ネリフスの様子
「誰も味方にならないな」
王宮の中を歩きながらそうつぶやいた。
俺とすれ違う王宮の兵士や侍女達は、すれちがう俺の事を物珍しそうにしてみていた。
「そろそろ一週間になるのに」
いまだに俺が珍しいのだろうか。一週間目にもなると、王宮を出入りする子供である俺に事を気にする人はいなくなると思っていた。
だが洗濯物が山盛りになった籠を抱えているまだ若いメイドが横目で俺の事を見る。
俺はその視線に気づきつつも考え事をしているふうにして床を見つめながら歩いていた。
「それとも何かあるのか?」
俺はそうつぶやいた。俺は女王と通じている。訳も分からないまま俺の父についていったら、いわば『女王派』の一人に組み込まれてしまった。
ネリフスと結婚をした事が原因かもしれない。あれで、かなりの有名人になっているはずだしな。
そこまでして俺を女王派に入れた父はなんで俺を引き込んだのかがまずわからない。理由が分かれば俺だって行動に指針が取れるのだが。
あの、父の事だから何か深い考えでもあるのだろうか。俺はそう感じた。
「いやいや、そもそも、父が女王とズブズブなんだから、連座制で俺も一緒にとか」
考えれば考えるほど救いのない話だし、生き残れる目途も見えない。父の目的も見えないのは、それにさらなる不安要素だ。
「噂になってるぞ」
後ろからそう声が聞こえてきた。
「ディラッチェ」
声だけで誰かは、分かる。俺が王宮に招待したのだ。
「デイナのついでに呼んだディラッチェ君? 挨拶くらいできないの?」
俺は言う。ディラッチェはそんな言葉くらいでは怒りはしなかった。
「ずいぶんとまあ、機嫌が悪いようだが」
そう言い、ディラッチェは俺のすぐ後ろにまで歩いてきた。
「そんなもんを背中に張り付けながら見栄を切っても締まらないぞ」
そう言い、ディラッチェは俺の背中からある紙を取り出した。
俺の服の裾に挟んで取り付けられていたらしいその紙を引き抜き振り返った俺に見せる。
『私は女王の忠実な僕です』
そう書いてあった。
「これって、ジャイアンツのユニフォーム着て大阪に行くくらい危険な事なんじゃないか!」
これ張ったの絶対父だ。本当に、俺に何をやらせたいのだろうか?
「愛しのマイダーリン。これは感心な事だな。女王への忠誠を示しながら王宮を闊歩するとは」
「マイダーリンはやめんか。いらっとくる」
俺はネリフスが正面からやってきてそう言ってくるのを聞いた。
ネリフスの顔がニヤついている。
おそらくこの事を聞いてやってきたのだろう。
誰かに何かを吹き込まれてきたのだろうな。様子がおかしすぎる。
こういうところが分かりやすいんだよな。顔がにやついていて『我に秘策あり』とでもいいたげな顔だ。
まあ、今回は泳がせておこう。今のままでは要素が少なすぎて予測の一つも立てられない。
「あなたなら、女王のためを思えば何をするべきなのか? 女王のために身を粉にして働いてくれるあなたに期待していますよ」
『軍備を増強して、ラルファル帝国に対抗できる戦力を作るべき』
そう言いかかったがそんな事を言ったらネリフスは警戒をしてくるだろう。もっと調子に乗らせてネリフスの口を軽くする方がいい。
「女王の心の平静のためにお菓子でも御作りしませんと」
俺は言う。
「そんなもの望んでおられないぞ。我らの王は」
機嫌が悪くなった感じでネリフスが言う。俺は試しにこう言ってみた。
「とにかく、女王に仇名す者を見つけて成敗をしませんと」
俺に求められているのは、政略参謀的なものなのだろうと、あたりをつけての発言だ。俺に望まれているのがそれなら、何等かのアクションがあるはずだ。
ネリフスは上機嫌で言い出す。
「まあ、お前にそこまでのものが望まれているかは分からないけどな」
この言いようを聞くに大体当たりと見た。
この程度の事ならば父が俺に話さない理由が分からない。
もう乗り掛かった舟だしいまさら降りる事もできないような状況。女王を暗殺から救った事もある。実績としては十分なはずだ。
心配なのは信頼だろうとも思う。俺は何かチャンスがあれば裏切りそうだ。女王に対する忠誠なんてものは持ち合わせていないし、危険が迫れば自分の身のかわいさによって、女王を売るなんて事は平気でする。
俺を信用できないのはその辺だろうかもしれない。
『周囲からの人気がとりたいなら、すぐにでも富国強兵をするべきだ』
という言葉をまた俺は飲み込んだ。
女王と大臣の望みを言えばこうだろう。
『我が国の存続。戦争の阻止。軍人階級の人間の発言力の減退』
このあたりだろう。当然無理に決まってる。
戦争をしないでこの国が存続をする方法は存在しない。他の世界の知識を持つ俺ならなにか策があるのではないだろうかと期待しているのだろう。
俺でも考え付かない。俺は全知全能なわけじゃない。世界的に多大な犠牲を払って人類は争う事の愚かさを理解して、そこで初めて国連なんかの存在があるのだ。
それでも争いは絶えない。人が戦うことを止めることは誰にもできないだろう。
「この世界から、争いを無くす方法は今はなくとも必ず誰かが考え出すはずです。その時我々はその人の理想を手助けする役に回るべきなのです」
普段の俺なら歯が浮いて言えない言葉であるがネリフスの反応を見るためにそう言う。
俺の言葉に、ディラッチェは俺に背を向けて「けっ……」と言った。
フェリエの反応とまったく同じだ。わざとらしくて見え見えすぎるんかね?
正直俺だってこんな事を言いたくないんだ。
おれはネリフスの様子をちらりと見る。やけに満足げな顔をしたネリフスがそこにあったのだ。




