頑固なロドム
見事に罠が発動した。
最初は俺達の事を高くから見下ろしている奴らの顔は自信満々だったが、そこから掛け降りてくる奴らは見事に罠にはまった。
網で捕えられるもの、足に毒入りの針が刺さる者。足をからめとられて、宙づりになっている者。
「備えあれば……」
憂いなしとは言えないか……
この罠も使ってしまったため、二度とつかえない。
罠ってのは踏んで壊すものだ。もう大体の罠は使われてしまった。また敵が山を駆け下りてきたら、奴らをとらえる罠はない。
「敵の様子は……」
敵の様子を見ると、まだコイントスをしてる……のだが、そろそろヤバイと思う者も出てきているらしい。一人が必至に周囲の奴に何かを訴えかけているのが見える。
手柄の取り合いなんかしていないで、みんなで一気に攻め入ろう……とか主張しているんじゃないか?
とか言っているのが表情と身振り手振りでなんとなくわかる。
だが、他の奴らはその主張を鼻で笑ってコイントスを続けた。
「こりゃそろそろ限か……」
というか最初から限界を軽く突破しているんだった。素人集団で正規兵の相手をしようというのが、無茶が過ぎる。
「いつでもきやがれ! いままでの報いだ!」
俺の後ろから村の若いやつがそんな事を言っているのが聞こえてくる。
『ダメだ……逃げようなんて言える雰囲気じゃない……』
もうそろそろ、俺は一人で逃げようかな……? とも、考えるが、もう少し待ってみよう。もうちょっと危険な目に合えば彼らの意見も変わるのではないかと思う。
『ロドム君、そんな事を考えていると、逃げる機会を失うよ。すぐに戻った方がいいって……』
デイナからの声がこっちに届いた。
『簡単に言ってくれるよね……』
『これのどこが簡単よ? 危険度は完全に戦場のど真ん中を越えているんだよ』
ここにいれば確実に死ぬって言うのは分かる……
生き残る道がある分、戦場のど真ん中の方がまだマシだ。
だが俺はここで一人で戦っているわけではない、彼らの命を守り切る責任というものが……
『すぐ帰ってきな! そういう事を考えているから、君は命がいくつあっても足りないんだよ!』
デイナに俺の考えが読めるように、俺も、デイナの考えている事が読める。
俺が彼らの事を助ける事になった理由もデイナには伝わっているのだ。
『周りに流されたり、責任を感じる必要もないことに責任を感じたり! そのうえ、自分が勝手に言い出したことだからって、私達には協力を頼むどころか、相談すらしない! これじゃ、十歳で過労死も目に見えているよ!』
デイナは言わないが、『さっさと帰って来い』と考えている。
それが思いっきり伝わるから、俺も何も言い返せない。
『とにかく、そっちにフェリエちゃんが向かったから、それまでネバるんだよ! どうせ逃げることができないのだったら、せめて、フェリエちゃんを待ってあげな!』
フェリエか……あいつの手を煩わせないでも、危なくなったら逃げるのに……
『今、この危険な状況でも逃げないじゃないの! いまこの瞬間だって本当は本気で危険なんだよ! この事は後で話をしよう!』
それを言うと、デイナは通話を切った。
心配をされるまでもない。俺だって命は惜しいから、この村の人間と心中までしないさ。
敵の様子は伝わってくる。どうやら次の班は決まったようだ。
敵は、また正面から突っ込んでくるつもりだ。
『こっちにも聞こえてきましたわ。急がないといけないようですね』
フェリエの考えが、デイナにも届く。
『お願い』
デイナはそれで通信を切る。ロドムの事を説得するので必死なのだ。
「だけど、それがいいところなんですけどね……」
「そうですな、闇の男が早く死んでくれるのなら」
「また、そんな話を……」
レイティエルが、ロドムの事を話すときいつも不機嫌になるのを見てフェリエもうんざりする。
創作物の世界であれば、ここは「あいつの事は嫌いだが認めてはいる」みたな場面だが、このレイティエルは本気でロドムの事を嫌っている。
普段はこうだが、もし本当に危険な状況になったら、力を合わせるといった、マンガ的な展開は一切ない。
「まあ、めったにないことだから物語として締まるんですけど……」
「マスターよ、何かおかしな事を考えていませんか?」
「そうですね……」
フェリエがそう考えているのをなんとなく察したレイティエルが言ってくる。
「あなたが遠回りをして、ロドム様への支援が遅れるように仕向けているとか……」
「確かに直行ではありませんよ。街道を目印にして飛ばないと、位置が分からないですからね。羅針盤でもあれば別ですが」
羅針盤を持っていても使えるのは夜だけだし、この距離の移動で、羅針盤まで使っていては非効率的だ。
「見えた……」
小さな寒村の中に、敵国の兵が大量にいるのが見える。おそらく、精鋭たちが村人たちの死体をもって戻ってくる事を期待しているのだろう。
「待っててください……いえ、粘っててください、ロドム様」
これはロドムの意思など聞かずに自分が勝手にやった事。おあおらくロドムは自分ひとりの力でこれを切り抜けるつもりなのだ。誰かの助けなどは望んではいない。
「あの人も……本当に面倒な……」
ロドムの事を思い出し、フェリエはロドムへの支援を急いだ。




