みんなを救ったのに……
「喜べ。間に合ったぞ」
俺は、ぼんやりした気分でその言葉を聞いた。誰の声だろう?
「目が覚めたのなら自分で歩け。これ以上お前を助けはしない」
体を起こす事はできないが目だけでレイティエルの姿を視界に収めた。首をめぐらせる体力すら今の俺には残っていない。
ほのは犬の姿でレイティエルに牙を剥いていた。それを、気にせずにさらにレイティエルは言い訳がましく続きを言う。
「礼はいらん。これも主人のためだ。私はお前の命をいつでも狙っている事を忘れるな」
レイティエルは飛び去っていく。
ここはありがとうとでもいうところなのだろうが、レイティエル自身が『礼はいらん』と言っているし、黙って彼の背中を見送る事にしよう。
「終わったのかい? ほの」
レイティエルの姿を鋭い眼光で見送るほのに向けて聞く。
「誰も死ななかったよ。ロドム様は本当にすごい」
ワームホールで村人をどこに送ったっけ? 安全な場所にしたのは覚えているんだけど。
「みんなロドム様が助けたんだよ。私も使い魔として誇らしいです」
その言葉と同時に、ほのは人の姿に戻った。
俺は頭を掴まれ顔を村人が集まっている高台に向けられた。
「そうだった。あそこで村が敵に襲われているのが見えるように」
そろそろ考える余裕も出てきた。
俺が寝ころんでいるのは木が生い茂った山の中だ。足元は柔らかい腐葉土になっている。ふわふわの土の上で寝ているのを考えると寝ていて心地よいくらいだ。
視界に映る木が生い茂った緑の天井を見ると、村からそれなりに離れた場所である事に気付いた。
「この場所って結構遠いよ」
レイティエルが俺が寝ころぶ事も考えて、足をのばしてここにまで連れてきてくれたのだろうか?
村のめっちゃ近くで寝ころばされていたら、敵に見つかって殺されていただろう。それくらいの事は考えてくれていたのだ。
「だめ。まだ動けない」
俺はほのにやさしく頭を地面におろされる。
「あれ? なにこれ?」
地面の土の感触ではない、なんかモフモフのものがあるぞ。
「私のしっぽです」
俺のすぐ隣で、背中を向けたほのが座っていた。ほのの尻尾が生えているべき場所は、ちょうど俺の頭の下だ。
「それはさいこう。もっふもふ」
頭のネジが外れている。こんな恥ずかしい言葉を平気な顔で言ってしまっていた。
「いいですよ、ロドム様私の尻尾でいくらでも気持ち良くなってください」
なんか危ないセリフが出た。だが、そんな事どうでもいいくらいに気持ちよかった。
二度寝の体制に入ってしまったくらいだ。本当はすぐにでもみんなのところに戻らないといけないのだが。
「わたしも魔力はからっぽですから、休まないといけません」
「今は何も考えられないや」
少し時間をおいてみんなのところに戻る事にしよう。
俺が無事な事はレイティエルが伝えてくれるだろうから心配をさせる事はないと思う。
「ねぇロドム様。私、あなたの使い魔になれてよかったです」
「うん」
ほのの言葉におれは適当に答える。
「お菓子とかも食べれて、寝床も用意してもらえているのもあるんですけど」
そこまで聞く。俺もけっこうほの事は優遇をしている。それくらいは感じてくれているのなら、いままでほのを優遇してきたかいもあるというものだ。
「だけど、一番の理由は」
「理由は?」
言葉を止めたほの。横目で俺はほのの事を見る。
顔に赤みがかかっている。首を回して顔を見つめてくるほの。恥ずかしそうな表情をしているのを見ると、こいつもかわいいもんだと、思えてきた。
「ロドム様ってかっこいいんですもん」
そのあと、ほのは顔を手で隠した。顔は赤くなっているし、目を手で覆っているものの、指の間から、俺の事を見ている。
「当然だ」
俺も腕を動かすくらいの体力がもどってきていた。
腕を上げて俺はおもいっきりほのの頭に手を置く。
「これからもよろしくたのむよ」
ほのはその言葉でビクンと体を震わせた。
「もちろんです。お任せください」
ほのは背筋をビシリと伸ばしはりきった声で言う。
それを聞くと、俺はまた眠くなってくる。ゆっくりと意識がまどろみの中に沈んでいく。
パチン
頬をほのにたたかれた。
「こんなとこで、寝ちゃだめです」
俺の顔をのぞきこんだほのが俺の事を睨んで両目を鋭くさせていた。
使い魔に怒られているようでは俺もまだまだだな。
少し経ってからワームホールでみんなのところに戻っていった。
俺が出たのは王宮の作戦室だ。
そこには仲間達が座っていた。俺の事を見る目は暖かいものもあるが、正直冷たいものもある。
「ロドム。よくやったとは言えない」
俺の父がそう言う。分かっていますとも、あんな村のために体を張る必要までなかった。国を守るために戦い指揮官としては絶対にやってはいけないことをしたのだ。
「だが、父としていわせてもらう。よくやった」
それに、俺は微妙な表情を浮かべる。よくやったと言ってもらえるのはうれしいが、それよりも早く休みたい。
「敵も、あそこで野営を始めました。時間はできます」
シィは不満げな顔だ。当然といえば当然だ。俺の参謀の役割をしているからには、間違った判断を許してもらう訳にはいかない。
「あのですね」
「ロドムくーん!」
シィが何かをいおうとしているところにデイナがそう俺の胸に飛び込んできた。
「かぁっこよかったよお! ファンクラブをやっている甲斐があるねぇ」
シィはその様子を見てとりあえずはだまった。多分お小言は後回しにされただけで、消滅をしたわけではないだろう。
それから、ファンクラブの三人にもみくちゃにされて作戦室から連れ出されていった。




