スレット(威嚇)
「ロドム様。何をなさっていますの?」
兵の訓練から帰ったフェリエが聞いてきた。
「空に浮かぶ装置」
気球なんていってもわからないだろうからそう言っておく。
「この袋ですか? これを燃やすのですか?」
「燃やしてどうすんの?」
燃やしたらせっせと作っている意味がないじゃないか。俺が火の準備をしているからそう見えるのか。
バーナーなんてないから火を焚いてその上に袋をセットする。
「なんか膨らんできました。いやらしい」
「いやらしいとか言うな」
なんか俺もそう見えてきたじゃないか。
気球はムクムクと体を立てていき、やがて下に取り付けられた籠が浮くまで浮力が生まれていく。
「浮きました。ロドム様は攻撃魔法以外のどんな魔法を使えますね」
「魔法じゃないけどね」
化学は知らない人から見たら魔法と同じって事だ。
気球のサイズを考えると、これでも十分目当てのものを乗せて浮かぶことができるはずである。
「よー。ロドム。こっちはこんなもんだぞ」
綾斗は俺の名を呼んで言ってきた。
「テニー様? ロドム様に対して無礼ですわよ」
フェリエが綾斗に向けて突っかかっていった。
うわぁ。育ちの良さアピールをしてお上品な笑顔をしながら言っているよ。こりゃいわゆる女の臨戦態勢ってやつだな。
「フェリエ様。私も同意いたしますわ」
またメンドクセェのが来た。シィがどこからともなくやってきたのだ。
フェリエが来るのを待っていたのだろう。一人で向かうより二人で向かった方が攻撃力が増すからな。
最初が肝心。新人にはガツンと……ってやつだ。
「私のダンナに近づくのには、少々ルールがあるのをまず分かってもらわないとな」
さらにシチメンドクセェのが来た。ネリフスはフェリエの後ろに控える、シィのさらに後ろに配置した。
「ご主人。殺るか?」
お前はどこから湧いて出た? ハルタナがいつの間にやらネリフスの後ろに現れていた。
「逸らないでよろしいですわ。教育が先です。覚えがお悪いようでした殺処分といきましょう」
フェリエ。それ悪役のセリフ。
この四人からのプレッシャーには綾斗も本気でビビっている。俺に助けを求めるようにして目線を送ってくるが、意味はない。
当然俺もビビっているからだ。
「気に入りませんわね。その男性のようなかっこは」
フェリエがジリジリと綾斗に距離を詰めながら言う。昔、男だったのだ。女物の服を着たがらないんだから勘弁してやれ。
そう思っても口に出せないのが俺の悲しさである。
「髪のお手入れも不十分ですわ。あなたがみっともないかっこをしていると、私の仕事が疑われるではないですか」
シィが言う。確かに使用人なのだから、ご主人やもろもろのお世話が行き届いていないと恥となるのだ。
だがそんなものは、いちゃもんを付けるためのこじつけであるのは、俺にはよくわかる。
「えーと。私はあれだ。そうだ。とりあえず素振りしろ」
ネリフス。思いつかんなら何も言わないでよろしい。
「えーと。私はあれだ。うんあれだ」
ハルタナも思いつかないなら何も言うなっての!
そもそもお前に何の権利がある! その場のノリで調子に乗るんじゃない!
後の二人は完全にいらない子だよ! いるだけ邪魔だよ! フェリエとシィの二人で十分だよ!
「えっと綾斗。この四人は」
「ロドム様」
俺の言葉をフェリエはピタリと止めに入った。
「女の話合いを先にさせていただけませんか?」
こえぇ! お嬢様のようなニコニコ笑顔をしているときのフェリエが一番こえぇ!
四人は綾斗の事を囲んでどこかへと連れ去っていった。
まるで手塩にかけて育てた子牛が連れていかれるような気分を感じながら、綾斗が四人に連行されていくのを見守った。




