↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/24

第七話

「なんなのこれ。ひょっとして、まったくやる気なし?」

 夕方になり啓子が店に帰ると、なんと的野がカウンターで爆睡しているではないか。総合カタログを両手に持った状態で舟を漕ぐ様が怒りを誘う。


 バックヤードから出てきた鮫島も、両肩をすくめる。

「昨日徹夜でゲームをやっていたらしいから、今ダウンしているんでしょうね。しかし器用な眠り方だ」

 鮫島が携帯で的野の様子を撮影し始める。


「これはただの起こし方じゃ気がすまないなぁ」

 意地悪そうな思案顔を浮かべた啓子は、バックヤードへネタ探しに行った。

 的野の携帯ゲーム機を持って売場へ戻ってくると、ゲーム機本体からデータ保存用のスティックを抜き出す。コップに水を注ぎ的野の前に置いた。


「ほらほら~。早く起きないと、大切なデータが消えちゃうわよ」

 なみなみと注がれた水の上でスティックをヒラヒラさせる。


「うわあああああっ! 俺の1400時間が~っ!!」

 的野の寝ぼけまなこがショックで見開かれる。大慌てでスティックをふんだくった。


「そんなに遊んだの? 少しはその時間を、携帯の勉強に当てなさいよ」

 居眠りを指摘するつもりが話題がすり替わってしまう。


「これでも読んで、目を覚ましてね」

 説明会で回収してきた新商品のカタログを、的野と鮫島に手渡した。


「うわ~、これが最新機種かぁ」

 幸い、的野覚醒のきっかけとなったようだ。


「それ、持って帰ってもいいけど、お客さんにはまだ言わないでね」

 人差し指を立て、口軽男に釘を刺す。


「私はこれがよかったなぁ」

 啓子がソリッドのナビ携帯を指差す。


「凄いですね、これ。本当にホログラム見えました?」


「実機は少ししか見ていないけど、確かに立体視できたわよ」

 啓子は従業員販売が待ち遠しかった。スタッフは学習のために、安価に端末を購入できるのだ。


「大マグロの本気きた~。購入決定だろこれ」

 ポケットフレンドのカタログを見た的野は大喜びだ。風変わりな一品を好む、マニアな気質を刺激されたらしい。


「あと、これが1番の重大発表。二人とも目を通してくれる」

 発表された新料金プランの資料を鮫島と的野に手渡す。素早く内容を把握した鮫島の声のトーンが上がる。


「これは凄いっ。MNPのみならず、2台目需要にもきっちり対応できるはず」


「確実に店の数字に繋がるでしょう。母体のレッドが心配だけどね」

 腕を組んだ啓子が唇を引き結ぶ。


「料金系のサービスもだいぶ煮詰まってきたわね。さすがにこれ以上の割引は厳しいでしょう」


「シルバーの動きに興味がありますね。今回のサービスからは“真似できるものならやってみろ”という気概を感じます」

 鮫島が揚揚と語る。


「ネットでもすでに告知されているらしいの。来店されるお客様には新プランをお伝えして、解約防止に役立ててね」


「分かりました。さっそく、ポスティング用チラシの手配をしておきます」 

 鮫島がレッド公式サイトの確認を始め、的野は新商品のカタログを眺めている。店内は来客者がおらず、店外も人と車の動きは緩やかだ。


 今日はまだ新規契約が1件しか獲れていない。普段ならプレッシャーが掛かるはずだが、店内には弛緩した雰囲気が漂う。このころはまだ、来月から怒涛の嵐が吹き荒れる事になろうとは、誰も予測できなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。