焼き尽くす色
どれか一つでも欠けたら意味が無くなってしまう。諦めてしまえば楽な事は知っている。でも、これはどうしても諦めたくない。私を救ってくれた物語。今度は私が救う番だ。
「私に任せてよ」
「エトちゃん、カッコいい」
ロナはパチパチと拍手する。トーガはそれを真似る。こうして過ぎ去る穏やかな時間を少しでも長く作らなければ。ゼノの為に、そしてみんなの為に。
大急ぎで造った仮の家は、もう明かりが消えている。まだ、寝るには早いが疲れたのだろう。あれから、みんなで協力して家の中に荷物を運び入れた。まだ無機質な見た目だが、明日明後日にはきっと素敵なお屋敷になるだろう。そう出来るかどうかは私の腕次第なのだが。どんな仕上がりでも、みんなで過ごせば素敵な家になる。どんな時でも、ここに戻ってこれば安心できる。そう思ってもらえる場所にしたい。
明るい未来を想像し、明日が楽しみな反面、恐ろしさも一緒に付いてくる。この先に待ち受けるものは何だろう。一番の敵は誰なのか。閻魔王かアインか。それともまだ別の人物か。仲間の中から敵が出てしまったらどうしよう。考えれば考えるほど悪いことが浮かんでくる。
消えそうな火に枝をくべる。ゆらゆらと揺れる炎。月の無い夜を照らしてくれる赤色。私の世界に月も太陽も必要ない。どんな暗闇も照らしてくれる炎があれば怖くない。
じっと見ていたら雑念を燃やしてくれそうだ。きっと青色の炎なら、もっと早く消し去ってくれるだろうに。もっと強い熱を欲していると、後から足音が聞こえてきた。振り返らずとも、誰が来たのが予想はつく。その青は小さな枝を焼き尽くしてもなお燃え上がった。
「まだ、起きてたの?」
「ああ」
落ち着きを取り戻した炎は、彼はもないのに燃え続けている。青い炎は涼しげに見えるが、確かに熱を持っている。ゼノの心に宿る、人知れず燃える憎しみのよう。炎々と燃え盛っているのに、どこか消えてしまいそうな危うさも持ち合わせている。ゼノの気まぐれで儚く消えてしまわないように風から守らなければ。
ゼノは多くは語らず、少しで離れた場所に腰を下ろした。昼間からどこか機嫌が悪いような様子だった。むすっとした顔は今に始まった話ではない。むしろその顔がデフォルトまである。
「俺は守られなくてもいい」
私が言ったことを気にしていたようだ。心配されるようじゃ、彼に頼られる日はまだまだ遠いな。
「ゼノ君は心配しなくていいから」
「じゃあ、あんたの事は誰が守るんだよ」
「私は大丈夫だよ」
「良くねえだろ」
「いいの。私はもう救われてたから」
ゼノは知らないかもしれないけれど、私は彼に沢山の勇気をもらった。どんな逆境の中でも、倒れそうな程苦しい場面でも。彼の姿を思い出すと、消えかけていた闘志が湧いてくる。暗闇の中、どこへ向かえばいいのか分からなくなっても怖くない。私よりもゼノの方が苦しい思いや怖い経験をしているだろう。それでも、窮地の時ほど不敵に笑い、世界を見下している。
「あなたが生きている。それだけで、私とっても幸せだから」
「なら、あんたは幸せにはなれねぇよ」
「なんで……」
まるで、死に向かって駆けているような物言い。手のひらで揺らめく炎で、己の身まで焼き尽くしてしまいそう。もし、ゼノがそれを望んでいたとしたら。私は彼を不幸にしてしまうことになる。私の幸せとゼノの幸せ。そこに交わるものが無いのなら、私が進もうとしている道は間違いかもしれない。
暗闇に浮かび上がるその表情からは何も読み取らせてくれなかった。
「ゼノ君は私と一緒に居て楽しい?」
私はいったい何を聞いているのだろう。聞きたかったのはそんなに事でなないのに。なんだか面倒くさい恋人みたいな質問をしてしまった。ゼノが困った顔をするのも無理は無い。
「ごめん、今の忘れて」
言った言葉は取り消せないし、忘れさせることも出来ない。でも、何も言わなければ伝わらない。伝わったとしても、私の思う全ては届かない。




