別動隊
デイナの虫の魔法を解除できない。そうすれば、今のこちらの惨状があちらに伝わってしまう。
いまだに敵は門の前に居座っている。いつでも攻めてこれる体制は整えてあるのだ。
恐らく、別動隊の行動が勝負たと踏んでいるのだろう。別動隊が成功をすれば一気に攻め込んでくるつもりだ。
虫の魔法のおかげで、あちらからこちらを認識することはできない。だから俺は敵に気づかれずに本陣を空にすることができる。
俺は、ほのの背中に乗って町の人達の先陣を切って走っていた。
やっぱり十歳の体じゃ、いくら体を鍛えてもいない一般人といえど、大人の走る速さには追いつけない。
ほの自身は、自分は馬じゃないと愚痴っていた。後でお菓子でもごちそうして機嫌を取らなければ……
しかも乗りにくい。馬なら鞍もついているし大きいので乗りやすいので当然だ。いくら十歳の体でも、中型犬くらいの大きさしかないほのの背中に乗るのは、無理があるということだ。
だが、文句は言えない。ここでぶつくさ言おうものなら、ほのがさらにヘソを曲げるに違いない。
くそう……こういう時にレイティエルに運んでもらえればいいのに……やっぱ普段からあいつと仲良くしておくべきだろうか?
「いや……ムリムリ」
一瞬考えたものの、すぐに口から否定の言葉が出た。頭ではわかっていても体があいつと仲良くやっていく事を拒否している。
俺の体は、生理的にレイティエルの事を拒否しているのだ。そう思っておく。
フェリエの光の柱が落ちる場所を目印にして、俺は先に向かっていく。
ここで普通ならデイナの虫の魔法で偵察をしてもらった情報なんかを教えてもらえるのだが、今回は自分で現場に行って確かめるしかない。
デイナの虫の魔法があれば戦場の様子を到着前に確認でき、移動中に頭の中で作戦を考えることができる。
こう考えると、デイナの虫の魔法は、なかなかチートな能力なのだと感じる。
「弾は補充してあるな!」
俺は声を張り上げる。統率の取れていない集団の指揮は、とにかく気合だ。気合負けすると簡単に舐められる。
まあ、それは統率に限ったことじゃないけどな……状況を冷静に見てそれに沿った行動ができるのは一部の頭のいい人間だけだ。大抵の奴は、自分の状況がいくら悪くなっても、それに気づかずに、昔に下だった奴にいままで通りにアホ面下げて指示を出したりする。
勝手に仕事を辞めていった後、平日にいきなり喫茶店に呼び出して、金を貸せとか言ってきたアホな元上司とかいたな……
もちろん断ったが、相手は逆上してケンカを売ってきた。
まあ、撃退したけど……
俺は、ちょっとマイナーな格闘技をかじっているだけではあるが、それでもパンチの打ち方をしっているってだけの事でも、一般人とは格がちがうものなのだ。
おっと頭の中で愚痴ってしまった……そんな事を考えているヒマはないのに……
門が見えてきた。門の上には自警団で、元軍隊に所属していたとかいうメンバーを集めて護衛をさせている十人くらいの集団がいて、敵に向けて矢を放っている。
壁の頂上には十人くらいの人数が弓を構え撃ち出しているところだった。状況はどうも劣勢である。こちらが撃ち出す矢よりも、敵の方から撃ち出される魔法の方が多く、魔法の火の玉や氷の塊で、空に天の川のような光の帯を作っていた。
やっぱり銃は使えないって判断して、弓に持ち替えたか……当然だけど……
敵からの魔法攻撃は苛烈である。自警団の奴らも被害を受けているようで、体が焦げている奴がいる。もしかしたら倒れている奴もいるかも……
「危なかった……」
門は壊されかけている。門のかんぬきは今にも折れそうなくにバリバリになっていた。
「並べ!」
指示を出すと、全員、門を取り囲んで丸く陣を作る。簡単な陣形だ。
難しい指示なんて出しても実行できるとは思えないしな。
「合図を待て!」
大声で俺が言うと、緊張感を持った村人たちは、壊されそうになっている門が、何かで叩かれて大きな音を出して軋んでいるのを見ながら固唾をのんでいた。




