ペスト
「こっからが本番だ」
あの六人は、みんな倒した。主にネリフスが倒した。
「あんな戦い方で勝ってもうれしくないが、そこは戦争だ。敵の不意をつこうと卑怯な事をしようと勝てばいい世界だ」
ネリフスは調子に乗って言う。
あれ? もしかして俺に文句を言っている?
「貴様も騎士の家系なんだから、家督に恥じない戦いをして見せるんだな」
「十万対三十前後の数でどうやって正々堂々と正面から戦えってんだ?」
いままでは寡黙であまり口を開かなかったネリフスだが、発言権を得ると急に饒舌になりだした。
自分が実績を作るのを待っていたんだろう。これ以上グチグチ言わせるのも面白くない。適当に言いくるめる。
「自分を騎士だと自覚しているのなら国を守るためなら、すべてを捨ててでも事に臨まないといけないだろう? 卑怯な手でも敵の不意をつこうとも悪魔に魂を売ってでも」
そう言われれば饒舌になったネリフスも黙るしかない。
正直、俺がどの口で騎士の誇りを語るのかってところだけど。
ネリフスはそれ以上何も言ってこなかったんで、ここはこれで収める事にする。
「さてと」
俺は、ほのに持たせた宝石を取った。握り拳大の大きさの袋をほのから受け取る。
中身はブラックオニキスがいっぱい詰まっている。これから一世一代の大魔法を使うことになるのだ。
「その呪いはすべての者を犯し、蝕み、殺す」
この魔法は『ペスト』と名づけた。
この魔法は毒の霧を発生させ吸った敵を弱らせる。
普通に使えばこの範囲魔法は敵ばかりではなく味方ごと毒の霧の中に沈めてしまうという使い道の分からない魔法だった。
ここは丘の上で眼下には敵の補給隊がある。霧を発生させる場所を下に限定させれば、味方を傷つけずに敵だけに毒の霧を吸わせることができる。
俺の眼下に真っ黒の霧が発生して補給隊の姿を覆い隠した。それを見て俺は顔がニヤつく。俺の目論見はおそらく成功をするだろう。
補給部は両側を崖に挟まれた参道を移動中である。
テルシオからは、ここは敵が襲ってくるには恰好のポイントであるのは聞いていた。
敵が襲ってくるような様子はなくこの兵力に攻撃を仕掛けようなどという馬鹿者もいないはずだと高をくくっていた。
補給部隊の面々はこの任務は何の問題もなくこなせると思っていた。
彼らも訓練をされた兵士達だ。自分の任務を各々遂行し無駄話をしているような者はいない。
みんな仏頂面で荷物を運ぶ任務に従事していた。
口を開く者が誰もいない今の状況で、馬車のタイヤが回るカタカタという音と人が地面を踏みしめる『ざっざっ……』という音がやけに大きく聞こえていた。
そこにロドムの『ペスト』の魔法が降りかかる。
「敵襲だ!」
訓練された者達は突然の敵の攻撃にすぐさま対応した。
「敵の毒魔法だ! 体を低くしろ! 霧を吸うな!」
そう指示を出す指揮官。そして他の者達は黙ってその指示に従っていた。
「こんな大がかりの魔法は長く続かない! 少し待てばこの魔法も消えるだろう!」
これだけ広い範囲に魔法を撃っているのだ、敵の魔力はすぐに尽きるだろう。という考えだ。その考えは当然であり、ロドム自身もこんな大がかりな魔法を長時間維持することはできない。
短時間の霧の魔法で十分だ。それで目的は達成される。
少し霧の色が薄くなっていくのだが『ドサッ』と地面に何かが倒れる音が聞こえた。
「敵の狙いはこれだった」
兵士の一人がうなるような声で言う。
こんなありきたりの魔法では精鋭の兵士達を倒すことはできない。だが、『馬』は別だ。
黒い霧を思いっきり吸った馬は次々に倒れていった。馬車をひく馬がいなくなるとこんな大荷物を運ぶすでがない。
「負けた」
補給の兵士の一人は、悔しげにして唸る。
だが、これで終わりではなかった。
「敵襲! 上からだ!」
指揮官がそう言うのに補給の兵士達は次々に上を見上げた。
ゴッドスピアが上空から落ちてきていたのだ。
次々に光の柱が馬車の荷台の上に落とされ中にあるものは次々にダメになっていく。
「まだだ! みんなまだ顔を上げるな!」
指揮官はさらにそう言う。
山の上から二十数人の敵が駆け下りてきたのだ。
荷物はゴッドスピアによってぐちゃぐちゃにされているが、武器の類は壊れていないものも多い。
これらはまだ使えるはずだったがそれはロドム達も織り込み済みの事だ。
山のうえから駆け下りてきた者達は、その武器が目当てのようだ。すぐに駆け寄ってきて剣や槍を次々に拾っていく。 二十数名の男たちがどんどんと自分達の補給すべき武器を拾っていくのを見ているもののそれを黙って見ているしかない。
だたのバカなら武器を拾う男たちに食って掛かっていっただろうが、補給の人間はゴッドスピアを見ている。
ここで出しゃばったら確実にあの魔法でつぶされる。
それが分かっているからこそ兵達はうかつには飛び出さない。
「もう十分だろう! 帰るぞ!」
そう子供の甲高い声が聞こえる。彼らは『これが奴の声か』とその声の正体にすぐに気づいた。
あのテルシオを手玉に取ったロドム=エーリッヒである。
彼らの一番の敵だ。
彼はまだ十歳であるという情報を知ってはいたものの、実際に十歳の少年が敵の指揮をしているのを見ると信じられない気持ちになる。
これからこの補給部の面々は、ロドムに殺しても足りなくらいの憎悪を抱くようになるのだ。
補給の兵士達はそのロドムの姿をしっかり見た。二度とこの顔を忘れないように。
ロドムは指揮に夢中になっているらしく、彼らの事など見ていなかったが彼を守るために二人の女の子が彼らを見張っていた。
『あれがフェリエ=ドロランドとシィか』
この二人の事も情報として知っている。フェリエはとにかくでたらめに強い。シィは参謀として優秀。
この二人はロドム=エーリッヒの片腕であり、彼女らのうち片方でも倒せばロドム=エーリッヒの力を大きくそぐことができる。
ロドムはすぐにワームホールを作った。その中に兵達とフェリエとシィを入れてからロドムが入り、この場から消えていった。




