投げやりでの戦い
敵の数は百一。さっき、村の広場に並んだのを見て覚えている。
十列に十人が並び、余りは一人だったのだ。隊列はしっかり組めていたので、数えやすかった。今、一組十人の班になって、ゾロゾロと山の中に入っていく。
俺だったら、一つの班を五人くらいにするがな……十人もいると、合わせて動くのも難しいし、指示の飛ばし方も難しいのだ……
っても、彼らにとってはそれが普通なのだろう。十人もの数がいても足並みは乱れず、しっかり組んで動くことができるのだ。
「一気に十人をやるとなると……」
「若造……お前の噂は聞いている。お手並みを見せてもらおうか」
「事の主犯が、ふんぞり返って戦闘をながめている気かい?」
「主犯だからよ。俺の指揮よりも、新進気鋭の期待を集める新人がやったほうが、いいだろうしな」
「反論の言葉は十個以上思いつくけど……いわないでおこう……」
こんな無駄話をするだけ時間の無駄だ。とにかく、この村人達が騎士達を殺せるように作戦を立てないといけない。
こうなるんだったらフェリエを連れてくるんだった……
いやいや、連れてくる必要なんてないんだ……どうせ、危なくなったらすぐ逃げればいいんだから……フェリエがいると、ワームホールの魔力を余分に使ってしまう。
俺は今後ろで木の枝を削って槍の穂先を作っている村人たちを見た。
戦闘に出すわけにはいかない女子供は、こういう事をやってもらう。そして木を削って作った貧相な木の槍を持った村の男達は、面白がって槍を振り回していた。
「おいおいふりまわすと危ないぞ……」「刺さらなきゃ大丈夫だろう?」「これで、騎士達をブスリだぜ」
そんな事を話してい合っている。非常に不安だ。
騎士は訓練を思いっきり積んでいる奴らだ。いままで、剣や魔法の使い方も全く学んでいない彼らがいきなり騎士達に勝てるはずもない。
「この槍は投げるんだ。こうやって……」
そう言い、俺は近くの木に向けて、貧相な木の槍を投げつけた。俺の訓練のたまもの。槍は木にあたると、見事に突き刺さる。
「すげぇ……これで騎士達も……」
村人の一人の青年が言う。
なんでこんなに楽天的なんだ……投げた槍が突き刺さるなんてことだけでも、訓練をしっかり積んでいないと無理だ。彼らが投げたところで。飛距離も出ないだろうし、まっすぐ飛ぶとも思えない。
だが、敵に勝つにはこれしかない。
昔アフリカのズールー人は、投げ槍を使って、マスケット銃を持つイギリスと渡り合ったという事があった……
といっても最終的にはズールは負け、イギリスに分割統治をされることになった。
魔法を相手にたたかうなら、これしかない。
そして、手のひらサイズの針といってもいいくらいの槍の先をいくつもつくてもらっている。
小さな穴を掘り、毒を塗った木の針を仕掛ける。
ちょうどよく山に自生するトリカブトがあってよかった。
トリカブトを絞り、出てきた汁をその針に塗り付け、山の中にしかけておく。この針を踏んだ敵の兵は、トリカブトの毒で。猛烈な痛みに襲われるだろう。
といっても殺せるほどの量ではない。すぐに手当てをすれば、数日でまた元のように足で歩けるようになる。
大きな穴を掘っている時間はない。できれば底に竹槍を仕掛けた刺し殺せるくらいの大きさの穴が欲しかったが……
そして、とにかく高いところで敵を待ちかまえる事。
高さは武器になる。高いところから投げれば、矢の飛距離も上がるし、てきが近づいてくる速度も遅くなる。
だが、やみくもに高い場所ならいいというものでもない。高い場所に陣どって、敵に見つかってしまうのもいけない。
そして、この場所を選んだ。
村から見て、山の裏側に当たる場所だ。そして数十メートル歩けば山の頂上になる場所。山の頂上から攻められることもあるかもしれないから、山からこちらに駆け下りてくるルートには、これでもかを罠を仕掛けてある。左右からやってくる敵だけを用心すればいい……と言う作戦だ。
実際は、敵は百一人もいる。こんなちんけな罠なんて軽く突破されるだろう。よく言うではないか。
『罠は踏んで壊すもの』
被害なんてものともせず、全員で突っ込んでこられたら、勝ち目はないのだ。
俺はいつでも逃げる準備万端。
『来たよ……』
デイナの虫の魔法で周囲の索敵をしてもらっている。デイナは俺の肩にとまる蝶を通して、敵がやってきた事を俺に伝えた。
「まだです……」
虫の送ってきた映像を見ながら言う。これでは槍を投げても全然届かない。敵は俺達が槍を構えているのを見つけた。
相手の数は十人、俺達を見て笑っている。そりゃなぁ、こんなちんけな武器を見せられても、怖いなんて思わないよな。
何も問題が無いようにして、俺達に近づいてい来る敵。
とりあえず、周囲に魔法を無効化するアンチマジックをかけておく。
『地に刻まれる力を消せ……』
これは何の変哲もないアンチマジックだ。槍を、投げた時、バリアで防ぐことができなくなる……
それくらいの効果しかない。
何も問題もないような顔で敵の兵士達はゆっくりとこらに向かっていく。
「投げろ!」
俺の指示で、木の槍が一斉に投げられる。
「そりゃ、避けられるよな……」
木の槍のようなものを投げたところで、避けられないほど早いというものでもない。しっかりと、見ていれば避ける事は可能だ。
木の槍くらい、簡単に避けられる。敵は余裕があるくらいの表情をしている。
やっぱりクロスボウを使うしかないよな……敵は百人以上いるんだぞ……勝てるか……?
フェリエは、一応クロスボウと一緒に矢もいくつか置いていっていた。魔法を無効化する、魔力を込められた矢だ。
「クロスボウ! かまえ!」
俺がそう言うと、全員で『待っていました』とばかりにクロスボウをかまえた。
槍を投げるなんかよりも、ずっと早く飛ぶ矢の動き。しかも照準器もあるため狙いやすい。
敵は木の槍には驚かなかったが、クロスボウには驚いたようだ。すぐに
俺達に背を向けて逃げ出そうとした。
『逃がしてたまるか……」
この小賢しい作戦を伝えられたらいっかんの終わりだ。敵の背中をめがけて、おれはクロスボウを打つ。狙い通り、逃げようとしていた敵の背中に矢はあたり、敵は倒れた。
「やったぞ! 俺達の勝ちだ!」
気の早い青年がそう言った。
確かに一つの班を壊滅させることはできた。だが、敵はまだ九十人も残っている。
まだまだ俺達の勝ちではない。




