47 お花見スイーツ
宿屋通りきってボロ宿『梅の黄苔亭』。
その屋上で私は風に吹かれていた。
屋上というか、勝手に屋根に上がっているだけだがな。
自認猫だから当然許されるとか思っている。
膝の上にはツネッコがいて、時折ケモ耳がぴょこんと動く。
私はそのたびに、はむっ、とする。
「ほああ!? ったく、やめろよ姉御! 気持ち悪ィなあ!」
「私、自認猫だからね。動くものは全部食う」
「意味わかんねえよ。オエ……」
ブケファラオス騒動から3日経っていた。
見ての通り、リトマスには何事もなかったかのような平穏な時間が流れていた。
「この町が火の海にならずにすんでよかったよなー。まじシーナの姉御様様だぜー」
ツネッコはだらしなく私に背を預けて、私のお腹のあたりでボリューミーな尻尾をうねうねさせている。
くすぐったい件。
「ほんっと丸く収まってよかったよなー」
「いやいや、ツネッコよ。何も丸く収まっちゃいないだろ。無理やりハッピーエンドにしてんじゃねー」
「そうかぁ?」
「そーだよ」
ツネッコをいじめていた領主邸の執事やメイドたちについては、私の制裁パンチでキッチリ改心させた。
それについては一件落着、ハッピーエンドだ。
でも、それ以外はどーよ?
全然丸くねえ、チョー角張った収まり方をしている。
私の鉄拳を落着させなきゃならねえバッドエンドばかりだ。
その筆頭がエンヴィリッタだ。
あいつは断頭台直行レベルのやらかしをした。
男と結ばれたいがために戦争を起こした。
外患誘致みたいなもんだ。
私が裁判長ならガベルで撲殺するか、証言台を音速で投げつけるか、傍聴人にリンチの許可を出すかして極刑に処しているはずだ。
しかし、エンヴィリッタに下った判決は無罪だった。
結果的には王国を長年悩ませていたブケファラオスの討伐に繋がった――。
そう評価されての無罪放免。
「私の奮闘があのアホを助けたのかと思うと腹立たしくて仕方ねえ。もういっそ私が魔王になってやろうかなイライライライラ……」
「貧乏ゆすりやめろよ。姉御のせいで宿が揺れてんぞ?」
ツネッコは私の隣に場所を移して、屋根に寝っ転がった。
おっさんみたいに肘をついている。
「あのお嬢サマなら出家したぞ? 丸刈りでな」
ツネッコいわく、エンヴィリッタは領主邸を追い出されて教会に入れられることになったらしい。
無罪とはいえ、事が事だ。
領民の手前、お咎めなしともいかない。
よって、一連の事件のけじめということで、リトマスを追放。
どこぞの教会で尼さんをすることになったそうだ。
あんなのに仕えられるとか、女神様も嫌だろう。
「そんなら、ちょっとは溜飲が下がるかな。すげえちょっとだがイライライライラ……」
「うひゃー。全然下がってねーや。屋根崩れそう……」
馬鹿親のアッシディウスには勲章授与の話が出ているらしい。
ブケファラオス討伐とヒュッポース要塞撃破。
この華々しい功績を国王陛下にお褒めいただけるとアッシディウスはご機嫌だった。
どっちも私の手柄だろうがよォ!
と怒鳴ってやりたいよ。
とうの私はというと、これといった褒美もなしだ。
1か月がかりで積んだカタログギフトを使い果たし、精神も肉体も疲労困憊。
残ったのが徒労感だけなんてあんまりだ。
ちゃらり。
手首で金色のものが光った。
そういえば、コレがあったか。
金のドッグタグ。
金等級冒険者の証。
今回の功績で昇級となり、冒険者ギルドから贈られたものだ。
でも、果たしてこれは褒美と言えるのだろうか。
「おめでとうございます! シーナさんもこれで名実ともに上位冒険者ですね!」
と受付嬢のリズは満面の笑みで言い、笑顔の度合いを強めながらこう付け加えた。
「これからはもっともっと危険な依頼をバンバンご紹介いたしますね!」
最悪か、と。
悪魔か、と。
もうホント泣きたくなったわ。
犬用のタグってのがまた気に食わねえ。
私は魔物狩り用の猟犬じゃねえぞ。
そんな私の不満を見透かしたように、今日のカタログはスイーツ特集だった。
Sランクギフトにはお菓子の家。
Aランクギフトは3メートル級のウェディング・ケーキ。
Cはチョコやアメ、クッキーなどなど。
Bランクがちょうどよさげだった。
甘いもんでも食わなきゃやってらんねー。
「おい、ツネッコや。バナナとイチゴ、どっちが好きだね?」
「ヴぁぬぅあナってなんだよ? オレ、野イチゴなら好きだけど」
「なら、あんたはこっちな」
ジャンボイチゴパフェ召喚。
縦長のグラスに赤いイチゴと白いクリームが層を成している。
紅白で縁起ヨシ。
頂点で輝く特大イチゴが大粒のルビーみたいだった。
「うっわああああああ!」
ツネッコは最高の笑顔を見せてくれた。
ついでに、犬みたいな食べっぷりもだ。
領主邸でマナーを教わったはずでは?
