後の祭り
「やめてしまうのですか?」
フェリエは攻撃を止める。レイティエルは顔では平静を装っているが、心の中では笑っている感じだ。
このレイティエルは感情を抑える時は不自然に無表情になる。それは経験でわかる。
まあ、心のうちは、『ロドムを助けるのを止めたのがうれしい』とかそんな単純なところだろう。
「私はこの戦いには気乗りしません」
それにロドムがやってきたのだったら、敵はもう一網打尽だろう。結果は火を見るよりも明らか。
「とりあえず、事の顛末の確認はしますが……」
フェリエはそう言って、南門にある見晴台の屋根の上に座った。機嫌が悪そうな胡坐座りだ。
「あの木の魔法と戦いたかったですか?」
「そうですね……サシで」
商家で蝶よ花よと育てられてきたフェリエでもここまで戦場にどっぷり浸かれば汚い言葉の一つや一つも覚えてしまう。
自分が野蛮な言葉をつい口走ってしまったのに自分で気づき、フェリエは額を押さえて後悔をした。
「これは、あの人に責任を取ってもらわねば……」
「あの闇の者はすでに妻をめとっておいでですがね」
「あんなもの形だけの物だっていうのはあなただって分かっているでしょう?」
わかりきった嫌味を言うレイティエル。こういうところは、表だけ上品で、中身は真っ黒な上流階級の付き合いそのものだ。ロドムの指揮により、銃を持った市民に囲まれた敵はどんどんと数を減らしていく。
「勝ちましたね……勝ちを譲られた形なのが癪ですが……」
フェリエはこの戦闘の本質を冷静に見据えている。こういう野生の勘の面では、頭のまわるロドムやシィとよりも圧倒的にフェリエの方が一日の長がある。
「この戦いの後ですね……本当の戦いは……まあ何年後になるかわかりませんが……」
この攻勢は本気の攻勢ではないというのを肌で感じているフェリエ。彼女は五年後に起こる戦争をこの時からすでに予期していたのだ。
戦いには勝ったが捕虜の扱いをどうするか……?
普通なら交渉で捕虜の身代金の要求でもするところだが……向こうがそんな交渉に応じるだろうか……?
それに、銃の事を知られたからには生きて返すわけにもいかない。もう、呪いの首輪でも取り付けて、オルとレデみたいな傀儡にでもするか?
俺は戦いに勝った後、誰もが悩むことについて悩んでいた。そこにレイティエルに運ばれてやってきたフェリエが声をかけてくる。
「ロドム様、このたびの勝利は……」
「フェリエ……」
このたびの勝利……? 何? このフェリエの形式ばった挨拶……?
だがこの言葉の奥になにか深いものを感じた俺は、その事を指摘するのはやめておいた。確実なのは、明らかにフェリエは不機嫌であるということだ。
ここは町の広場。恨みを抱えた町の人間達が囲む中、敵の兵士は堂々としたものだった。
まあ町の人間にとててゃ不遜にしかみえないだろうが……
銃なんて構造を覚えれば簡単に複製できる。いや、簡単ではないが、複製をされる危険があるなら同じだ。
父に丸投げするのが一番か……
俺は交渉事には不向き……っていうか出たくないし、こんな数の人間のメシ代をだせるような権限もない。
そう考え、俺はこの千人以上の捕虜たちを父に丸投げした。
だが、この選択は間違いだった。
捕虜には、内部事情に詳しいやつがいたのだ。
テルシオとつながり、軍部に女王に敵対する様に扇動した奴をすぐさま暴き、さらに他の情報から元に貴族たちの腐敗も名実にした。
名だたる名家はことごとく粛清をされ、父と女王に従う貴族たちも多くは家督をはく奪され、ただの『元は貴族であっただけの金持ち』になった。
もう回りくどい言い方はやめよう。クーデターをして、国の政変をし、国民選挙を開始して民主主義化をした。
貴族主体の国家ではなく、国民主体の国民皆兵の国家を作り上げたのだ。




