第24話 王子の告白
遠くから眺めて約半月、私の想いは日に日に膨らんでいた。
最初から負け戦であることは理解している。聖女イリス様の視線の先には、いつだって英雄ヴァンレント殿がいるのだ。
しかし、この淡い恋心は、諦めてくれそうにもない。仕方ない。当たって砕けるしかないだろう。そして、しっかりとこの恋を終わらせて、彼らと友達になりたいと思っている。
彼らはとても優しく、芯が通っていて、領民の為に……いや、生きている生き物すべてのために動いているのだ。これこそ『信念』というやつなのか。彼らの愛馬たちも主人に懐いていて驚いた。
魔馬というのは、魔物にすら屈しない強さや度胸を持つ代わりに、人には懐きづらい生き物だ。そんな魔馬が二人にはべったりと甘え、懐いているのだ。どうすれば、このような信頼関係を魔馬と築けるのかを知りたいと、純粋に思ったのだ。
「ジョルジュ、私はこれから想いをぶつけて粉砕されてくるから、戻って来たら慰めてくれるか」
「ふふっ、もちろんですとも。朝まで愚痴に付き合いましょう」
「そうしてくれると助かる。それじゃあ、行って来る」
私はのっそりと立ち上がり、重い足を引きずるようにしながら彼女の元へ向かった。
「あら、レイモンド王子。こんにちは。どうなさいましたか?」
「い、イリス殿。少しお時間をいただけますか?」
「え? ええ、構いませんが……。あちらの木陰に移動しましょうか」
イリス殿は優しく微笑みながら、私を木陰に誘ってくださった。そして、ゆっくりと腰を下ろす。
「バルクレイの地には慣れましたか?」
なかなか話し出さない私に気を遣ってくださったのだろう、彼女は他愛もない話を振ってくださった。
「はい。皆さんには良くしていただいていますので、何不自由なく生活させていただいています。お気遣い、感謝します」
公国であれば黄色い声が飛んでくる、とびきりの甘い笑顔で答えた。
「それは良かったです。困ったことがありましたら、誰にでも良いので声を掛けてくださいね」
私の目をしっかりと見ながら返答する彼女からは、私に個人的な好意がないことがはっきりと分かってしまった。頭では理解していたが、やっぱり少し辛いな、と苦笑いしながら覚悟を決めた。スッと立ち上がり、彼女の目の前に膝をついた。
「イリス殿。私は貴女の優しさや強さ、みみずすら愛でられる豪胆さに、心底惚れてしまいました。私と一緒に、レオニア公国へ来てはもらえませんか?」
「えっ? 私が、ですか?」
「はい。貴女を愛しています」
「あ、あい、愛、ですか……」
「私の気持ちはご迷惑でしたでしょうか? 他に想う方がおられるのですか?」
答えなんて分かり切った質問だが、ハッキリと聞いておきたかった。この恋を諦めるためにも。
「他に……えっ? ヴァン?」
なぜか疑問形で答えを返されてしまった私は、恥ずかしくてそうなったのだろうと違和感をスルーし、初めての失恋を経験したのであった。
★★★
「殿下! 大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと振られてきたよ。やはり、イリス殿の想い人は英雄殿のようだ」
「まあ、お二人の視線を追えば、すぐに分かりますからな」
「はあ――っ。初めての恋が失恋とはね……」
「初恋は実らないと言いますし、公国には婚約者候補たちがお待ちかねですよ」
「はあ、あの日々に戻りたくないな。しかし、彼らが王都に戻る素振りを見せないのが気になるな」
「私も思っておりました。この国の英雄と聖女ですよ? 護衛もつけないなんて、公国ではあり得ません」
ジョルジュが大袈裟に手を動かしながら話す。それはそうだろう。本来であれば、英雄と聖女を手放したくないはずの王国は、彼らを囲うために王城へ招き、他国へ逃げられないように国内の権力者……王子や王女と婚姻を結ばせるのが普通なのだ。
「英雄殿はあれだけお強いから護衛の件もまだ分かるが、聖女様に護衛やお付きの侍女すらいないなんておかしいだろう」
「そうですね。聖女様は侯爵家出身のはずですから、身の回りの世話をする者がいないのは不自然ですね」
「ルミエラ王国は、何かが……色々とおかしい気がするな。影に調べさせてくれ」
「かしこまりました。公国とも情報共有なさいますか?」
「父上だけに、内密に伝えてくれ。せっかくルミエラまで来たのだ。もう少しご厚意に甘えて、恩を返してから帰ろうではないか」
私たちは当初の予定であった、今回の事件の発端となった『魔物を呼ぶ魔道具』の出所を探すことを後回しにし、優しき辺境の人々との時間を選んだのだった。




