早速接触
さて、あれから五年経っておれも風変わりしているから、適当にとぼければバレないと思われる。
「だがテルシオに会わないってわけにはいかないよな」
情報によると王宮でハバをきかせているという。それ自体はどうでもいいが、王宮で暮らす以上、出くわさないわけがない。奴の顔を見たら廊下の隅の方に立って頭でも下げるか。
接触は最小限だ。
最近は地球の知識を持った者との話ばかりだから忘れているだろうが、テルシオは王宮では権力をフルに使って豪遊をしているのだ。
『一発でわかるな』
やたら美女ばかりを従えた列がある。先頭にいるのは完全にテルシオだ。目立ってくれるのは都合がいい。すぐに廊下の隅に向かって頭を下げる。
奴は俺の事に全く気付かない様子で通り過ぎていった。
俺の視線は下を向いているのだが、前に誰かが立っているのが見える。女性の足元が、俺の視界の端に映っているのだ。
「あの。あなたこの国の人間ではありませんね」
「はっ。先日王宮に召し抱えていただきました」
何か興味持たれたぞ。
これも忘れているだろうが俺の顔は美形だフェリエとの関係を公にしているため、悪い虫は寄ってこないがフェリエの目が届かない位置に来たら、女性の目にも止まるのだろう。
それは今の状況を考えれば厄介この上ない事だ。
「私はテルシオの情婦じゃないです」
「はい?」
どういう事だ? テルシオの情婦を寝取ったなんて事言われようもんなら一気にテルシオに目を付けられるだろうからビビッっていたが、そうでないなら、幾分状況はマシになった。
顔を上げるとどうも貴族とは思えない顔だちの子だった。
「碧眼なんてこの世界にもあったんですね」
そこに興味持たれたのかな?
「髪もきれいだしでもこの国の貴族ではないのでしょう? あ、この服の刺繍は見たことないです」
刺繍? これはいきなり当たりを引いたか?
服の刺繍というのは地域によって違いがある。服に付けている刺繍の柄でその人の出自を表すこともあるのだ。
「あなたは考古学者様?」
そう聞いてみる。
「はい。食客のアニーです。あなたの国の話に興味があります」
俺の目的が目の前にいた。
ちょっとお姫様扱いをしたらこの子は乗ってきた。結構チョロい。
余裕のある素振りを見せるがそれはちょっとの間だけだ。
「いや、考古学者様。あなたのお知恵を拝借したい事がありまして」
俺は国を追われてここに亡命をした貴族であるという設定を使って話し始めた。
「実は、薬の製法を知っている事からこの王宮になんとかとどまれたのですが、それだけでは不足があるのです」
他に何かないか? 何か戦争に役立つものの知識がないと、この王宮を追い出されてしまう。
王に親類をこの国に呼ぶという約束だけは取り付けた。その間だけでいいから時間を稼げるような知識はないかと聞く。
「戦争のための知識ですか……」
やばい。なんか暗い顔をしはじめたぞ。
石炭の話にもっていこうとしていたが、話し方が悪かったか。
アニーは立ち上がって、上流階級の真似事のような頭の下げ方をした。
「戦争の手伝いはしません」
俺に一礼をした後のアニーはそそくさと消えていってしまった。




