大臣と女王
王宮の城門が思いっきり開かれて城門を一台の馬車。そして、それを取り囲む護衛の二十騎の騎兵を一緒に従えてやってきていた。
それが中に入り、王宮へと向かう。
王宮のドアは彫刻の彫られた石のドアだ。そのドアの中に大臣と護衛の騎兵達は入っていこうというのだ。
馬車から降りると危険だ。いつ『敵』の刺客に狙われるかわからない。
そういったところだろう。馬車から降りようとしない。大臣が馬車から降りるのは、王宮の中に馬車のまま乗りあげ、安全な大臣の部屋の前に着いてからだという。
大臣はこの王宮で好き勝手やっているという自覚はあるようで、常に暗殺に備えているらしい。
「大臣様の凱旋です!」
俺は次の日、この国の一番の膿である大臣の事を迎える列に参加した。この二十騎の騎兵に守られて、王宮に入ってきたのがこの国の大臣だという事だ。
俺って目立つだろうな。俺は軍師達の列にいる。中年や、壮年の男やらが、勲章をいくつもつけられた豪華な軍服を着ている列の中で、十歳の俺が子供用の正装の服を着てそれに並んでいるのだ。
馬車の中を確認してみると、大臣は馬車のカーテンを上げて出迎えた人間達を見回した。
一瞬俺と、大臣の男は目が合った。めっちゃ不思議そうな顔をしている。その視線も敵意を込めているような疑わし気な視線だ。
「エーリッヒ。エーリッヒJr。大臣様がお呼びだ」
俺は後ろから声をかけられた。
「いいかい? お前は私の話に合わせておけばいい。息子が一軍の指令になったんだ。今日は顔見せの挨拶だ。それだけだ。いね。」
いちいち念押しなんかしなくても、いきなり無礼働いたりはしねぇよ。
父はそう言い俺の前を歩いて行く。俺もそれに倣って父についていく。
「エーリッヒ。変わりなかったか?」
疑わし気な顔をしていたため、第一印象はよくなかった大臣だが、俺の父の前では柔和な笑みを見せた。
それで、俺の大臣に対するイメージは、人のよさそうな爺さんと言った感じのイメージに変わっていく。
「ケッフェル卿も、大任ご苦労様です」
そう言い父は大臣のケッフェル卿と握手をした。
この大臣は軍の敵の男である。だがその軍の敵と仲良くしているという事は、うちの父はこの大臣とズブズブなのではないだろうか。周りからの風当たりも強いのではないかと、考えがよぎる。
「うちの息子のロドムです。『学院戦』の英雄ですよ。わが息子ながら誇らしい」
「確かの我が国としては勝ち戦は好ましい。ラルファルの王の側近や位の高い貴族の子弟もいた。あの戦いは」
勝たない方がよかったとでも言う気か?
俺がその事を考えているのを、父も察したのだろう。後ろ手に俺の頭を指でちょんちょんとつついた。
大丈夫。俺だってバカじゃない。言いたいことは分かる。ここは黙っておこう。
父は話を続ける。
「ケッフェル卿。あなたがこの国とラルファル帝国の戦争をせぬように尽力をしていただいています。今回の外出も、ラルファル帝国との会合のためです。どうか、争いのない平和な世の中をお作りください。私も息子も、そのためなら命を賭ける覚悟です」
「なんだ? いきなり?」
いきなり説明臭い事を言った父にケッフェル卿はキョトンとした顔をしていた。
この説明臭いくらいに説明臭い一言は、俺に対する現在の状態の説明だ。
この言葉一つで、俺は今の状況を知ることができた。俺の父はこの大臣の全幅の信頼を得ている。そのために、父は大臣のラルファル帝国との戦争を回避しようという姿勢に賛同をしているのだ。
もちろん父の考えがどうかは分からないが、表面上はケッフェル卿の一番の理解者らしい。
「はっ。私も微力ながらお手伝いをさせていただきたいと存じます」
俺もそう言った。この状況で『本当は戦争をするべきです。このままではラルファル帝国に毟られていきます』なんて言う事なんてできない。
父め。俺をハメたな?
「叔父様」
そこに女王がやってきた。やっぱり親戚かなんかだったのか。しかし姪を引っ張り込んでこんな危険な事をやらせるなんて、この大臣も無謀な事をするものだ。
実際暗殺されかかっているし、親衛隊の中でも女王を殺すべきという意見の方が主流だし。
こんな、俺と年もそう違わなそうな女の子にやらせるような事ではないはずだ。
「エッセルが」
そう言い女王は顔を伏せた。
それから、手で顔を押さえて泣き始めたのだ。
エッセルといえば女王の事を毒殺しようとした男だった。
確か、女王はあのエッセルという男の事を『妾が信頼を置くエッセルに』だとか言っていたな。あの男の死は彼女にとってはとてつもない衝撃だったのだろう事が想像に難しくない。
「話は聞いている。これでは誰も信用ができんな」
ケッフェル卿はそう言う。俺はその言葉に内心苦笑をしていた。
『父のような何を考えているかわからない奴を重用する時点でおかしいんだよ』
俺が思うに父は何かをたくらんでいる。この平和路線を貫こうとしている愚かな二人の前で、いったい何を計画しているのだろうか?
俺は傅きながらもそう考えた。




