数学
「数学を学んでいるって人が」
「大学で学んでいるって意味だよな?」
あのお触書を見て二人目が来たらしい。これを伝えに来たフェリエの態度で大体わかる。次の子も女の子だ。
大学レベルの数学ならいろいろと有用である。
パラグライダーに乗った時、銃を撃った場合の反動の計算を思いっきり任せられるし、俺の工学の技術も数学者がいれば大分幅が広がる。
もちろんそれは大学レベルの数学を学んでいればの話である。
「あなたですか。ロドムさんというのは。なかなチャチな銃を作ると思っていたんですよ」
感じわる!
その女の子は俺に会うとそう言った。その後メガネをかけてもいないのに耳元をクイッっと動かしていた。前の世界でのクセか?
「この世のすべてを測る数学の力がないと、精度の高いものを作る事ができないので」
俺はこんな嫌味一つでイラつく人間ではない。
まあ、明らかに敵意のある挑発であれば反応しない方が危ないので反応するが、特に悪意を感じないならスルーする。
彼女を俺の部屋に招待したら厳戒態勢が敷かれた。
厳戒体制とは。
フェリエは出入り口を封鎖。
シィが俺の後ろで睨みを利かせる。
ネリフスがすぐ背後に立ち、いつでも刺せるように準備。
ハルタナはドアの外に配備。逃げ出してもすぐに確保できるようにだ。
「おうおう……数学なんて俺たち物理系の下積みだろう? それだけじゃ何もできないくせにデカい顔すんじゃねぇよ」
「あなたは航空力学でしたっけ? エンジンの作りようのないこの世界で、空力なんてものこそ、使い道がないと思いますがね」
やめてくんないかな? 学者にしかわからない変な戦いは……
この子はハインネという名がこの世界で与えられているらしい。前の世界での名は太郎とか言っていた。
本人もハインネと呼んで欲しいというからハインネと呼ぶことにする。
しっかし、綾斗とハインネは昔男だったと考えると、この二人のメンチの切り合いはすぐにでも止めるべきなのだが、そこまで深刻な事態にも見えないから不思議だ。
「しかし、この世界に綺麗にお染まりのようで、なかなか、かわいいかっこをしているではないですか」
「んだと! 好きでやってるわけじゃねぇよ!」
あの態度は男がやったら本気でイラッっとしていただろう。かわいい女の子がやっているから許せる気になるのである。
ツンデレをなんとなく許せる気になるのと同じ心理だろう。
それとも、この後のハインネの運命を分かっているから許せる気になるのだろうか?
「数学の力を見込んで頼みたいことがあってね」
「はいはい。喜んで」
ハインネは、銃の反動に耐えられるパラグライダーの翼の大きさの計算を頼んだ。
弾の初速の計測器は俺が作る。細かい計算はハインネがやってくれるだろう。
もろもろの話が終わった後、まっていたフェリエが声をかけてきた。
「つまり。この子はうちの新入りになるという事でよろしいでしょうか?」
はいきました。
「よろしいでございます」
なんだこの言い方は?
自分でもなんでか知らないけど、謙譲語なのか敬語なのか分かんない言い方してしまったぞ。
綾斗がニヤッとした。これからのハインネの運命を察知したようである。
「それでは基本から学びましょうか」
ハルタナが羽交い絞めにしてハインネを押さえた。
「あの、お嬢さんがた?」
まあ、この状況、意味わかんねえだろうな。
ズルズルと引きずられて、どこかに連行されていく。
「可愛くなって来いよ」
ニヤニヤした綾斗が声をかけるが、その後ろにシィが立っていた。
「あなたもですよ。今のチンピラみたいな態度は何でしょうかね?」
「なっ」
綾斗は綾斗で、シィとフェリエの二人に両脇を抱えられて、どこかへと連行されていった。




