クロスボウを持った少年
「敵が動き始めました!」
俺は布団の中に入っている時にその言葉を聞いた。
ノックもなしに入ってきたフェリエが血相を変えて言いに来たのだ。俺は布団の中でウダウダしているところであった。休息は十分だ。
布団から飛び起きると、すぐに作戦室に向かった。
「お帰りフェリエ。いままで何をしていたんだい?」
「なんですか? 出かけていたなんていいましたっけ?」
なんでしらばっくれるの? 帽子を被った跡が髪に残っているんだけど……フェリエはいつも家から出かけるときは、帽子をしているからそう思ったんだけどな……
「デイナ! 敵の様子!」
俺は作戦室のドアを開けてすぐに言った。デイナは俺のことを確認すると、すぐに俺の事を前から抱きしめてきた。
ちょっとだけむっとしたフェリエの顔が視界の端に映ったが、そんなことは気にしない。
デイナから送られる映像を見ると、俺は目を見張った。
兵士達の士気は十分らしい。足取りも軽く、十分休んだのもあり、いつでも戦える状態のようだ。
「位置を考えると、まだ時間は……」
大部隊を動かすとき、どうしても足並みは遅くなる。少数で、これだけの敵に対抗をするには、そこをつくしかない。
「地図によると、次の村は……」
「その村はすでに私が行っていますわ」
そうか……フェリエがすでにその村に行って住人を逃がしていると……俺が寝ている間に頑張ってくれたんだな……
「なら、様子だけ見てみよう。当然だけど、住民の避難もさせてあるんだよね?」
「そう……ですわ。この村に軍隊がやってくる事も知らせましたし」
フェリエのなんか歯切れの悪い返事だ。まあ、敵の軍隊が迫っているなら、住民は逃げていくだろう。
この世界、ただの農民が騎士を殺す方法なんてない。
昔、火薬が発明され、銃器ができた時、世界は変わった。いままで、修練を積んで、剣の稽古にあけくれていた騎士や貴族を倒す方法を持たなかった農民たちは、貴族や騎士を恐れて、戦おうとはしなかった。
だが、銃器が発明をされてからは話は別になった。
敵よりも先に引き金を引けば、それだけで、生まれた時から積んでいた修練や、剣の腕など、まったく関係なく、相手を殺すことができる。
これは封建社会を根底から覆すような大事件になり、民衆の力が上がっていくきっかけになった。
「こんな時に、何を一人で脳内歴史の授業などをしているのですか?」
「はい……すいません……」
シィに言われてしまった。歴史の授業はここまでにしよう。
俺は村に軍隊が迫っていくのを見た。もぬけのからの村。財産や食料はすでに全部回収をされていて、何も得られずに行進に戻るはずだ。
そうおもっていたのだが、様子が違った。
村にズカズカと乗り込んでいく、斥候の兵士が入っていくのを見るに、やっぱり、欲深層な顔をしていると思った。
まあ、斥候の顔はどうでもいいか……
その斥候は手近にあった家のドアを蹴り破った。
普通に開けていけよ……なんで意味もなく壊す必要があるんだ……?
まあ、意味もなく壊すのが好きなんだろうさ……
その斥候は家の中を見回すその後ろ姿が見える。だが次の瞬間に様子が変わった。後ろ向きになって倒れたのだ。
「はい……?」
バタリと倒れて事切れた斥候の男見ると胸に矢が刺さっていた。
「バカな事を……」
おそらく、村の人間が、敵に一矢報いるために家の中に潜んで敵を殺すタイミングを測っていたのだろう。だが、その村人はそれから先の事を考えてはいない。村人は駆けつてきた、兵士の仲間に殺される事だろう。
今からでは助ける事なんてできない……彼は絶対に死ぬ。
俺はその様子をせめて見届けてやろうと思う。
家の中から一人の少年が出てきた。彼が手に持っているものには見覚えがある。
「なんで、ただの村人がこんなものを……」
俺の作ったクロスボウだ。あれなら、弓を扱ったことのない人間が敵を簡単に倒すことができるだろう。
これは、銃器が発明された時と同じ状況のようだ。今、村人は簡単に敵を殺す方法を手に入れて、その方法で敵を殺したのだ。
斥候の仲間が駆けつけ、その村人は今度こそ終わりかと思った。
村人に向けて魔法が撃たれそうになった。だがその斥候の背中に数本の矢が刺さった。
二人だけでやってきていた斥候は見事に倒され、躯を村の中心にさらすことになる。
斥候の二人を倒すと、村人の少年達は撤収をしていった。
「統率が取れてる……」
斥候の二人を殺す事だけが、目的だ。目的を果たしたら、急いで撤収をするのだ。
死体から金目のものを物色したり、怒りに任せて死体をい嬲ったりするような行動も一切みられない。
「これはどういう……」
「あの村……昔、百人隊長だった人がいるらしいです」
「引退した人間が余生を過ごしているんだよね? 何かの目的で君らが送ったんじゃなくて?」
こんな事を村人にさせるなんて、正気の沙汰ではない。
戦闘は騎士や貴族に任せておけばいいのだ。ただの村人が身に危険を晒す事なんてない。
「フェリエ……とんでもないことをしたね……」
これは大変な事だ。一番とってはいけない方法である。
「今なら彼らを助けることができる」
彼らが報復で殺されるのは目に見えている。助けないといけない。こういう時にワームホールは便利だよな……
誰にも何も聞かず、俺はワームホールで現場に向かった。
「あなた、ロドム=エーリッヒ!」
その村にはすぐに到着する俺の顔を見ただけで村人の少年は言った。
「なんで知っているのですか?」
俺の事をなんで知っている? そんなに有名人になった覚えはない。
というか、この世界では村人は女王の顔すら知らないはずだ。王宮に行く機会なんてまったくないし、そもそも、女王の顔になんて興味もないはずだ。
「新聞というものです。俺達、字は読めないけど司祭様が教えてくれて……」
「新聞とな……?」
俺は村の中心に立てかけられている看板を見た。むかしの江戸時代の瓦版みたいなものであると思い、その新聞を見てみる事にした。
「これは……」
恥ずかしい……俺の顔がかなり美化されて書かれているし、内容も俺の事をたたえるような、恥ずかしい内容になっている。
あんにゃろ……フェリエ……こんな恥ずかしいことをしやがって。
心の底から、この新聞を全回収したい気になったが、それはあと回しだ。
「二人ともここにいると危険だ! すぐに逃げて!」
俺は二人の手を取って、作戦室にワームホールで戻っていった。




