大人としての決断
「旦那様、聖王様から招集命令です」
その声で、嫌な予感が背骨を走った。
北の領地にしては珍しく、まだ暖かさの残る朝だった。
つい数刻前、妻は出産を終えたばかりだ。
「……今行く」
北の領地から王都へ、その城壁を越えた瞬間、言葉を失った。
空が、黒い。
いや――黒に覆われている。
「あれは……っ」
大きな黒竜。
その周囲を埋め尽くすように、誓約を持たぬ黒の精霊と竜が渦を巻いていた。
空気が重く、肺がうまく動かない。
赤、青、黄、緑。
各色の竜騎士と魔法士が総動員されている。
それだけで、この事態の異常さは十分だった。
足が、わずかに震えた。
「アーロック様!!」
「ラディ! フローレン!!」
青の魔法部隊でも、迎撃に長けた二人。
この場に呼ばれているという事実が、状況の深刻さを物語っている。
「報告します。黒の六天竜が――赤子と誓約していた可能性が高いと」
「……六天竜、だと?」
黒の魔力。
この国でさえ、記録はほとんど残っていない。
存在すら疑われていた、誓獣たちの王。
しかも、赤子と。
「王命です。赤子の保護を最優先。
全部隊をもって、六天竜の制圧を」
制圧。
その言葉の重さを、誰もが理解していた。
――これは……。
「ティアナ…」
頭の中では、生まれたばかりの娘を抱いた妻の姿。
――帰らなければ。
――帰れないかもしれない。
この場にいる全員、覚悟を決めなければならない。
アーロックは、青の魔法部隊の指揮者だ。
決断を間違えれば、全滅の可能性だってある。
「青の魔法部隊は私と共に赤子の保護を!」
「「はい!!!!」」
以後、黒の六天竜による厄災を百獣夜行と命名。
アーロック・ブライアス、赤子の生存を確認。保護。
黒の六天竜の制圧。
青の魔法部隊、以下消息不明。
アーロック・ブライアスは本件及び怪我により、除隊とする。




