君のための物語
悪役にハッピーエンドはふさわしくない。誰もが口を揃えて言うだろう。皆、英雄やヒーローが敵を倒し活躍する姿に心打たれる。その気持ちはよく分かる。私もかつては正義のヒーローに憧れた幼少期があった。それでも、年を重ねるにつれて、正義とは何なのか正しさは一体誰のものなのか考えるようになった。そしてその正義の救い手は、私の元へは来ないと知った。一番救いを求めている時に助けてくれる人など、この世界にはいないと知った時、悪役たちの姿に共感してしまった。
誰かに用意された道を捨てて、自分で自分の未来を切り開く。たとえ、燃え盛る火の中でも、凍える氷の上でも。見知らぬ誰かに攻撃されようとも、自分が自分でいられるように藻掻いていた。
目的地も分からなくなり、なんのために生きているのかさえ迷った時、彼らの姿は輝いて見えた。何者にも支配されることなく、理不尽な世の中を見下す視線。私もそんな風に強くありたい。自分のために生きてみたいと思わせてくれた。そこから私の人生は大きく変わった。大げさかもしれないが、それほど衝撃的だった。現実の世界では暴れまわるわけにはいかないが、心持ちは変えられる。だから私は変われた。
苦しい思いなどしたくはないけれど、その過去があったからこそこんなにも好きなものに出会えた。だから、ここまでこられてよかった。全てゼノのおかげだ。だから、この運命にあらがわなければならない。
これはゼノのための物語。彼が幸せそうな顔して笑ってくれるまで終わらせられない。この世界ではどれくらいの速さで人の身に寿命が来るのだろうか。私が死んだらどうなるのかも分からない。急に元の世界に戻されることもあるかもしれない。焦りそうになるが、明日のことなんてどこにいても分からない。だから、できるだけ最短距離で到達できるように目的を定める。
「私がみんなのこと守るから」
「急にどうしたの?」
ロナはどこか泣きそうな顔をしていた。私は彼女の過去も何も知らない。けれど、ふとした瞬間に見せる影のかかったような表情。きっと誰しも心の闇に飲み込まれそうな時がある。それでも必死に抗い、いつか笑える時を探している。
「君の言うみんなってのは俺も含まれているのかい?」
「もちろん」
「ゼノ君もルーヴェルもロナちゃんもトーガ君もレインも。八寒社中のみんなもだよ」
レインが不安げに言うものだから、仲間もみんななんて言ってしまった。でも、本当に守りたい。彼らの居場所も心も未来も。全部だ。




