理不尽vs理不尽 38
ジュールは組んでいた手を開く。全ての指先と、第一関節の外側に、小さな魔法の光が灯っていた。指をいっぱいに広げ、なんとなくレイブンの顔と膝を狙う。
次の瞬間、歌うように彼女の口から音がこぼれ出した。
『C、Db、F、G、Bb!!』
連続して発せられる単音節の神聖語。気合弾の魔法 を発動させるトリガーだ。
ジュールの右手指先の魔法の光が、次々と発射されていく。小さな光の弾は、レイブンの顔の方に向かって飛んで行った。
『Bb、G、F、D、C!!』
今度は、左手だ。左手指先の魔法の光が、次々と発射されていく。小さな光の弾は、レイブンの膝の方に向かって飛んで行った。
左手を打ち尽くした。今度は、右手で膝を狙う。
『C、Db、F、G、Bb!!』
左手で顔を狙う。
『Bb、G、F、D、C!!』
“これで、20連射っ!!”
ジュールの眼の前では……。理不尽が炸裂していた。レイブンが短刀で、顔に向かってきた豆気合弾の魔法 を弾き飛ばしているのだ。
「何発連射してんだよっ!!」
さすがのレイブンも、10発全ては弾き飛ばせなかった。手甲で顔をガードしながら、前進を続けていた。
「狙いが……えぐいっ!!」
膝を狙った豆気合弾の魔法 は……。少し足を上げて、足甲で受けた。一瞬だけだが、動きが止まる。
『C、Db、F、G、Bb!!』
右手。すでに、狙いをつけている余裕はない。できるだけ末端部を狙う。
『Bb、G、F、D、C!!』
左手。胴体中央を狙う。
ジュールは恐怖を必死で抑え込みながら、連射を続けた。
“怖い! 怖い! 怖いっ!!”
『C、Db、F、G、Bb!!』
右手。
『Bb、G、F、D、C!!』
左手。
『C、Db、F、G、Bb!!』
右手。
『Bb、G、F、D、C!!』
左手。
“距離がっ!! まだ撃てますのにっ!!”
ジュールの顔の前に、レイブンの大きな手が迫った。次の瞬間……。
『ライトニングっ!!』
バルナスの声と共に、電撃の呪文がレイブンに向かって駆けて行った。
レイブンはあっさり避けた。ジュールにはそう見えた。
“あんなに、あっさり……”
「ん? オレの負けか?」
レイブンの手は、ジュールの顔の数センチ手前で止まっていた。
ジュールは、へなへなと膝をついた。
「こ、怖かった……」




