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第十四話

『戸園町全域に発生したシルバーモバイルの電波障害は、依然解決の糸口をつかめていません。九州総合通信局と警察が協力し、現在も鋭意調査中とのことです』


 夕暮れ時の閑静な住宅街に数名のテレビクルーが押し駆け付けている。その周囲にやんやと展開する野次馬たちからは、並々ならぬ熱意が感じ取れた。普段、屋外にアナウンサーの声がこだますることなど、滅多にない土地柄なのだ。


 運動公園の駐車スペースに黒色のワゴンが列をなしている。これらは全て、総合通信局が準備した不法局探索車だった。屋根と内張りの間にアンテナが設置されており、外観はごく普通のアマチュア無線車のようだ。


 公園の一角に、警官と電波調査部隊の一部が集結している。制服警官と作業服姿の調査員の混成部隊は、いやでも地元民の目を引いた。

 不法局探索車内の後部座席にあるノートパソコンに、ワンセグの映像が映し出されている。無言で報道番組を見つめる3つの双眸には、3者3様の表情が浮かぶ。


 今回起こった事件について、初動捜査の報告と今後の展望を話し合うという名目で、当事者の幹部クラス3名が車内に集結していたのだ。


「念のため確認しておくが、この期に及んで電波障害が、自然発生したものと誤認していないでしょうな」

 ぎらついた上目使いで他の二人を交互に睨みつけたのは、シルバーモバイル九州支社の営業部課長、[ruby=かいだ]甲斐田[/ruby]だ。獰猛な熊を思わせる巨躯の持ち主で、周囲に猛烈な威圧感をまき散らしている。


「通信障害が発生する時間帯を考慮に入れれば、自然発生の線は極めて薄い。貴社のシルバープランで無料の時間帯のみ通話不可能になっているのだから」

 なだめる様に話を紡いだのは、九州総合通信局の電波適正利用推進員、[ruby=やすこうち]安河内[/ruby]だ。細長い人参の様な顔が引きつり、肉付きの悪い頬が軽く震えている。甲斐田のような体育会系タイプは苦手らしい。


「シルバーモバイルに強い敵対心を持っていると、断定して間違いないでしょう。挑発的、と申しましょうか……」

 補足的な説明を行なったのは、九州中央警察署の生活安全課課長の稲村である。ツルリとした五分刈りなので、ぎょろりとした目玉が際立っている。彼はあくの強い他の二人と比べて、落ち着いた様子の制服警官だ。


 電波障害を自然発生と錯覚させるためであれば、わざわざ時間帯を区切るような真似はしない。犯人は、電波障害が故意の仕業であること喧伝しているのだ。、剥き出しの敵意を再確認し、甲斐田が太い両肩から怒気を吹き上げる。


「今回の件、まず何が起こっているのかと、解決策。この2点を簡潔にまとめてくれ。素人でも分かるように噛み砕いてだ」

 甲斐田の質問を受けた安河内が、軽い咳払いの後に説明を始める。


「通信妨害の仕組みは単純です。携帯電話と同じ周波数帯の電波を発生し、基地局からの制御信号に混信を与えているのです。すると、携帯電話の受信部がそれを正常な信号と間違えて受信して、結果的に通信ができなくなる」

 話を聞く二人が無言で頷き続きを促す。


「携帯の電波を遮断する装置は市販されていますが、犯人はそれを改造したものを配備しているのでしょう。当局の監視システムは、妨害電波の出所、そのおおよその位置を確認しています。その装置を全て撤去、または無効化することが本事件の抜本的な解決策となります」

 舌のすべりが過剰に良くなった安河内の独演が続く。


「これが戸園の周辺地図です」

 安河内がパソコンに地図を表示させる。白を基調とした地図上には赤色の円が複数ある。


「赤色のサークル上に、原因となる妨害電波射出装置があります。精度は数十メートル単位。当局の固定探索局が割り出したデータです」

 腕時計を確認しつつ、稲村が今後の予定を述べる。


「この円内にローラーをかけていく。今日中に住民の許可を得て、明日の昼過ぎ以降に決行予定です」

 対策本部が導き出した解決策は、対象地域の一斉調査だった。その為の機器、人員の配備はすでに完了している。


「こういうときのための総務省だろうが。ここで活躍できなければ、ユニバーサルサービス料なぞ、誰も払わなくなるぞ」

 捨て台詞を唾と共に吐き出した甲斐田が、肩を怒らせて立ち去っていった。


「大口法人への謝罪行脚中に立ち寄ったようですね。不機嫌なのも無理は無い」

 稲村が苦笑しつつ肩をすくめた。


「難癖の行き場が無くて、とりあえず我々にぶつけてきたんでしょうよ。プレッシャーをかけて物事を解決する悪癖がついているようだ。ああいうタイプは仕事仲間にしたくないものですな」

 厄介者の後姿が遠ざかるに連れて、安河内が語る本音が声高になっていく。場の雰囲気に嫌気が差した稲村は、無言でその場を辞した。

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