劇場にて
それから完成した劇場。重要な貴族と時間の空いた物好きのみが集まった。
客はまばらで、満席には程遠い状態だ。
「大丈夫なんだろうな」
「外れてもリスクはないでしょう?」
野ざらしの円形闘技場で演劇をする劇団に交渉してこの劇場で劇をしてもらうことになったらしい。
豪華な場所で国王の勅命として演劇を披露できると知り、身に余る光栄といっていた劇団のリーダーの男。
レイフェの考えた劇に仕立て屋に作らせた衣装。これらを使うのは初めてであると言っていた。
いままで普段着のままで劇をやっていたし、男の役を女がやっていた事もあるくらいだ、この国の劇はお粗末なものだった。
「ホント歌舞伎じゃないんだから」
歌舞伎は女の役に本物の女を使う事を禁止されたため、女形という役柄ができたのであって好んでやっているわけではない。
「始まるよ」
劇場の壁のたいまつが一つづつ消されていく。
レイフェとアニーが檀上の中心にいるヒーローとヒロインの二人にスポットライトを当てた。
「姫よ。君をさらってしまいたい」
「いけませんガノウム。私は隣国に嫁ぐ身です」
ガノウムという騎士とエリエスという王女の恋の伝説だ。
この国に生きるものならだれでも聞いた事のある昔話。ガノウムは殺され、エリエスはあとを追って自殺するというラストは皆知っている。
子供向けのおとぎ話である。
王とテルシオはその劇の続きを見た。
ガノウムが姫を愛してはならないと葛藤するさま。エリエスが国と国民のためにガノウムに冷たく当たる様。
エリエスの態度を見て絶望をするガノウムの様。母から聞いたおとぎ話では、見ることなどできないものだ。
おとぎ話になかったエリエスがガノウムにつらく当たってしまい、後悔をしながら自分の行動が正しいと自身に言い聞かせる、葛藤に沈む様が演じられる。
王とテルシオの二人が、生唾を飲みこんだ。
子供向けのおとぎ話が、迫真の演技でここまで美しく映るものとは思っていなかった。
ガノウムが殺され、首級を見せつけられたエリエスは最初はガノウムの頭を踏みつける。
『これでよろしいでしょうか?』
そう言うエリエスの表情が声色が、彼女の胸の内を語ってくれた。
『ガノウムはこの国に巣くう悪魔だ。目を覚ませ』
王の役からそう言われ、エリエスは頷く。
『お父様。私は今までどうかしていました』
ペコリと頭を下げて退出したエリエスは自分の部屋に戻ると幽鬼のように存在感の見えない姿になって打ちひしがれていた。
やがて城を抜け出した。
ガノウムは海に逃げようとして小舟を出そうとしたところ、自分の家族を人質に取られた漁師の手によって小舟を壊され、そこで王宮の騎士に捕まった。
その場所にやってきたエリエスは、壊された小舟に乗り込んた。
水がどんどん浸透して船が沈んでいく。この穴がガノウムを殺したと考えながら船に空いた穴をぼんやりして見つめる。
やがて、沈んでいく船に体を横たえ、ステージの奈落へと沈んでいった。
この劇はこれがラストであると、皆知っている。
王とテルシオが拍手をすると、観客たちも拍手をする。
「国王万歳!」
ふと観客の一人が言い出した。
続いて他の観客達も言い出す。
「国王万歳! 国王万歳! 国王万歳!」
合唱が始まり、この劇を提供してくれた国王に感謝の拍手を送った。
国王が立ちあがり、皆に手を振って答える。
それから観客たちから、割れんばかりの拍手が国王に送られた。




