意外な事だらけ
敵の数は六人。デイナがおくっできた情報ではそうなった。近くに伏兵の姿もない。虫を大量に飛ばして、草の根を分けて調べたのだから間違いはないだろう。
この六人は連携や協力をできる六人であると見る。
普通に訓練を積んでいたら多少の連携はとれるようになって当然なんだが。
訓練を積む時間が俺にはなかった。
父の隊だって見せてもらったが整列すらもできなかった。
進軍にさいし列を作る事などは当然持っていてしかるべき能力である。これができなければ古代の時代の軍隊にも入る事はできない。
敵が連携を取る事になるとするとそれをできない俺達は、敵を分断する事を考えないといけない。一人の敵に最低でも一人。
フェリエの使い魔のレイティエルには俺の作戦の詳細を話しておいた。
こいつは俺の事を信用していないというか、隙あらば殺そうとしているフシすらある。
こいつには信用をもらわないといけない。俺がこの作戦の概要を教えるとレイティエルは鼻をならしてから言う。
「愚か者にしてはそこそこ考えた方か」
何様のつもりだという返事であるが、そんな事を気にしているような状況ではない。
フェリエも俺の作戦に従うようにしっかりと釘を刺したはずだし、今回は動いてくれるだろう。
作戦の概要はこうだ。
レイティエルとほの二人の役割は敵の足止めだ。この二人がいれば六人中二人の敵を足止めする事ができるだろう。
俺も足止めに入る。敵を倒す魔法は持ってなくても妨害の魔法は腐るほどあるから。
これで、敵のうち三人の足止めをできるという作戦内容になる。
残りの三人に、『エーリッヒJr隊』の人間をあてがう。彼らは多少の連携はとれるように訓練をしている。
エーリッヒJr隊の人数は三十くらいになっている。いくら何でも戦力差は十分の一の相手だ。勝てるであろう。
勝てるって確信ができないのがきびしいところだ。彼らにとっては初の実戦。士気も低ければ。訓練だって十分じゃないし人数も少ない。
ここまで考えれば十分だ。あとは実行にうつすのみ。俺はワームホールを二つ作った。
六人で輪になった陣形で迎え撃とうとしている敵の中心に俺達は出る。一つはレイティエルとほのと俺。もう一つはその他大勢が通るためのワームホールだ。
「健闘を祈る」
指揮官らしく最後にはそう言いそれぞれのワームホールに入っていった。
俺がワームホールを抜けると三人の敵が目に入った。先にほのとレイティエルがそれぞれの相手に向かっていく。
犬の姿になったほのは炎を吐き相手を牽制。レイティエルも槍を突き出して攻撃。この攻撃は小手調べのものであると分かる軽い突きだ。
二人とも自分の役割をよく理解している。俺もなんか敵の注意を引かないと。
俺は魔法を使った
『我が手に触れるもの腐食をする……』
久々に使うコープスハンドだ。俺はコープスハンド状態で敵とにらみ合う。
俺の魔法の効果を測りかねている敵は俺に手を出しはしなかった。これで牽制としての役割は果たしている。
敵はこの魔法を強化魔法か何かだと思っているのだろう。慎重になりジリジリと俺と距離をつめてきた。
まあこっちはいい。問題は後ろだ。
後ろにはフェリエとシィもいた。魔法を使わないという条件で二人が参加する事を許可したのだ。
魔法がなくてこの二人に何ができるかわからないが。
後ろの様子は俺の考えた作戦以上の状態になっていた。
特筆すべきなのはあのにくきネリフス。
ネリフスは剣を構え敵と相対した。他の『エーリッヒJr隊』の面々は敵を恐れて手が出せないでいた。
これだけならば『俺が作戦を考えた意味がないだろう』と思っていたところだが、そのへんはネリフスがカバーをしてくれている。
ネリフスだけは果敢に敵に切りかかっていっていた。
「あんたたち! ぼさっとしていないで攻撃しな!」
何この女王様みたいな発言?
だが、振り向いて確認する事もできないこの状況。
「イエス! クイーン!」
そうエーリッヒ隊の面々が叫ぶ声が聞こえてくる。
ちょっと待て! フェリエは『エーリッヒJr隊』の奴らに自分の事をクイーンと呼ばせてんのか?
それから、なかばやけっぱち気味でエーリッヒJr隊の奴らが敵に突撃をしていった。
『調教されてる』
確かに隊の奴らの訓練をフェリエに任せていたがこんな事仕込んでいたのか? 一応正規軍なんだから公序良俗に反した事はやめていただきたい。
「皆さま! 兵士となったときからこの事は覚悟をなされていたはずです。この国に命をささげなさい」
なんか調子に乗ったシィがそんな事まで言い出した。
「御意! お姫様!」
『エーリッヒJr隊』の奴らはシィの言葉にそう答えた。
『シィ。お前もか』
シィはシィで、自分の事を『お姫様』とか呼ばせてんのか。人の隊の人間を勝手に調教するのはやめていただきたい。
「負ける相手ではない! 勇気をもって突貫しろ!」
ネリフスがそう叫ぶ。
『まさか』
と思いながらも後ろから聞こえてくる声を聞いた。
「かしこまりました! ローゼンリッターネリフス!」
ネリフス。お前はいつ『エーリッヒJr隊』の奴らを調教した?
こいつら、俺がエーリッヒ隊の大将であるのを忘れてなければいいけど。
最近隊の連中の指導をないがしろにしていた事を後悔しつつも、俺は目の前の敵に集中した。
「この三人は、この私、ネリフスが打ち取った!」
はやすぎる! 後ろでの戦いはもう終わってしまったようだ。しかも敵を打倒したのがネリフスだって?
「シィ! フェリエ! 本当なの?」
俺が敵と対峙しながら言う。
「本当です。ですが、魔法を使う許可をいただければ、私だってあれくらいの働きをしていましたわ」
「彼女のお手並みは見せてもらいました。悔しいけど認めるしかありません」
フェリエとシィの二人は悔しそうにして言う。
どうやらネリフスが三人を撃破したのは本当らしい。
もう勝手にしろ。
ここでネリフスに一発恥をかかせてやるつもりだったのだが予定が狂った。ネリフスはこの活躍で地位を確固たるものにしたのだ。




