間違った選択
ここはテルシオが使っている本陣のテントだ。
テントの中には調度品などが置かれている。本来ここは作戦本部となるはずだが、まるで王宮の一室のような内装であった。
そこの中心に豪華な椅子が置かれ、椅子に座るテルシオの周りには、数名の参謀達が彼を囲んで立っていた。
今テルシオは忌々しく思いながら報告を聞いていた。
「完全にしてやられた」
補給部隊の隊長がテルシオの前にやってきて報告をした。
こうなる事は読んでいたものの完全にしてやられた。補給部の護衛のためと思って配置した少数精鋭の部隊も奇襲で倒されたというのだ。
「彼らの失態だな。奇襲をされたとはいえ、敵の数は三十にも満たない」
たった六人で三十の敵を迎撃をしろとは無茶な話だ。
だがテルシオは偉い人の考え方が染みついている。補給の護衛のための伏兵達に責任をすべて擦り付ける事にしたようだ。
「彼らはどうなった? 全員戦死したか?」
それが」
テルシオの言葉に参謀の一人は唸った。
「隊長は捕虜として捕まったらしいです。他の隊員は縛られて転がされていただけで」
「一人も殺されていなかったと?」
テルシオは顎に手を当てながら考える。
『ロドム=エーリッヒ。あいつは何を?』
捕虜にできないなら殺害をするのは当然だ。何か殺さなかった事に意味でもあるのかと考えたテルシオだが、その考えを振り払った。
ロドム=エーリッヒは甘いだけだ。今になっても人を殺す度胸はない。
戦争の指揮官になったのだから敵を殺していく事を躊躇してはいけない。
だが、そんな事は分かっているにもかかわらず結局ロドムは敵を殺せないのだ。
「ちょうどいい」
テルシオは言う。参謀達はテルシオからの命が下る事を考えて全員かしこまった顔をした。
「今回の作戦の責任は特殊部隊にある。運よく拾った命は彼らの、罪を償うために有効利用をするとよかろう」
テルシオは言う。
『仰せのままに』
参謀達はテルシオの言葉にひれ伏して言う。この一言で補給部を守るためにあの場所に配置されていた部隊の処刑が決まった。
「隊長に孫娘がいたな」
テルシオはさらにそう言う。
「隊長自ら目に入れても痛くないくらいに溺愛をしているという話です。年の頃は十四との事」
そこまで言う参謀。テルシオの言う事は大体予想がついている。だからこそそういう説明をした。
「なら晒し刑だ。王宮の中心で国賊として刑に処す」
テルシオはそう言うと参謀の一人が進み出ていった。
「では伝令は私が伝えに行きましょう」
そう言うとテルシオはこくりと頷いた。
この参謀はその娘になんだかんだと理由をつけて妾にでもするつもりだろうというのは想像ができた。それは分かっているものの特にテルシオはその事を気にはしなかった。
「補給が途絶えたとは困った事態だ」
兵達は一日分の携帯食料くらいは常備しているが、そんなもの旨くもなければ栄養も十分ではない。
「なんのひねりもない方法だが」
村を襲って食糧を奪う。井戸があるだろうから水も手に入る。誰でも使っている典型的な作戦だ。その点で問題なのは、ロドムが何か策を弄していないかである。
テルシオは考えた。考えもなしに村を襲ってもいいのだろうか?
「奴には何度も先手を打たれているからな」
そう考えると、早く手を打つ事こそ必要なのではないだろうかとも考えられる。実際に携帯食料の備蓄はある。その事だってロドムは分かっている。
携帯食料が残っているうちに行動を起こすべきではないだろうか? こちらは大軍勢を指揮している。敵は策を考えるしかない。考える時間を与えるのが最も、危険な行動ではないのだろうかと思う。
「近くの村を襲う」
テルシオがそう指示を出すと参謀達は地図を調べだした。
それなりに大きな村で近くにある場所。兵達の腹を満たす事のできそうな場所となれば、そうそうあるものではない。
「この村あたりが一番であると思われます」
参謀達がそう話し合いテルシオに意見を具申してきた。
「すぐに出動するぞ!」
テルシオはそう言う。
山の頂上で待機をしている俺達。敵の動きを探るために虫から伝わってくる情報を聞いていた。
テルシオの軍が進路を変えた事を知った。
「まだそんな段階じゃないのに!」
テルシオの軍がある村に向けて動いているのをデイナから聞いて言う。
「大変! 村の人達が!」
デイナはロドムに向けて言う。ロドムの手を握り『村の人達を助けて』とでも訴えてきているようだ。
「ワームホールを使う」
村の規模を聞けば、ワームホールで全員を避難させる事も可能な数のようだ。
まあ、俺が万全の状態ならの話だが。
「ロドム様の魔力が戻るには時間が必要です」
フェリエは俺の手を握るデイナ向けて言う。
「ほのから力を吸収しよう」
「助けるつもりですか!」
フェリエが俺に向けて言う。俺はそんな言葉を聞いてはいなかった。
「せめて行きの魔力だけでも、節約できればレイティエルとかに運んでもらえば節約もできる」
「人助けのためならやぶさかでもないが」
フェリエの肩に止まっているハトの姿をしたレイティエルが言う。
「待ちなさい! そんなもの主人である私が許可をしません!」
ふいにフェリエの事を見た俺。
「あなた一人がそこまでの負担を負う事はないでしょう! ふつう見捨てますよ! 父君の千と私達の三十の数で十万の相手と戦っているのですよ! そんな事にまで構っていられますか!」
「フェリエ!」
フェリエのいう事ももっともだ。その時はそんな事をかんがえもしなかった。人が危ないから助ける。それだけしか考えられなくなっていたし、それが正しいと本気で信じていた。
「いいです、わかりました。ですが、私とシィも連れていってくださいまし!」
投げやり気味にフェリエも言う。この時の選択はどう見ても間違いだ。後になってみればそう思う。
この時の行動が後々に響いてくる事になるのだ。




