地獄の炎
家に戻ると、みんなが輪になって何かを見ている。ゼノは壁にもたれかかっていたが、視線は同じ場所に向けられていた。そこに向かうと、ロナが駆け寄る。
「エトちゃん、なんか変な物が家の前にあったんだけど」
彼らの方を見ると、トーガが作りかけのたこ壺をこちらに見せてきた。「刺客の仕業でしょうか」とまるで奇妙な物を触るかの様に警戒している姿がおかしくて、笑ってしまった。
「これはたこ壺だよ」
壺を手に取り使い方を説明すると、みんな安心した様に顔を見合わせた。
「なんだ。お師匠の傑作だったんですね」「また爆弾かと思ったよ」
まるで、よくあることかの様に言うレイン。その言葉に皆が頷く。そう思ったなら、離れたい方がいいのではと思うのは私だけだろうか。みんなして囲むようにしているのは、あまり良くない気がするのだが。
「お前ら、心配しすぎなんだよ」
ゼノはため息をつきながら頭をかいた。
「そう言いながらも、ゼノ君だって警戒してたじゃない」
「してねぇよ」
「だって、家を守ろうとしてたからそこに居たんでしょ?」
「違ぇよ」
「ありがとね」
「だから、違うって」
「うん。でも、自分のこと大切にして。家は何回だって建て直せるから。みんなもね」
「お師匠のお言葉、胸に刻んでおきます」
「そうしてちょうだい」
「でもさ、やっぱりゼノ君警戒してたよね」
「だから、してねぇって。あんな壺こときで」
その言葉にトーガ反応してしまった。
「何を言ってるんですか。お師匠の作品ですよ」
「それは悪かったよ」
その後警戒してた、してない、の言い合いをするゼノとロナをなだめながら、地面に転がったたこ壺を箱に片付けているとトーガが手伝ってくれた。
「何事も無くて良かったです」
「驚かせてごめんね」
「いいえ、慣れていますから」
さらりと言うものだから、心配になる。普段どれだけ危険な場所に身を置いているのだろう。偵察ならば、敵地に向かうことも少なくない。それならば、警戒するのは当然のことか。
「次からは気を付けるよ」
「そうしてくれ。危うく君の作品を氷漬けにして破壊してしまうところだったよ」
過激な物言いだが、私の造った物を大切にしようとしてくれるレインの気持ちは少しだけ嬉しかった。まあ、作品と言われるには不格好なのだが。
急いで造ったから、見た目は良くないが数が大事だ。たこ漁をしたことが無いので、予想でしか無いが数打ちゃあたるというものだ。みんなをたこ漁に誘おうと口を開くと、またもや物騒な言葉が聞こえてきた。
「最近、また対抗組織が活発に動き出しましたからね」
「対抗組織ってなに?」
また、知らない情報が出てきた。日が経つにつれて、どんどん物語りが塗り替えられていっている気がする。私が介入してしまったのが大きな原因だろうが、これから知るであろう物語りの続きが出てきたのだろう。
「インフェルノです。地獄の炎。つまり炎魔王を筆頭に、氷の都を滅ぼそうとしている組織です。とても攻撃的な連中なので、警戒しているのですが」
「炎魔王……」
「あ、でも安心してくださいね。お師匠のことは、僕が守りますから」
私が難しい顔をしていたからか、トーガは途中で話を止めた。しかし、聞いておかなければ。
いつか戦うことになるお思っていた。その名は以前かは知っていた。氷龍軍が最も警戒している人達。何度も衝突しては、決着がつかないままここまできた。
「見方になってくれは……、しないよね」
みんなの顔を見て、答えを聞かなくても分かった。ても、見方になってはもらえなくても、少しでもこちら側への敵対心を減らしてもらえればと期待した。拠点はもちろん業火の森。位置はなんとなく知っている。行ってみる価値はあるかもしれない。
「あの連中には近づくなよ」
そんな私の考えを見抜くように、ゼノが釘を刺した。きっと知り合いもいるだろう。あの場所に詳しい人がいれば心強いが、彼はそこには戻らない。分かっている。だから、一人で行こうと思ったのだが、それも許してもらえないらしい。
「あいつらとは会話にならねぇ。言葉より先に攻撃をしてくる」
「そうなんだ」
「だから、絶対に関わるなよ」
恐らくそれは実体験なのだろう。上から押さえつけるのではなく、諭すような言い方。それには逆らおうとは思えなかった。
「分かった」
「君と同じだね」
「あ“?」
「ほら、すぐに怒る」
「あいつらと一緒にすんな」
またレインが余計な事を言って、ゼノを怒らせてしまった。炎と氷がぶつかり合い、それは激しさを増す。止めに入ろうと近づいた時、ロナの叫ぶ声がした。




