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理不尽vs理不尽  作者: くらま
6.理不尽な魔法を、撃ってみよう。
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理不尽vs理不尽 39

 時間は、少し遡る。


 バルナスの隣りで、ジュールが胸の前で手を組み、目を閉じた。


「うおぉぉぉぉぉ!」

 レイブンが雄叫びを上げながら、こっちに走ってくる。バルナスは、左手を思いっきり突き出した。

「電撃っ!!」

 バルナスの左手につけた指輪から、電撃が迸る。電撃の呪文(ライトニング)を封じたコモンルーンが、キーワードに反応して封じられていた呪文を発動させたのだ。




 レイブンは、あっさり避けた。レイブンの後ろで観戦していたドラナも、あっさり避けた。電撃の呪文(ライトニング)は、レイブンの後ろの建物まで到達して消滅した。




「バケモノめっ!! 詠唱のいらないコモンルーンを、見てから避けるなぁっ!!」

 バルナスは、右手を思いっきり突き出した。

「閃光っ!!」

 右手につけた指輪から、とんでもない光量の閃光が迸った。指向性をもった閃光は、レイブンに向かって弾けた。

 特注の灯り(ライト)のコモンルーンだ。持続時間は一瞬だが、光量は10発分の閃光弾である。


「それは、見てるぜっ!!」

 レイブンはバルナスの右手の動きを見て、両腕をクロスさせて自らの目をカバーした。一瞬だけだが、レイブンの足が止まった。




 ジュールが目をあけた。彼女の指先と第一関節の外側には、小さな魔法の光が灯っていた。指をいっぱいに広げ、なんとなくレイブンの顔と膝を狙う。


 次の瞬間、歌うように彼女の口から音がこぼれ出した。

『C、Db、F、G、Bb!!』

 小さな魔法の光が、レイブンに向かって飛んでいく。





 バルナスは大きく深呼吸すると、呪文の詠唱を開始した。

「マナ・イーウンバルト・デラクーザ……」

 バルナスの口から、朗々と呪文が溢れ出す。上位古代語だ。同時に複雑な身振りにより、空中に魔方陣を描き始めた。呪文をあえて共通語に直すとこういう意味の言葉になる。


『マナよ。万物の根源たるマナよ。我が命に従い、ここに集え』

 中級以上の魔術師であれば、“マナよ”か“万物の根源たるマナよ”の一言で済むところである。今回は完全詠唱の縛りがあるため、バルナスは詠唱を省略していない。


 詠唱に伴い、空気中のマナが目の前に圧縮されていく。圧縮されたマナは、光る球体となった。


『万物の根源たるマナよ。我が命に従い、その姿を現せ! マナよ……。咆哮する電撃となれ!!』

 バルナス体内の魔力を、言葉にのせて言霊と成し、魔法のイメージを生成していく。

 定義付け。魔法を形にする、一番大切な工程。


 バルナスはここで、あえて余計な一節を詠唱に仕込んだ。

『電撃よ……。太く、疾く(はやく)なれ!』

 わずかに詠唱時間が伸びるリスクを負ってでも、魔法の威力と速力を極限まで引き上げるための一節。言うなれば“毒”だ。


『電撃よ、我が敵を射落とせっ !!』

 徐々に光の弾が大きくなり、小さな放電が起こり始めた。




『ライトニングっ!!』

 呪文名(コマンドワード)と同時に、電撃の呪文(ライトニング)が発射された。 黄金色の雷(いかづち)が、レイブンに向かって駆けていく。




「勝負あり! 勝者、バルナスとジュール!」

 神様達の反対側に立っていた、ガロンが右手を上げた。




 レイブンは、大きく身体をひねって電撃の呪文(ライトニング)を避けた。

“あのヤローっ! なんか仕掛けてきやがった!”

 彼にしては珍しく、冷や汗を流していた。




 レイブンの後ろで観戦していたドラナの目から、レイブンの背中が消えた。

 目の前に……。レイブンが避けた、電撃の呪文(ライトニング)が迫ってくる。


「こんどのは……。当たると、痛そうだな」

 ドラナの目には、2発目の方がエグく映っていた。

 さもありなん。完全詠唱により呪文の発動が安定しているだけでなく、電撃の太さと速さが拡大されているのだから。

 ドラナは大きく身体をひねって避けた。電撃の呪文(ライトニング)は、建物に直撃して消えた。ドラナも、冷や汗を流していた。




「ん? オレの負けか?」

 ガロンの宣言を耳にしたレイブンの手は、ジュールの顔の数センチ手前で止まっていた。




「か、紙一重……」

 バルナスは、地面にへたり込んだ。




「本当に……。戦士(ファイター)って、理不尽っ!!」

 全力で、怒鳴った。


《理不尽よねー》

《同意》

 大地母神(ニスシャ)と、知識の神(エスサフィン )が、大きく頷いた。





「それは、こっちのセリフだっ!! なんなんだよっ、あれっ!!」

 レイブンが吠えた。


《魔法って、ズルい(ズリぃ)……》

 戦の神(ノドレイ)のボヤキに、ドラナと多くの神官戦士達が、全力で頷いた。




「どっちもどっち……じゃの」

 ガロンが小さく呟いた。


- 完 -


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