第16話 サービスの代償
* * *
窓際の四人掛けは、今日も三人組のマダムが占領していた。
「だからね、口裂け女の再来なんて、粉っぽいのよ」
「……粉?」
通りかかったジョウが思わず聞き返すと、リーダー格のマダムが、当然のように頷いた。
「怪しいってこと。出どころの分からない小麦粉は、まず疑うものでしょう」
「片桐さんの粉は、いつも確かよ」
細身のマダムがぽつりと言って、ちらりと厨房に目をやった。
「あらぁ、でも私は好きよぉ、ああいうの」
湯気を吹いていたおっとりしたマダムが、声を弾ませた。
「あなたは何でも好きでしょう」
「でもねぇ、法鍵士は違うの。目撃談がいくつもあって、どれも筋が通ってるのよぉ」
「……それは確かに、粉っぽくないわね」
「声が鍵になるんですって。素敵……」
「悪い怪物から、人を助けてくれるそうよ」
「「「まぁ~!」」」
三つの声が、ふっと重なった。
「私も助けられたい〜」
「良いわねぇ〜♪」
高く、中ほどで、低く。偶然とは思えないほど綺麗に溶け合って、ジョウは思わずトレイを持つ手を止めた。喉の奥が、ちり、と鳴る。
助けられなかった人が、いたのに。
「……お待たせしました。ホットミルクティーです」
笑顔を貼りつけて、ジョウはカップを置いた。
「……鍵城くん」
突然、鼓膜を撫でる聞き慣れない声。振り向くと、解良がいた。
爽やかな笑顔で悪びれもなくジョウに手を振っている。
「約束通り、店から来たよ」
(裏口の時の……)
「何か探しているんじゃないかと思ってね?」
「何を……ですか?」
軽く辺りを伺って小声になるジョウを解良は小指で呼び、こそりとジョウの耳元に伝えた。
「クラヴィス」
その言葉に目を見開いてジョウは解良を見た。
驚きで大きな声が出そうになった喉を今ばかりは褒めた。
「なんでそれを……」
「最近、君の学校で行方不明者が出たからもしかしたら……ね?」
「でもっ」
「お代は要らない。前のお詫びも兼ねてるからこれはサービスだと思って」
そう、簡易的に折り畳んだ店のペーパーナプキンをジョウに滑らせる。
「ここに書いてあるのがアイツの拠点だ」
解良は声を落とした。ジョウは躊躇しながらもナプキンを受け取った。
ナプキンを掴んだ指から鼓動が波打ち始める。
喉がちり、と鳴り、記憶の隅であの歌声が空耳で聞こえてくる気がした。




