理不尽vs理不尽 18
《私は、ジュールの晴れ姿を見たい!
戦の神は、場所を貸してくれてる。
知識の神は……聞かないで!!》
“わ、わかりましたぁっ!!”
ジュールは、なんとなく不穏な空気を察知した。反射的に、承諾の返事を口にする。
《物わかりの良い子は……大好きよ》
大地母神は、ニッコリ微笑んだ。
《依り代は……。私は、ジュールの聖印。
戦の神は……。ご神体の剣。
知識の神は……。バルナスの薬学辞典?!
知識の神、聞いてるでしょ? なんでなのよ?!》
どうやら、大地母神は裏で他の神々と交信しているようだ。
そのノリは……。まるでグループチャットである。
《戦の神の所には、あいつの教典ぐらいしか、書物が無いから?
あれに具現するのは……絶対にゴメンって……》
ここで、大地母神の声が低くなった。
《戦の神!!
少し、黙ろうか!!
もがれたい?!》
《知識の神。バルナス動かすには、報酬が必要よ。
バルナスに対する報酬は?
え? いいの?!》
《伝えてみるけど。いいのね?》
《知識の神、バルナスに対する報酬として……。
持ち運びできるサイズの、精密体温計の設計図を提供するって……》
“!!!”
ジュールは、満面の笑みを浮かべた。
“やりますっ!!”
ジュールは、内心で狂喜乱舞していた。
以下、ジュールの心の声である。
『先日遺跡で発見した、古代魔法王国時代の遺物の設計図?!
設計図ということは……。壊れたら直せるってことですよねっ?!
あれが、直せるということは……。基礎体温の記録が、ずっと可能?
私とバルナス様にとって、とても嬉しい報酬ですっ!!
バルナス様、踊りだしますねっ!!』
大地母神は、ニコニコしていた。
以下、大地母神の内心である。
『喜んでいるジュール。カワイイ』
ジュールの内心は、どうやら筒抜けらしい。
『ジュールの意識が私から外れている、この隙に……。ジュールの記憶のコピーを……』
知識の神への報酬を、こっそりゲットした。
反対にジュールは……。大地母神の行動も、思考も、全く把握出来ていない。神と人では……。存在の格が違いすぎるのだ。
『これを結晶化して……。私の神域に転送……』
とても高度なことを、簡単にやってのけた。おちゃらけてはいても、そこは神である。
《薬学辞典の安全については、知識の神が保証するそうよ》
大地母神は、真面目な表情だ。内心のアレコレは……。完全に隠蔽している。
ジュールは、大地母神に抱き着いた。
“大地母神様!! 大好きですっ!!”
《ありがとっ!!》
2人は、抱き合ったままクルクル回った。幸せの波動が、部屋の中に充満していく。
「んん? なんなの、このヘンな空気は?! 悪いものではないのは……分かるんだけどさっ!!」
蚊帳の外のバルナスは、部屋の中を見上げて……ただ惚けていた。
「ジュール……。戻ってきて……」
彼には、祈ることしかできない。ただ……。彼が信仰している相手は……当事者ではない※。
どこからどう見ても……。完全に空回りである。合掌。
※:バルナスの信仰について……。
バルナスが信仰しているのは商売の女神。
魔術師で賢者なのに、知識の神を信仰していないという……とても珍しいことになっている。
この理由は……。バルナスの実家の職業に関係している。バルナスの実家は、中堅所の商家であり、バルナスは物心がつく前から商売の女神を信仰しているのだ。
魔術師の資格を得るときに、知識の神への改宗を拒んだらしい。
「商売の女神様を裏切ったら……。祟られそうじゃないですか……」




