理不尽vs理不尽 09
「商売の女神を、護衛に連れて…… 」
そこまで考えた所で……。
「行けませんね。あのお姉さんに、借りをつくるのは……。怖すぎます」
ぶるるっ。大地母神は、自らの身体を両腕で抱きしめた。商売の女神、どんだけっ?!
「ふうー」
大地母神は、深呼吸した。意識を飛ばし、知識の神の神域をノックした。
「知識の神。確認と、相談があります」
「大地母神ではないか……。珍しいな……」
大地母神の前には、荘厳な建物が建っていた。大図書館のイメージらしい。
「入ってよいぞ」
大きな両開きの扉が、ひとりでに開いた。大地母神は、ゆっくりと扉を潜った。
周囲は、背の高い無数の本棚に囲まれていた。上を見ても、上端が見えない。本棚の中央に巨大な読書机があり、机の上は羊皮紙の束と、重ねられた本で埋まっていた。
机には、壮年の男性が座っていた。背が高く、ひょろひょろで、ギョロ目の男性である。知識の神だ。
周囲には彼が収集した無数の記録がうごめき、本棚を出入りしていた。また、彼自身も知識を溜め込む「器官」のような怪しさを放っている。
「で? 確認と、相談?」
知識の神は、挨拶等は飛ばして本題に入った。
「はい。まずは、前例を確認したいです」
大地母神は、ジュールから持ち掛けられた……冗談みたいな魔法運用についての説明を始めた。
知識の神の右手が、物凄い勢いで、手元の羊皮紙に書き込みをしていく。周囲の本棚から、何冊もの本が飛び出し、勝手にページが開かれる。
「面白いっ!! 面白いぞっ!!」
知識の神のギョロ目が、怪しく光った。大地母神は……数歩後ずさった。
“分かってはいましたが……。怖いですっ!!”
大地母神は、右手を自然に下ろし、短刀の柄を握りしめていた。
“抜きたくは……無いのですが?!”
大地母神の頬を、冷や汗が流れ落ちた。知識の神は、大地母神の様子に気が付いていない。物凄い勢いで……ページを捲っていた。
緊張の時間は……長く続いた。
「前例は……無い」
知識の神は、端的に答えた。
「相談とは?」
知識の神が、大地母神を見た。睨みつけているようにしか、見えなかった。
「今回の魔法運用……知識として、記録しないで頂きたいのです」
「なんだとっ?!」
知識の神の冷たいプレッシャーを受けて、大地母神は反射的に短刀を抜いていた。逆手で抜き、顔の高さで構える。
「落ち着いてください!!」
“怖すぎて、反射的に抜いてしまいましたっ!! これ……。収拾、つきます?!”
「落ち着けるワケが、ないだろうっ!!」
“バカか、お前はっ!!”
2柱の、全力の怒鳴り合い。
神域が、大きく歪んだ。ギシッ。本棚が、嫌な音を立てた。




