表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/47

46 決戦・リトマス城門前


 リトマスの城門前には馬防柵が並んでいた。

 ところどころ茶色く見えるのは、堀を築いたためだろう。

 城壁の上に渦巻きのあごひげ野郎が見える。

 領主アッシディウスだ。

 寝込みをスパナで殴られたような顔をしているのが遠巻きにもわかる。

 そりゃそうだ。

 私の後ろには、ブケファラオス率いる『ヒュッポース風雷騎士団』が砂煙を上げて猛然と爆走している。

 明日の朝、来るはずの騎馬隊がもういるんだからビビるわな。

 ご愁傷様。


「ま、魔物だあ……!」


「魔王軍が来たぞお!」


 と壁外で作業していた連中が尻尾巻いて逃げ出した。

 なんか、いいな。

 私を見た雑魚どもが悲鳴上げて逃げていくの楽しいんだが。


「ヒャッハー! カチコミじゃーい! わいら魔王軍のモンやぞ! ダハハ、道開けんかーい! 渦巻きヘアの奴らは皆殺しじゃボケー!」


「シーナさん……」


 馬車を操りながらルシウス君がちらりと白い目を向けてくる。

 ちょっとくらいええやん。

 どいつもこいつも、ふざけ散らかしてんだ。

 私だってハメくらい外させろや。

 ブケファラオスの騎馬隊は『草原の覇者』とか呼ばれているんやろ?

