった、どっちにしても、売却をする際には、近所に挨拶に行くからその時にどんな人がいるか確認する。とりあえず、今日はこんな所でいいかな」
不動産屋は売却の依頼を受けたら近隣挨拶をする、中には、購入権当者や要注意人物がわかったりするケースが多い。
「うん、わかった。 これから、あたしどうすればいいの?」
「とりあえず、相続が決まったなら後は、野村先生に事務的にお願いする。同時に、家の売却をスタートさせるってとこかな、金額とかはどうする? 一応希望金額に応じるが、相場とかけ離れた金額で出して売れなくても俺は責任もてないからな」
「ん、光樹に全部任せる、あたしが考えても正直わからないし……」
「おぅ……別に悪いようにしないが、金額の件まで全部任せていいのかよ……」
「別に悪いようにはしないんでしょ? だったらお任せするっ!」
亜希の言葉を聞いた光樹は、久々に清々しい気持ちで仕事依頼を受けるのであった。
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