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分かれ道

 彼女の指差す方を向くと、跳ね返った火の玉がこちらに向かっている。金棒で打ち返そうにも、もう間に合わない。目の前まで青い炎が迫ってきている。危機的状況なのに恐ろしいと思わないのは、ゼノの炎だから。でも反射的に顔を手で覆ってしまった。左腕に熱い痛みが広がってゆく。

 目を見開きこちらを見ているゼノに大丈夫だと伝えなきゃ。彼のことだから、きっと自分を責めてしまう。だから、笑わなきゃ。そう思うのに、痛みで思うように動けなかった。

「エトちゃん、ごめんね。君を傷つけるつもりはなかったんだ」

 レインの言葉に「うん」と言うのが精いっぱいだった。

「俺、冷やすから」

 半ば強引に腕を引かれ、冷たい手が触れる。一瞬痛みを感じたものの、すぐに引いていくのが分かった。もともと体温が低いのか、その手だけが冷たいのか。どちらにせよ、レインが氷の魔力を持っていてよかった。いつも水を汲みに行く川は、少し下った所にある。痛みが広がる前に対処するのは難しかっただろう。

「レインが居てくれて、よかった。ありがとう」

「俺の力なんて、大して役にたたない」

「どうして?私は今、助かったよ」

「そうかい。君って人は……」

 何か言いたそうな沈黙を破ることなく、レインはロナに氷の欠片を渡してどこかへ行ってしまった。 

「傷になっちゃうかな?」

「大丈夫だよ。すぐに冷やしてもらったから」

「そうだといいけど」

 ロナは心配そうに私の腕を、今にも泣きそうな目で見ていた。こんな傷、大したことない。大切なものは何一つ失っていないから。

「心配しないで。私、強いから」

「お師匠、さすがです」

「あ、でも、これは修行しても習得できないからね」

 ちゃんと伝えておかないと、火の中に入る習得をしたいなんで言い出しそうだ。案の定、がっかりした顔を見せるトーガ。炎の修行をしたいのなら、ゼノが適任だろう。そう思い声をかけようとするも、いつの間にかゼノも姿を隠してしまっていた。

 この一瞬の出来事で、みんながバラバラになったしまった様な感覚になった。せっかく一緒に居られると思ったのに。


 ここに居たくないのら、無理矢理連れ戻しても居心地が悪いだけだ。そっとしておくのが正しい優しさなのかもしれない。そう思うも、放っておけないのは楽しい時間を知ってしまったから。

 この家までの帰り道、少しだけかもしれないが何か通じ合えた様な気がした。だから、これからもっと楽しくて暖かい時間を過ごしたいと思った。その為の場所を作ろうと決めたではないか。ならば、私がすることは決まっている。

「ロナちゃん。レインの事、頼んでもいい?」

「いいよ」

 快く引き受けてくれたロナは、さっそくレインが向かった方へ駆けていった。彼女の明るさがあれば、レインはきっと帰ってきてくれる。彼が頑なに拒んでも、連れ戻してくれる。その力がロナにはあるから。何も心配はいらない。より心配なのはゼノの方だ。

「トーガ君は、私と一緒にゼノ君を探してくれる?」

「はい。偵察は得意なので」

「ありがとう。私はここから右手を探す」

「では、僕は左手ですね。お任せください」

 なんとなく、トーガならすぐに見つけてくれると思っていた。不服そうな顔をしながら、ロナに運ばれてきたレインのように。げれど、どれだけ探してもゼノは見つからなかった。

 日が暮れるまで4人で手分けして探したものの、誰もその姿を見ることがないまま夜になった。もう辺りは暗くなり、みんなの体力ももたない。ゼノの捜索は一旦切り上げ、夕食を摂った。朝も昼も軽食だけだったので、私たちはかき込むように皿を平らげた。


 ずっと動き回っていたのだ、みんな夕食を食べ終わると眠そうな顔をしていた。

「昨日よりはいい部屋になったから、今日はゆっくり休んでね」

「怪我しているんだ。君の方こそ休まなきゃ」

 レインは心配そうに包帯を巻かれた腕を見る。心配はさせたくないけれど、何かしていないと落ち着かなかった。早めに食べ終わり、疲れが取れるようにと部屋を改良した。

 まだ、簡易的だがずいぶん過ごしやすくなっただろう。もちろんゼノの部屋も改良済み。だから、早く帰ってきてほしい。今夜は月に雲がかかっていて、視界は良くないがランプがあればまだ動ける。そんな考えを見抜いたのだろうか。ロナが忠告する。

「今夜はあまり外に出ない方がいいと思う」

「僕もそう思います」

 ロナの後に次いでトーガも同じようなことを言う。何かを感じるのだろうか。彼らの見ている方に目を向けるも、私には分からなかった。けれど、危険が待っているのならなおさら行かない理由はない。ゼノが一人でいるのなら、早く探しに行かなければ。暗い場所で一人俯いているのなら、私も一緒に暗闇へ行く。どんな谷底でも、真っ暗な洞窟の奥でも。

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