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死地を駆け抜けた者たちのスローライフ〜用済みと捨てられた聖女と英雄。辺境で隠居のはずが、隣国王子に国賓スカウトされました〜  作者: 月城 蓮桜音


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第18話 ヴァンの鋭さと、新たな試み

 案内役を買って出たミロと数人の仲間たちが、不毛な大地を指差しながら、現状を説明して回る。その表情は真剣そのもので、彼らがこの半年、どれほど必死に土と向き合ってきたかが痛いほど伝わってきた。

 

「あちらの畑は、まだマシな方なんです。麦の芽くらいなら顔を出しますが、それ以上は育ちません。ですが、その隣……あそこの一画は、何を植えても芽吹くことすらない『死んだ土』です」

 

 ミロが悔しげに指差した先には、ひび割れた、生命の気配が一切感じられない灰色の地面が広がっていた。(あるじ)はそれを見つめ、静かに考え込む。

 

「そうなのね。効果を比べる必要があるから、まずは半分だけに治癒魔法をかけてみましょう。ミロ、ここから左側が対象よ。境界線を覚えておいてね」

 

「はいっ! 承知しました。聖女様、苗や種は全種類植えてみますか?」

 

「ええ。予備があるなら、三つずつ植えてもらえるかしら。環境が変わってどう反応するか見たいの」

 

「分かりました、すぐに用意させます!」

 

 ミロたちの期待に満ちた視線を背に受け、主は大地に向けて掌をかざした。

 放たれたのは、温かなオレンジ色の光。それは波紋のように乾いた地面へと広がっていき、土の奥深くへと吸い込まれていく。光が浸透した場所から、砂漠のようにパサついていた土の色が、しっとりと水分を含んだような深い茶褐色へと変わっていった。

 

「す、すごい……。俺たちがどれだけ水をやり、肥料を混ぜても変わらなかった土が、一瞬で……」

 

「見た目は、いかにも栄養がありそうな健康な畑になりましたね」

 

 感嘆の声を上げる領民たちに、主は控えめに微笑んだ。

 

「そうね。今はまだ見た目が変わっただけかもしれないけれど、諦めずに試していきましょう。失敗したとしても、前に進まなければ何も変わらないもの」

 

「「「はいっ!」」」

 

 ミロたちは活気づき、用意していた種や苗を丁寧に、慈しむように植え始めた。そんな平和な光景を眺めながら、不意に声を上げたのはヴァンだった。いつもなら茶化すような冗談を飛ばす彼が、珍しく険しい面持ちで主に問いかける。

 

「イリス、ちょっといいか?」

 

「どうしたの、ヴァン。そんなに真面目な顔をして」

 

「……イリスが治療した連中を見ていて、ふと思ったんだ。治した場所が、以前よりも『強く』なっていないか?」

 

『以前よりって……怪我をする前よりも、ということか?』

 

 オイラが横から口を挟むと、ヴァンは重々しく頷いた。

 

「ああ。例えば俺の親父……辺境伯の脚だ。生やしてもらった方の脚が、元々の脚より明らかに頑丈なんだよ。手合わせしていても分かる。耐久性というか、肉の密度というか……生えた部位の方が、明らかに強度が上がっているんだぞ」

 

『ほう。そんな些細な変化によく気づいたな』

 

「毎日剣を交えてるからな。戦う人間なら、その程度の違いは肌で感じるさ」

 

「……確かに、そう言われてみれば」

 

 主は驚いたようにヴァンを見つめ、小さく顎を引いた。

 

「治療した人々の経過観察は続けていたけれど、違和感の正体がそれだったのね。まさか、再生した部位そのものが強化されているなんて思いもしなかったわ」

 

 尊敬の眼差しを向けられているというのに、ヴァン本人は自分の考察に夢中で気づいていないようだ。……くくっ、今はあえて教えず、話を進めさせてやるとしよう。

 

『それで、その気づきがどう繋がるんだ?』

 

「ああ、もし本当に治癒魔法をかけた部位が強くなるんだとしたら……。畑を治すだけじゃなく、苗や種そのものに治癒魔法をかけたらどうなる? そうすれば、この不毛な土地の毒にさえ耐えうる『最強の作物』が育つんじゃないかと思ってな――」

 

 ヴァンの言葉が終わるより早く、主が弾かれたようにミロを呼び止めた。どうやら、新しい策を試したくて我慢できなくなったらしい。

 

「ミロ――! 魔法をかけていない場所にも、苗と種を植えてもらえる? ただし、植える前に私が一度、その苗と種そのものに『治療』を施すわ! 手間を増やしてしまってごめんなさいね!」

 

「いえいえ! 女神様のお役に立てるのであれば、これ以上の喜びはありません! 何なりとお申し付けください!」

 

 ビシッと軍隊式の敬礼で請け負うミロに満足げに頷くと、主は感極まった様子でヴァンの両手をぎゅっと握りしめた。

 

「ヴァン! 素晴らしい発想だわ! きっと、今まで誰も気づかなかった視点、誰もやらなかった試みよ。もしこれで結果が出たら……この国、いえ、世界の農業が変わるかもしれないわ!」

 

 握りしめられた手の温もり。そして目の前で大輪の花が咲くような笑顔を向けてくる主。

 直前までの知的な表情はどこへやら、ヴァンは「し、幸せ……」と、幸せの絶頂に達し、盛大に鼻血を吹き、そのまま仰向けに倒れ込んだのだった。

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