「うまそうに食べるねー!」
あとで私のメガ盛りチョコバナナパフェも食べさせてやろう。
ちゃんとリアクションと食レポするように。
二人並んでむしゃむしゃしていると、下の通りにルシウス君を見つけた。
歩く照明器だから探さなくても勝手に見つかる。
トン、トトン、とルシウス君は壁を蹴って屋根の上に上がってきた。
「やあ、シーナさん。ツネッコも」
「やあじゃないよ。すげえなルシウス君。ご先祖様、バッタだったの?」
「首輪に魔力を制限されてなければ、このくらい朝飯前だ」
風で前髪が揺れる。
すると、光の粒が舞う。
この人、夜は自分のまぶしさで眠れないのでは?
虫とか集まりそう。
「今日、正式にリトマス家の使用人をやめてきたよ。シーナさんが自由にしてくれたおかげで、僕はエンヴィリッタのお守りから解放された」
「それに関しては本当に本っ当によかったね」
脳ミソ渦巻きのアホ女に隷属するくらいなら、バッタに転生したほうがマシなのよ。
いや、マジで。
「ルシウス君はこれからどうするの?」
「王城に居場所はないからね。今の僕にあるものは、これだけだ」
そう言って、長い指で王家の剣とやらに触れる。
「僕も冒険者になろうと思っているんだ。よかったら、シーナさんのパーティーに入れてくれないか?」
「毎日狂ったように魔物を狩り続ける日々だぞ? やめとけやめとけ」
私はスイーツカタログからもみじ饅頭セットをテキトーに召喚した。
「これ、門出のお祝いね。こしあんはすべて私に供出してくれ。そのほかは食ってよし」
「相変わらず、底知れない人だな。シーナさんは。甘未を召喚できるなんて」
ルシウス君は上品な仕草で茶色い生地にかぶりついた。
「うん。それに、すっごくおいしい! こんなの王城でも食べたことないよ! 驚いたなあ!」
「馬鹿やろう。それがこしあんだ。よこせ」
あんたはカニクリーム味かアボカドバナナ味でも食ってな。
「そういえば、さっき、領主邸でアルシーフェを見たよ?」
「アルニャンを?」
あの盗っ人ネコザル、なんでそんなところに。
……ハッ。
盗み以外に考えられない!
と思っていると、張本人が帰ってきた。
「ニャン!」
棒アイス大の剣を口にくわえている。
藍色とオレンジのダマスカス模様。
ってアダマンタイトやないかい!
まぁーたドえらいもん盗んできたな。
「それ、ブケブケの『大断斬馬』だよね? え、ちっさくね?」
「持ち主に合わせて大きさを変える魔剣は珍しくないよ? ……おっ。雑穀レモン味、おいしい!」
ルシウス君が何を食べているのか、私にはもはやわからない。
私がアダンザンバーを受け取ると、スノーボードくらいの大きさになった。
「たしか、アダマンタイトって王都に豪邸が建つくらいの値打ちがあるんだっけ?」
おっし、今日からこれは私のだギャハハ。
報酬としてもらっとこ。
有効期限のないチート武器は貴重だしな。
「でも、アルニャンの盗みって等価交換なんだろ? これと等価の幸せをあんたに用立てられるの?」
「ぬかりないニャ。そろそろ芽吹くはずニャ!」
アルニャンは小さなおててで領主邸のほうを指している。
「……芽吹く?」
ずどおん。
遠くに見えている領主邸の屋根が吹き飛んだ。
ジャックと豆の木みたいに巨大植物が伸びて、土俵サイズの花が無数に咲いた。
ほえー。
「人間はお花、好きニャろ? 喜んでくれると嬉しいニャ」
アルニャンのにんまりスマイルには、誤用だが、確信犯的な悪さがにじんでいる。
でかした、相棒!
「それじゃ剣のお礼に、私からも等価交換だ」
盗っ人妖精が喜びそうなものは……これかな?
金平糖、召喚。
アルニャンにプレゼントしてやる。
「ふにゃあああああー!」
アルニャンの目がダイヤモンドみたいに輝いた。
「甘いニャ! この宝石、甘いニャン! 最高だニャアー!」
これも誤用だが、総毛立つほどの大喜びである。
パフェ2つ&もみ饅セットで9GPを消費した。
残りの1GPで召喚した安物だから、アダマンタイトの剣とはどう考えても釣り合いが取れないのだが……。
ま、モノの価値は人それぞれか。
「お花見しながらスイーツ食べるの、オツだわ」
どうせこれからも大変な目に遭うんだろうけど、たまにこんな日があるなら、この世界でもやっていけそうだ。
そんなことを思いつつ、私はチョコバナナパフェを頬張るのだった。
完結です!
最後まで読んでくださりありがとうございました!




