文学の価値
「ここまで戦争と縁遠そうな者が来るとは思わなかった」
「次に期待じゃないか?」
王とテルシオの二人は、ここにやってきたレイフェを見て言う。
「もしかしてわたし、追い出されるんでしょうか?」
不安そうにして言うレイフェ。その様子はなんとも頼りない。
文学にどんな意味があるのか? それを考えるとテルシオはうなった。
「とりあえず、食客として置いておいてもいいんじゃないか?」
珍しい特技を持つ人間や特殊な知識を持つ人間を自分の王宮に置いておくのは支配者のステータスになる。
彼女はうれしい事に日本から転生をしてきたのだというし、無理矢理帰らせるのもかわいそうに思える。
テルシオの意見に王も同意し、彼女には一室が与えられた。
レイフェは宮廷の庭を眺めることが多かった。
文学の中にしか存在しない騎士の世界。その世界で剣に生きる人々の姿は鮮明に美しく映ったのだ。
「一人やってきたことは宣伝したが、次が続くか?」
「来た事に意味がある」
王とテルシオは並んで言う。一人王宮にやってきたからには、続く者が現れるのも近いだろう。
今度はもっと役に立つ者であればなおいい。
レイフェはふと。騎士になる訓練をしている子のところに歩み寄っていった。
どうやら、その子は訓練にいついていけずヘコんでいるという感じだ。
「男の子でしょ? しっかりしなさい」
レイフェはその子に笑いかける。
「ボクには無理だよ……強くないもん」
自信のない言葉を言うその子。
「騎士っていうのはね。強くなければいけないってものじゃないの。だれだって最初から強くなんてないのよ」
その言葉に、ふと感じるものがあった様子のその子。その子がじっと、自分を見上げるのに、レイフェは気をよくしたようだ。
「私の好きな話を聞かせてあげる」
源義経の逸話を聞かせたのだった。
両親は戦で敗れて家は敵に支配された。命だけは見逃された彼は、僧として生きていく予定だった。
だがある日、自分が源氏の人間であると聞かされ、悩んだ末に戦う決意をする。
そこで天狗を名乗る人物から剣術を教わり、なんどもくじけそうになりながらも懸命に己を鍛えたのだ。
「その人は君よりも病弱で体も弱かったらしいよ」
よく聞く英雄譚だ。
その英雄譚に自分を重ね合わせた少年は唇を引き絞り立ち上がった。
訓練している他の子供の中に混ざり、剣を振り始めたのだ。
「こういう使い方もあるって思えてきたんだが、王のご意向はいかに?」
「ありかもな。レイフェを呼んで仕事を与えよう」
王とテルシオはそう言い合い、レイフェを呼んで話を始めた。
「みんな。今日はどのはなしがいいかな?」
レイフェはあれから、訓練の合間の休みの時間に子供たちを集めて各国での英雄譚を教えた。
イスラムの英雄。ハールーン・アッラシード。モンゴルの狂王チンギス・ハン。
それどころか、吸血公と呼ばれた、ブラド・ツェペシ。なんていう残酷なものもある。
多くの勇者と英雄達の英雄譚を聞く子供たちの目はらんらんと輝いていた。
いつかその英雄達のような、伝説を作ってやる。
そう子供たちは思い。訓練に勤しむのだ。




