女王の過去
『つまり、あいつの狙いは俺におとなしくさせる事なのか』
俺はネリフスの様子をみてそう推測した。
あの『学院戦』の司令官はラルファル帝国にとっては目ざわりな者であるはずだ。そいつが王宮に入って自分の隊を持って、権力を強めているなんていう話になったら面白くない。
単純に言えば警戒の対象だろう。
今の状況は俺にとっては全く望まないところだ。王宮に入ってこんな重要な事を任されるなんてもっと後になってからでいい。
だが現実は、俺は外交上のキーマンになっているのだ。
ラルファル帝国にとって目障りであり、うちの国にとっては期待の若い軍師である。
俺の動向はこの国の未来を決める事になるのだ。
その、俺の監視のためにネリフス預けられた。
ネリフスは女王の幼馴染で高貴の騎士の出である。女王にとっても重要な手駒のはずだ。それを出してきた事を考えると、俺がどれだけ重要視されているのかが分かる。
『いやまてそう考えるのは性急過ぎる』
そもそも女王が抱えている手ごまがどれほどのものかが、まず俺は分かっていない。ネリフスは女王にとってどれほどの重要性のある駒なのだろうかがわからないと、さっきの事はいくら考えても活用する手がない。
だが調べようにも俺の行動はネリフスに監視をされている。下手に女王の事を探ろうとするとその行動はすぐに父に筒抜けになる。どうにも動くことができない。
ラルファル帝国にとって、俺の行動は不気味なはずだし、この国にとっても俺の行動は気になるはずだ。毒にも薬にもなるんだからな。
「ネリフス。僕と結婚をするなんて事本気でいいのかい?」
とりあえず俺は後ろに歩くネリフスにそう言った。女王の周囲の事を聞きたいところだが、やはりそんな事を聞いたら警戒をされるだろう。
この質問によって知りたい裏などまったくない。だがネリフスは目を細めたようだ。俺の背中にちくちく視線が刺さっているのを感じる。
「なんだ? いきなり聞いてきて? 私から何かを聞きだそうとしているんじゃないだろうな?」
うざいよ。ネリフスは俺の事を完全に警戒しているようだ。世間話の一つも気楽にできない状況らしい。いくらなんでも固くなりすぎだ。
「君の忠誠心ってのは度が過ぎていると思ってね。基本的に忠誠ってのは忠誠を尽くすと『利益がある』から生まれるものだし」
まあこの世界に限らず忠誠心というのはそういうものだ。
昔の騎士や侍だって忠誠の見返りに領地を与えられた。侍は敵と戦うと敵から奪った領地を与えられる。だか、自分の命を賭けてまで大名の敵と戦ったのだ。
騎士は王から領地を与えられる。その領地を守るため王と契約をしたのである。
「ゲスの考えだ。私は昔からの女王の僕だ。すべてを女王に捧げると誓った身。たとえこの国がなくなって、女王が権力を何も持たなくなっても私の忠誠はなくならない」
「優等生だな」
俺は半分『まずった』と思いながらそう言った。
こういう奴もいるって事か。その辺俺の思慮が足りなかった。こんな奴にこんな事を言ったら、まず間違いなく『女王への忠誠心に疑問がある』なんて話になる。
ネリフスが頭の固い本物も騎士であるのはよくわかった。
「昔の女王ってのはどんな子だった?」
俺はネリフスにそう聞いた。
もちろんこれも何かの裏があるわけではない。これもただの世間話だ。
「昔の女王は」
それからネリフスは話し出した。
昔の女王は、大貴族の娘として生まれた。女王として玉座に座るような位置にはなかったため花嫁修業ばかりをしていたのだという。しつけは厳しくピアノやマナーを叩き込まれた。
ネリフスはその時からの知り合いなのだという。
ネリフスは将来騎士になる事を望んでいた。女性が騎士になるというのは王族などの権力者の女性を護衛するという。近衛騎士になる以外に道はない。
この世界では女が前線に出る事なんて望まれていなかったのだ。
今の女王の護衛をしていたのはこれから先にネリフスが高貴の女性を護衛をする予行練習として手ごろな相手だった。
その頃の女王がお転婆で彼女を止める人間が必要だったのもあるという。確かに女王にはあのキツい感じがある。
予行練習として手ごろなくらいの地位だったのだ。彼女がこの国の女王に選ばれたのにはそれなりの事情があるのだ。
その事情をネリフスが話してくれる。
この国には前々からラルファル帝国からの使者が送られていた。
この国にラルファル帝国の属国になる事を要求してきた。それを無礼であるとして跳ね返していた。
その頃はラルファル帝国がこのような大きな国にはなっていなかったため、その王の行動に口をはさむものはいなかった。
ラルファル帝国は力をつけてきた。戦いでは連戦連勝をし、国力差が二倍もある隣の国を飲み込んだのだ。
『それはたぶんテルシオの力』
その話は有名な事だ。この噂は国中に飛び火し国中の人間が得体のしれない強国であるラルファル帝国に恐怖をした。俺が記憶するに二年くらい前の話だ。
その頃にはすでにテルシオはラルファル帝国に重用されて戦っていたはずだ。
「この国が戦火に巻き込まれる事を恐れた女王は、今の大臣に声を掛けられた。この国を救いたい、他の奴らは権力争いしか考えていない。自分がこの国の王になる事しか考えておらずそのためならラルファル帝国に国を売る者も少なくない。」
この国の軍務に就く者こそラルファル帝国に取り入っていった。
ラルファル帝国と戦ったら絶対に負ける。命があるうちにラルファル帝国と密約を交わしておき、自分の生命と財産を守るように契約をしたのだ。
その事は大臣にすぐにバレ、敵国と内通した罪でその軍人たちは皆処刑された。
それからこの女王は誰も信じなくなったのだという。
横柄な態度で王宮の人間に接し、気に入らないものは自分の気分次第で追放をするようになった。
こうでもしないと軍人たちは調子に乗る。こちらがいくら譲歩をしても相手は付け込んでくるだけであるというのを身をもって知ったからである。
その言葉を何となしに聞いていた。
女王にも苦労があったんだと、その程度の感想しか持たなかったのだ。




