フェリエの作戦
「敵に塩を送る……この作戦はどう思う?」
テルシオは考えていた。いきなり、丘の上からタルが転がってきた事には驚いたが、中身は酒。毒で混ぜられているのではないか? とも思ったが、その様子もない。
こんなものはまともな考えではない。
酒だってタダじゃないし、こっちも英気を養える。酒を送っても敵に利なんて一つもないはずだ。
「私、この作戦にロドム=エーリッヒの意思が介入してないと思います」
「あいつ以外に誰が作戦を立てるんだ?」
ローティの言葉を一蹴したテルシオ。敵の総参謀はロドムだ。彼は意味のないことはしない。
本当はロドムの意思の介在していないフェリエの独断であるのだが、理にかなわない行動をされると、混乱をして、足を止めざるを得ないのだ。テルシオは、腐ってはいるものの、軍略面では腐ってもいなかった。
「きっと、何か作戦があるに違いありません。慎重に動くべきです。兵にいますぐ酒を飲むのを止めるように言いましょう」
「それは危険だ」
参謀の一人の言葉をテルシオは止めた。
「はっ……出過ぎたことを考えて申し訳ありません」
参謀は、自分の考えの何がいけないか? を理解してもいないのに、テルシオに謝った。
この参謀は考える事を放棄している。考えるのはテルシオの役目。自分は何も考えず、テルシオに従い、うまい汁を吸う事だけを考えればいいと思っているのだ。
テルシオはそれを忌々しいと思いながらも(しょうがないこと)と、考えていた。自分の考え以上に、正しいことなんてないのだ。
戦争の主役は兵士だ。兵は国のために、命を賭けて戦わされている。その事実を受け止め、とにかく兵を厚遇をする事を忘れてはならない。
背中を刺されて死んだ指揮官は少なくないのだから……
すこし、ここで時間を食うことになっても、大した問題はない。もともと、作戦なんて必要のない戦い。この大軍勢で攻め込まれたら、この国などひとたまりもない。
むしろ政治的には勝っているのだ。この国の親衛隊や騎士団はすでに抱き込んである。この国を攻め落とした後の地位を約束したら、簡単にこの国を売り渡した。この国の軍隊のほとんどは、テルシオの敵にはなりえない。
ロドム=エーリッヒについても、厄介ではあるが、大した障害ではない。
完全に勝つと決まっている戦いなのだ。補給を襲われたりした事も、大した痛みではない。物資がなくなれば、こうやって村を襲えばいい。それだけのことだ。
ただ、いいように引っ掻き回されるのは気に入らない。言ってしまえばそれだけの事だ。
「そうだな……気にすることない……」
テルシオはそう結論付けた。
ロドムが何かをやったところで、蚊に刺された程度の痛みしか感じない。元々、そこまで気にすることではないのだ。
「ボクも酒をいただこうかな……久しぶりに……」
テルシオはそう言い出し、参謀達は驚いた顔をした。テルシオがこんな事を考えるとは思ってもいなかったのだ。
「始めてください!」
村に着くと、フェリエの指示で、作業員が作業を始めた。
正装をした男が、この村の長老の家の前にまで行く。
「ごめんください……いきなりたずねてきて……」
などという言葉が聞こえてくるのに、フェリエは注意を他に向けた。
長老との交渉役の男の指示一つで、これから作業を始める事ができるように手筈を整えている。
立て看板を地面に刺す用意。文章の書かれた紙を各々の家に投げ込む準備。
「はい……きいております。よろしいですよ」
長老がそう言うのを聞くと、交渉役の男は手を上げて、他の男たちに指示を出した。
村の何か所にも、立て看板を配置し、新聞を各々の家に投げ入れる。それで、その男たちは撤収をしていく。
「我々は次に行ってきます」
それを聞くと、フェリエは指示を出して次に向かった。その直後くらいにまた馬車がやってくる。
「お待たせしました」
中から出てきたの女性だ。村の人間に警戒心をできるだけ与えたくないという、フェリエの采配だ。
立て看板に興味を持つ子供たちの姿が見える。
だが、この辺境の村に文字を読むことのできる人間がいくらいるかわからない。大体、読めるのは村に派遣される教会の神父くらいだ。
子供たちは神父の手を引いて、立って看板の前にまで連れて行った。
神父はそれを見るとどんどんと顔を青ざめさせていった。
「この村に敵国の軍隊が……?」
神父は今の状況を理解できたようだ。
「それではいってきます」
それから女性は神父に向けて歩いて行った。
この馬車の中にある『クロスボウ』を売るための交渉に出たのだ。
村に愛着のある村人は簡単にこの村を捨てようとはしないだろう。もしかしたら、戦争の恐ろしさを全く理解していない村人もいるかもしれない。
敵国の軍隊がこちらにやってきているというくらいの事で、村人が避難をするとは思えない。
その村人に対し。『どうせなら敵の軍隊と戦ってみませんか?』と、話を持ち掛け、クロスボウを売りつけるつもりなのだ。




