転生者のお触書
「これでいいんかね?」
「さぁ? っていうか、俺たち以外に転生した人間がいるって保証がまず存在しないしな」
王とテルシオは二人でそう言い合っていた。
二人は秘密を明かしあい、同じ目標のために協力をする仲間だ。王と臣下などという関係はすでに意味をなさなくなっている。
活版印刷の技術はかろうじてあったため、ポスターを作って国中にお触書を出すことはできる。
『転生者は王宮に来たれり。地球の知識を持って王宮に仕えよ』
「俺たちセンスねぇな。もっといいキャッチフレーズとか思いつかないもんか」
テルシオの言葉に王もうなずいた。
「そういう奴が来るといいな。広報大臣の地位でもくれてやるんだが」
「俺は農水大臣だしな。いろんなとこに飛んで農法を教えまくっている日々だよ」
テルシオは農薬を普及させ、作物の品種改良のための研究所の指揮をとり、日々国が食料であふれるように尽力している。
王も、薬草や鉱石を国中からかき集めさせ、それから薬を作っている。
「元政治家とかもほしいな。統治の方法とかも……」
王は言う。王とて現代の政治知識は皆無。できれば政治のとり方を教えてくれる人間がほしい。
「どんな知識でもいいからな。専門的な知識はどこかで役に立つ」
テルシオはそう言う。世間に出れば農学の知識なんて何の役にも立たない。だが国の土台を支える学問であると誇りを持っている。
それと同じく、何の役にも立たない学問に見えても役に立てる方法はあるのだ。
「それじゃ。俺はそろそろ王様モードになるか」
「はっ陛下」
王のその一言でテルシオは姿勢を正した。王は王座に座るとベルを鳴らす。
チリンチリン……という音を聞いて、扉の前に待機していた衛兵たちはすぐに持ち場に戻り、大臣たちも王の前に並んで傅いた。
「テルシオの知恵により今後の方針が決定した。このお触書を国中に配布せよ」
「この文字は?」
「貴様が知る必要はない」
王の言葉に疑問の言葉を口にした大臣はかしこまった。
「全員下がってよい」
王がそういうと、テルシオと大臣達は謁見室をあとにした。
「地球……懐かしいです」
それは日本語と英語の二か国語で書かれたお触書だった。王とテルシオが国中に出したお触書を読めるのはこの世界に転生をしてきた人間だけ。
日本語と英語が読めなくてもこの国にはない文字であるアルファベットを見れば、地球の残り香を感じることができるだろう。
「こら! レイフェ! グズグズするな!」
「すみません! お母さん!」
レイフェは母親にどやされながら麦の収穫の手伝いをしている最中だった。
地球では文学少女だった彼女が、意を決して王宮に向かうのは、これから少し先の話だ。




