次の日の朝
次の日、ドアをドンドンと叩く音で目を覚ました。
今は、まだ日が昇ってもいない時間。前の世界の時間にすると午前四時くらいだろう。
「どなたですか?」
ドアの前まで歩いてそう聞く。返事はすぐに返ってきた。
「ロドム! さっそく仕事だ!」
父の声だ。俺が父にイラついたのは昨日の話。舌の根も乾かないうちから父は何をさせようというのだろうか?
「敵が攻めてきた! 俺達だけで迎撃をしないといけない!」
はい? 俺の指揮する隊はまだ二十名くらいしか集まってないんだけど。
「騎士団の方から言われたんだ! 完全に罠だろうが断れない! 敵にはテルシオがいるっていう!」
その状況がいくらマズいのかはその時には理解できなかった。敵の規模がまずさっぱりである。
だが少しして、部屋にフェリエとシィが血相を変えて飛び込んでくる頃になると、絶望的な状況であると思い知ることになった。
ここは城の一室。作戦室と呼ばれる場所で城の本丸から離れた塔の上にある一室だ。
石の椅子が並び中心には丸いテーブルがある。ここでなら二十人以上の幹部たちを一同に並べて、作戦会議をする事もできただろう。
ここにいるのはいつものメンバーだけだ。
みんな行儀よく椅子に座ってテーブルを囲んでいるものの、このメンバーが俺の作戦をどれだけ理解できるかは分からない。
考えられた作戦の意味がわかるのは父とティラッチェくらいだろう。
「敵の数は?」
俺がみんなと同じように血相を変えたのはあれから数分後の事だ。
敵が今どのあたりにいるか、敵の数はいくらか、どのような装備を持っているか、それらを細かいところまで調べないといけない。
敵の隊の穴を見つけないといけないのだ。そこをついて勝筋を見つける。敵の弱所突かないと勝ち目はない。
騎士団は父に向けて『女王の側近として力を発揮する事を期待する』などという言葉を送ったらしい。
完全に俺たち任せにするつもりである。こちらの協力をする気はまったくないようだ。
「デイナさんが蟲を使って調べています」
これを言ったのはシィだ。シィの普段の様子は不敵なくらいであるものの、この状況には慣れないらしく少し震えていた。
ここから逃げ出したい気分にもなっている。何も女王から言われなかったら、さっさとフェリエとシィあたりを連れて逃げ出していただろう。
朝に父に叩き起こされて部屋から出るときこんな事があった。
「ロドム!」
ドアを開けて部屋からできた時、いきなり女王が俺に飛びついてきた。
「不安だ! 不安だよ!」
俺の肩に顎を置く形になりながら女王は言う。普段の高飛車な態度はそこからはまったく想像できないくらいに必死になって泣いていた。
「陛下。こんなことをなされては」
それに答えて言う。こんなところをフェリエに見られたらという事もあるし、一介の女王が俺なんかに抱き付いているのもよろしくない。
「エーリッヒが『恥も外聞も捨てて、ロドムに泣きつくのです』って」
女王は何も聞かないうちにそう言ってきた。この状況を作った犯人は父か。だからってこんな事をさせるか?
「このままじゃ、妾も。ネリフスも。みんな殺されてしまう。騎士達はこの国を売ったのだ」
親衛隊達は、女王にも言ったらしい。
『我々は協力をできない』と。
理由までは聞かない。しょうもない理由をでっち上げたのだろうし、親衛隊たちを無理に戦わせても、まともに敵と戦闘をするとは思えない。
無理に指示を出して動かしても、下手すりゃ親衛隊達に背中を切られるかもしれない。
この国を自分で壊すまでの気持ちがないのは唯一の救いだろう。親衛隊達も自分で女王の首級を作る覚悟までないと見える。
「頼みの綱はエーリッヒだけだよ、だって学院戦の司令官だったんでしょう?」
女王まはるでそこらの女の子のような口調で話し始めた。
女王はうるんだ目で俺の事を見つめる。こう見ると本当に女王はただの女の子だ。
「私を助けて」
ストレートにそう言ってくる女王。俺はそれに舌打ちをした。
『女の子に泣かれたら、断れない』
こんな考えなんてマンガの中の登場人物だけの話であると思っていた。だが、これは実際にされるとキツい。
「あなたは私が守ります」
根拠もない。自分には力もない。戦わなくてはならない。マンガの主人公の気持ちが今はよくわかった。
創作物は『愛より友情』の時代に変わった今となっては、マンガの主人公に例えるのも無理があるだろうか?
俺は結局女王に籠絡されてしまったのだ。自分自身で痛いほどそれが分かっているため、俺は自分自身に向けて小さく舌打ちをした。
「現在の敵の位置、敵の数、装備の種類を逐一報告しろ!」
今の状況で俺はスイッチが入った。自分では気づかなかったが、後になってみんなから話を聞くと、人が変わったように見えるくらい必死な様子であったのだという。
負けることのできない戦いに参加をするって事がこんなに緊張をするもんなんだろうか?
全身が震えてくる。これは恐怖であるのがはっきりと分かる。だがその恐怖以上にこの戦いに挑む戦意もあった。恐怖なんて気にならなくなるくらいだ。
敵の中にテルシオがいる。それだけで一筋縄ではいかない敵であるのが分かる。
「やっと軍師の顔になったね。テルシオとは違う形で覚醒をしたようだ」
「茶々入れる事しか頭にないんですか」
俺は父の言葉に即答でそう返した。
真面目なこの時にそんな事を言うなんて、空気が読めていないとか、その程度のレベルではない。ここまで来ると害悪だ。
父の事を見ると父は両手を上げていた。
もう茶々は入れない。自分は黙っておくという意思表示である。
「オルさんとレデさんが!」
シィはオルとレデの二人を連れてきていたのだ。
「ロドム様。テルシオ達の軍勢と戦わなくてはならなくなったのですね」
オルがそう言った。それが分かっているなら話が早い。二人の事だから何か情報を持ってきてくれたのだろうか?
「テルシオは、昔のテルシオではないです。今のテルシオは権力に取りつかれた悪鬼ですよ」
オルの報告だ。それを聞くと昔会ったテルシオのイメージとはかけ離れているように感じる。
何か、攻略の糸口になるだろうか?
そう考えてオルの話の続きを聞いた。




