ひきょうもの
俺と父は二人で戻っていった。今は父の部屋の前。
「私に何をさせたいんですか? この国を守りたいなら、いますぐ軍備増強をするべきに決まっています」
「壁に耳あり障子に目あり」
俺はそう言われて辺りを見回した。だれか聞いている人間がいるのかと思ったが、そうでもないらしい。
だが、父の狙いはそうしている間に生まれる隙にあったらしい。俺が周囲を見回している隙に父は自分の部屋に入っていった。
「しまった」
俺はそう言いながら父の部屋のドアを開けようとしたが、それよりも一瞬早く父は部屋のドアの鍵を閉めた。
「話の最中ですよ! こんな事をして協力が得られると思っているのですか?」
重要な話になるとすぐにケムにまくような行動をする。いつもの事だった。
俺がドアに向けて言っても返事は返ってこなかった。
俺は、この部屋のドアを見た。ニスが塗ってありそれなりに上質な見た目をしているが、彫刻のされた大臣の部屋なんかと比べれば、まだまだグレードダウンをしているように見える。
綺麗に磨かれた桐のドアをドンドンと叩く俺。
「聞きたいことがあるなら、言っておいてくれ。返事は後日に返す」
「後出しじゃんけんかよ」
俺は不機嫌なのを隠さずにそう言った。
俺の質問や不満を聞き、その返事をじっくりと考えた上で、後になって用意しておいた返事をする。
これはどう考えても自分に有利な返答を考えたいだけである。こんなセコい事をされると俺の父に対する信頼は地に落ちるというのに。
「いったい何を求めているんですか? 地位ですか? それとも大臣と女王の弱みに付け込んで、どさくさで甘い汁でも吸おうって考えているんですか?」
俺はクルリと振り返りドアに背中を預けながらそう聞く。
「心外だ。たとえ息子と言えど私の事を侮辱するような事を言うのは許さないよ。この事は後で、上官に対する無礼な発言としてきっちり処理をさせてもらう」
「話を逸らすな!」
俺はその状態で言う。腹の中はムカムカしている。前の世界での嫌味な上司がとってきた行動を同じ事をビシバシとやってくる。
どの世界でもこういう人が偉くなれるんだと思うとイライラしてくる。
「お前はいいよな。自分の事だけを考えていればいいんだから。お前の事はもちろん女王の事も大臣の事も、この国の事も一緒に考えて行動をしないといけない。お前のような身軽な人間とは違うんだ」
その言葉で俺は切れた。そのドアを思いっきり蹴ってドカンという音を立てた。
綺麗ごとを言っているのにむかついたが結局俺に隠し事ばかりなのを、さも綺麗な行動のようにして美化して言うところが昔嫌いだった上司と本当にそっくりだった。
「俺に話したら国のためにも、大臣のためにも、女王のためにもよくないと? いったい何を隠しているんですか?」
俺はフルフルと手を震わせながらそう言う。
「分かってくれ。お前は私の事を信用してくれればいい。最後にはみんなが幸せになるような結末を用意している」
「全幅の信頼を寄せましょう。私の偉大なるお父様……」
これ以上何を言ったところで無駄だ。俺はそう思い父の部屋の前から去っていった。
「死ね」
俺はそう小さくいってから父の部屋の前から去っていった。
「お父様とそんな事がありましたか……」
自分の部屋に戻るとフェリエが俺の事を待っていた。
大臣の凱旋に出席をしてから俺の顔を見ようとして俺の部屋にやってきていたらしい。部屋に帰るのは遅くなり、フェリエも俺の事をずいぶん待ったらしい。
フェリエはシィの淹れたお茶を飲みながら不機嫌な俺が帰ってくるのを迎えた。
そのフェリエについさっきあった事を話したのだ。
「ロドム様の考えすぎじゃないでしょうか?」
「教えてもらえないから、あれこれ考えちゃうんだろう?」
「そういうところですよ」
フェリエが言うには俺は口が上手い。からこそ、話をすると自分の考えを否定されてしまうかもしれない。それが怖いから本当の事を話せないのだという。
「俺の口が上手いんじゃない。君らの考えていることが卑怯すぎるんだろう?」
「だから、そういうところなのだと」
フェリエが困り顔で言う。俺としてはフェリエの言い分を聞く気にはなれない。父も自分のやりたい事があって、それが俺の意に反するような内容だったら自分一人でやるべきだ。
普通の会社でもそうである。
反対派の力を借りないと実行不可能なプロジェクトなら最初から実行すべきではない。
反対派が素直に従うとは思えない。当然足をすくわれるような事にもなりかねない。
「だからそういうところですって」
「さっきからそればっかりだな」
俺はどう考えても納得がいかない。それも当然である。
「結局自分の考えを通したいだけだろう? もっと効率的だったり人道的だったりする方法があっても、自分の考えだからだとか考えて、それをどうしても通そうとするなんて、ただのわがままだと思わないかい?」
こんな事を続けられるようじゃ、おれだっていつまでも父に付き合っていられない。
「あなたは、自分の父親がそんな悪い人に見えるのですか?」
フェリエは俺の事をまっすぐ見つめながら言う。
その言葉ってなにか表現が足りないような気がする。何が言いたいのかは、なんとなくわかるのでいいのだが。
「そういう言い方は卑怯だよ」
俺に父の事をどう思っているかを言えと言うのだろうか? こんな話をした直後である。この状況で俺が『お父様大好き』などと答える事は絶対にありえない。
壁に耳あり障子に目ありだ。この場にはいないが、もしネリフスにそんな言葉を聞かれたら、バッチリ報告をされてしまう。
「その質問は『自分の父親が間違った判断をすると思っているのですか?』って聞くべきだ」
俺はイラつきながらそう言った。
フェリエがこの事に関して俺の味方にはならないことは分かった。俺は不機嫌なまま部屋から出ていったのだ。