 その先頭に立っている私は実質、覇王やん。

 シーナ・覇王・カタギリやん。

 おもろいやないか。


「城門を閉めよ! 急げ!」


 とアッシディウス。

 まだ私たちが逃げ込んでいないのに城門が下りてしまった。

 シャットアウト。

 ひどい。


「おい開けろ!」


「開けてくれ!」


 と、取り残された人々が城門前で泣き喚いている。


「うむ。私は領主として町を守らねばならぬゆえな。非情な選択も時には必要だ」


 まあ、その言い分はわからんでもない。

 気に食わないのは目だ。

 こちらを見下ろすアッシディウスの目には、床に落ちたチャーシューを見るような蔑みの色がある。

 野郎、領主のくせに平気で領民切り捨てやがった。


「おいボケ! これが見えねえのか!」


 私は気絶ノビているエンヴィリッタの首根っこを掴んで持ち上げた。

 アッシディウスの顔色が変わった。


「エンヴィリッタ……! 姿が見えぬと思ったら……」


「このブスぶっ殺されたくなけりゃヒャハ! 今すぐここを開けろ! マジでやるぞ私は! 世界の殺意の半分は私だオラァ!」


 たとえとかではない。

 こいつマジで始末してえ……。


「じょ、城門を開けろ! 私の可愛いエンヴィリッタが外にいるのだ!」


「落ち着いてください、ご領主様……! 今、門を開けては敵に攻め込まれます!」


「うるさい! 貴様は死刑だ! もう死ね! 開門せよ! 開門おおおおんん!」


「な、なりませんご領主様!」


 上のほうでろくでもないやり取りが行われた後、ずごごごご、と城門が上がった。

 外にいた連中が駆け込み、入れ替わるように兵士たちが飛び出してきて、布陣。


「くそぉ。この町は終わりだ……」


「馬鹿領主とあの女のせいで」


「『漆黒』だかなんだか知らねえが、余計なことしやがって」


 槍の兵士たちが泣きそうな顔で睨んでくる。


「リトマスの城門は堅牢だ。でも、一度上げると下ろすのに3分はかかる。それまでは持ちこたえないと……」


 ルシウス君も迫りくる砂煙を見つめて青ざめている。

 表にこそ出さないが、城門を開けさせた私を「軽率だ」と非難しているのは明白だ。

 まったく、どいつもこいつも私がなんの考えもなく突っ走る馬鹿だと思ってんな。

 実際半分は勢いでやっちゃったけど……。

 でも、もう半分には、ちゃんと考えがある。


「ギャハハ、だらしねェ! 男どもが雁首並べて泣き言言いやがってよォ、ギャハハ!」


 どごおおんん、と城壁の上から筋肉が降ってきた。

 巨漢風の女冒険者ドエリザベスだった。


「ここンとこ、オレ様は負けっぱなしだったかんなァ! ギャハハ、喜んで参戦すんぜェ!」


「あたしたちも戦うわ!」


 と弓矢を携えた『ユミー&ヤー』の二人がやってきた。

 無事、逃げ込めたのに災難だな。


「わしらも助太刀するぞい!」


「ちッ、ブケファラオスかよ。上等じゃねえか」


 金等級パーティー『土腕斧衆ドワーフス』のベテラン5人衆。

 そして、荒くれ獣人トリオ『三虎狼竜トリコロウル』。

 名だたる冒険者が揃い踏みだ。

 心強い。


 でも、


「あんたたちの出番はないよ。指くわえて見てな」


 私はボルテックス号を走らせ、城門前の丘陵地に向かった。

 そこには黒い塊が置かれている。

 私が馬を降りると、止まり木にしていた鳥がいっせいに飛び去った。


「これはなんだい?」


 とルシウス君が首をかしげる。


「秘密兵器かな」


 説明している暇はない。

 もう黒い波のような騎馬隊が目前に迫っている。


「ルシウス君は逃げてていいよ?」


「言っただろう。シーナさんは僕が守るって」


 微妙に赤みのある頬をぽりぽりしながらルシウス君は笑顔を輝かせた。


「そうかい。それじゃ、おっぱじめようか。アルニャンは特等席で見てな」


「了解だニャ!」


 私の頭の上にアルニャンが陣取り、私の後ろでルシウス君が後光のごとく輝く。

 これで全員配置についた。


「バガハハハ! ついに観念したか、『漆黒』よ! 馬我輩がひねり潰――」


「うるせえよ駄馬がァ!」


 私は引き金を引いた。

 ヴォモオオオオオオオオオオオ!!

 蜂が1万匹くらい飛んでいるような音がした。

 回転する6連銃身が盛大に火を噴いている。

 白い煙で何も見えん。

 私は引き金を引きっぱなしにして、このへんかな、って場所を薙ぎ払った。

 こちゅん。


「……っ?」


 突然、弾が出なくなる。

 給弾ベルトがなくなり、足元には空薬莢の山。

 ってことは弾切れ!?

 嘘でしょ!?

 1200発あったのに!?

 10秒チョイで撃ち切っちゃった。

 1分くらい撃てると思っていたのに。

 あ、やべえ。

 敵の鼻先で弾切れはシャレにならん。

 やばちょ。

 今にも白煙を突き破ってバガハハハ、とブケファラオスが登場しそう。

 私は身を固めて目をギュと閉じた。


「す、すごい……」


 ルシウス君が小学生みたいな感想を言った。

 小並感だ。

 何がすごいんだろ?

 私は目を開け、そして、白煙が晴れる。


「うわ……」


 私が見たのは空の青。

 草原の緑。

 そして、黒とか赤とかが混ざり合って混沌とした大地だった。

 赤い霧が風に吹かれて流れていく。

 千の太鼓を叩くようなひづめの音が完全に消えていた。

 騎馬隊も消えていた。

 静寂の野に馬人だったものの残骸がただぶちまけられている。

 劇的なビフォーアフターだった。


「やっぱし全然ミニじゃねえー」


 ものの10秒でこれだぜ?

 苦笑いしか出てこん。

 敵を醜い肉塊に変える的な意味でミニだったか、あるいは、微小ミニな肉片に変身させる的なミニか。

 どっちでもいいが、とにかく草原の覇者と呼ばれし騎馬隊はここに全滅した。


 だが、ブケファラオスはまだ生きていた。

 左前脚、それから、腕を何本か消し飛ばされているが、大事なところはアダマンタイトの大剣で守ったらしい。

 鉛玉の雨の中で生き延びるとか、さすが将軍様っすわ。


「バガ、ハハハ……。『漆黒』のシーナ、見事なり。貴様には格別の慈悲により、『馬我輩』を名乗る資格を下賜しようぞ」


「いや、いらん」


 私は城壁のほうを振り返って声を発した。


「なあ、おい! みんな見ろよ! あそこに魔王軍の幹部様がいらっしゃるぜ! ぎゃはは、囲んでタコっちまおうぜヒャハ!」


 主に冒険者たちがニチャアと笑い、ブケファラオスはごくりと生唾を呑んだ。

 かくして、ヒュッポース要塞が主、『万馬将軍』ブケファラオスは討ち取られたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