理不尽vs理不尽 21
「戦の神様は?」
ガロンが尋ねた。
「たぶん……。大地母神様が、気を使ったんだと……思うなぁ」
バルナスは、自信なさげだ。
「大地母神様、ご自分が具現する場所を、借りたお礼のつもりじゃない?」
「ですっ!!」
ジュールの回答は、短かった。
「じゃあ……。知識の神様は?」
レイブンが、恐る恐る尋ねた。
「想像も……つかないなぁ……」
バルナスは、ガリガリと頭をかいた。
「ええと……」
ジュールは、小声で続けた。
「聞かないで……と」
静寂。
「よし! 知識の神様については……ここまで!」
バルナスが強引にまとめに入った。その頬を、冷や汗が流れ落ちていた。
「具現化するにあたり……。依り代を準備しろと、仰っていました」
ジュールの言葉が、食堂に染みこんでいった。
「依り代?」
リリスが尋ねた。
「依り代って、なあに?」
「神様が、具現化……この世に現れるための、出口みたいなモノだ」
ドラナの声は、硬かった。そのまま、ジュールに尋ねた。
「ジュール。依り代は、何が必要だ?」
「大地母神様は、私の聖印。
戦の神様は、ご神体の剣。
知識の神様は、バルナス様の薬学辞典……です」
「僕の薬学辞典?!」
バルナスの声は、ひっくり返っていた。
「借り賃として……。
あるアイテムの設計図を、提供していただける、と」
「ある、アイテム?」
ジュールは、バルナスの耳元で囁いた。
「持ち運びできるサイズの、精密体温計の設計図……です」
「まじ?!」
「まじ……です」
持ち運びできるサイズの、精密体温計とは……。極々稀に、古代魔法王国時代の遺跡から発掘される、使い方の分からない謎アイテムである。
とんでもないレアアイテムなのは確かなのだが……。需要が無いので、売っても値段が付かない。(奇特な薬師が、趣味で買うぐらい……)
そんなゴミアイテムだが……。基礎体温という概念を知っている※バルナスにとって、とんでもない価値がある。
「設計図ってことは……。修理ができるかな?!」
「はいっ!!」
「もしかしたら……。新品が作れる?」
「かもしれませんっ!!」
バルナスとジュールは、顔を見合わせた。2人の瞳は、ランランと輝いていた。
「ドラナ姉さん!」
バルナスが怒鳴った。
「お、おうっ!」
ドラナは、バルナスの勢いに押されていた。彼女にしては、珍しい。
「ご神体の剣。準備をお願いしますっ!!」
「まかせろっ!!」
ドラナが走りだした。
「レイブンっ!!」
「なんだぁ?」
レイブンは、普段と変わらない。
「椅子を3脚。できるだけ頑丈なヤツを」
「どこに運ぶ?」
「中庭の中央。特等席に!!」
「わかったぜー」
レイブンが動き出した。
「僕は、薬学辞典を取りに行きます。みなさん、中庭で待ってて!!」
バルナスが走り出した。ジュールが慌てて後を追う。
「バルナスとジュールちゃん、おひるごはん……は?」
リリスが、誰ともなしに尋ねた。
「簡単につまめるものを、準備してもらうか……の」
ガロンが、ゆっくりと立ち上がった。
※バルナスが、基礎体温という概念を知っている理由とは……。
1.賢者の学院の書庫で、「奴隷牧場の運用マニュアル」という書物を発見した。
2.その書物には、以下のように記載されていた。
『奴隷の数を増やすには、奴隷同士に性行為を行わせ、妊娠させるのが手っ取り早い。妊娠しやすい時期を特定すれば、効率的な繁殖が可能』
『妊娠しやすい時期を特定するために、基礎体温グラフを活用する』
『基礎体温グラフの使い方』
3.公開すれば莫大な利益を生むが、精密な体温計が存在しない。机上の空論なので、この知識は隠蔽。
4.遺跡で……。手持ち出来るサイズの、精密な体温計を発見した。(1本しかないので、発見自体を隠蔽)
5.現在有効活用中だが、故障に怯えている。




