レイティエルに抱えられ
「レイティエル! もっとスピードは出ないのか!」
「お前が私に指図をするな!」
俺はレイティエルに抱えられながら、村に向けて飛んで行っていた。
俺の命を狙っている天使に抱えられながら、いつ落とされるかわからないような状況で空の散歩をする事になるなんて最悪の思い出になりそうだ。
この状況で先の思い出の心配をする俺もどうかしている。
「貴様。ここから放り落としてもいいんだぞ!」
レイティエルは煩わしそうにしていた。闇の魔法の使い手の事を助けるとなると、天使である彼にとっては何か思うところもあるのだろう。
ここから放り落とされてもグラビティフロウがある。ふわりと地上に降りることは可能だ。
この切迫した状況で拗ねて俺の事を放り落とそうものなら、本気でこのアホ天使を殺してやる。
「なんだ、急に寒気が」
いきなりレイティエルが顔面蒼白になっていた。
「寒気? 今がひっ迫した状況だってのを理解していないのか? このアホ天使。そんな事を考えるのは後にしろ」
「口に出てます」
俺の体にしがみつくほのは不安げな顔をしていた。
「貴様の主人はやっぱり口が悪いな。こんな奴に仕えるなんて、苦労が絶えないだろうな?」
「私にあたらないでよ」
ほのは言う。
「なんのケンカか知らないが後にしろ」
そんな事をしているヒマはない。呑気な二人にイラついた俺はつい口からそう出てしまった。
「ロドム様怖い」
またも余計な口をきいたほのだが、これ以上何かをいうわけでもないので、この事については何も言わないでおく。
「見えてきた。あいつらも気楽な顔を」
目標の村が眼下に見えてきた。井戸端会議をして笑いあっている主婦たちが見える。鬼ごっこかなんかでもして遊んでいる子供たちが見える。
あの村は焼き討ちをされていくのだ。早く彼らをどこかに逃がさないといけない。
「軍隊が迫っているなんて、知らないだろうからな」
レイティエルの言っている通りだ。こいつらを迅速に移動させないといけない。
考える。
この世界の村人がこぞって俺のワームホールに入っていくためには何を言えばいいだろうか。ここは日本じゃない。日本だったら教育の一環として、避難をする時には一列に並んで移動をする事を小学校の頃からたたきこまれている。
この世界の村人はそんな事を一度もした事とはないだろう。
「領主様からのお達しだ。領主様の娘君が本日成人となった宴をすることになったので、この村の民草達に出席を許す。このホールに入り娘様を祝う席にて貴様らも祝福をせよ」
これならばいいだろうか?
領主の命であれば断る事もない。この世界の田舎者達は権力にめっぽう弱いはずだ。こぞってワームホールの中に飛び込んでいくだろう。
「私もそれでいいと思う」
レイティエルも俺の言葉にそう評価をした。
何もない集落といったほうがしっくりくるな。
家の壁はレンガを重ねられている。だがそのレンガは一つ一つが歪で、タイルのようにきっちりと積まれているわけではない。
かろうじで四角く見える歪なレンガをガタガタにして積み上げて作った家が並ぶ。そして屋根はわらぶき屋根だ。
屋根はしっかりしたものでないと雨漏りがするのだが、この屋根はその事よりも雨漏りが起きてもすぐに取り換えが可能な事を優先しているものである。
この村には大工なんていないので自分の家は自分で作っている。だから家は雑な作りになるのだ。
見たまんま中世の頃の寒村だ。こいつらはこの国で戦争が起こっている事すらも知ないかもしれない。
彼らを避難させるのは骨だぞ。
「注目! 注目せよ!」
村の中心に降り立った俺は大声を張り上げた。
「領主様からのお達しだ! 領主様の娘気味が本日成人となった。宴をする事になったのでこの村の民達に出席を許す。このホールに入り貴様らも宴にて娘様を祝福せよ!」
子供がそんな事を言っていてもまともに聞く奴もいないか。
この村の村人はそれを聞いてもまったく無反応だ。
今は時間がない。乱暴な方法もやむなしだ。
「ほの。あの建物を焼け」
俺の言う通り犬の姿のほのは火を吐いた。壁は確かに石であるが藁ぶきの屋根はよく燃えていた。
それを見た村人たちは一斉に驚いた。
「もう一度言う! この村の者達は領主様の娘君の祝福をするために足を運べ! これは命令だ!」
そう声を張り上げると村人達は一斉に俺の作ったワームホールに飛び込んでいった。
やっぱり、こういうパフォーマンスをしないとこいつらは動かんな。
子供を抱えた主婦らしき女性が最後にワームホールに入っていくのを確認すると、ワームホールを消した。
「力を使いすぎた」
俺はそう最後に言ってその場にへたりこんだ。
こんなに力を消耗するとは思っていなかった。こんだけ力が抜けていたら立つこともできない。
その後、俺は倒れ意識が薄くなっていった。もうすでにほのからも魔力を吸っているので、魔力の回復の手立てがない。
「ここから移動しないと」
ここにはテルシオの軍達達がやってくるはずだ。こんなところで意識を失ってしまえば、生き残れる保証はない。だが、俺の手足は動かない。
意識を失う前にぼんやりとレイティエルの姿が見えた。視界がぼやけていてレイティエルの表情を見ることはできなかった。




