43 激走ブケファラオス!
「あいや、すまぬ。無駄話をしてしまったな」
ブケファラオスは恥じ入るように角の付け根を掻きむしった。
6本の腕で5本の剣を握り、私と真っ向から向かい合う。
これ以上、おしゃべりは無理そうだな。
時間稼ぎは終了。
ここから先、共通言語は暴力だけだ。
「僕のことはいい! 逃げてくれ、シーナさん!」
とルシウス君は言う。
イケメンに気遣われるのマジ嬉しい。
でも、残念。
わいはイイ子だから、人を見捨てて自分だけ逃げるとかできないのだ。
「ゆくぞ! ――バガラッパァ!」
バガラッ、バガラッ、とブケファラオスが駆け始めた。
デカイくせに速えッ!
あっという間に間合いを詰められ、左右から刀が伸びてくる。
私は1本目の下をくぐり、2本目の刀を受け太刀した。
ごがん、とすごい音がした。
「重……!」
体が浮いたところに、剣が刺突を繰り出してくる。
身をひるがえすと、脇の下と頬の横を剣が通過した。
こっわ。
「馬我輩の初撃に耐えたか! よいッ! よいぞ、『漆黒』! さあ、次はどう凌ぐか!」
広い要塞内を戦車みたいな荒々しさで旋回し、ブケファラオスが戻ってくる。
さっきより速え!
複葉機みたいに刀剣を広げて逃げ場なし。
大上段にはアダマンタイトの両手剣。
「させるか!」
ルシウス君が横合いから斬りかかった。
ブケファラオスが刀の1本で応じ、わずかに逃げ場ができた。
「バガッハアアアアアッ!!」
アダマンタイトの大剣が地面を割る。
飛び散った瓦礫片が私のあっちこっちに当たった。
剣の下をくぐって後ろに回り、私はブケファラオスのデカ尻を狙った。
――ぶおんご!
と黒いものが飛んでくる。
巨大な蹄鉄だった。
まさかの後ろ脚蹴り。
ケツも死角なしかよ。
「バガラアア!」
振り向きざまにブケファラオスは剣を横振りした。
私は後ろに跳んだ。
余裕をもってかわした。
はずなのに、ぶっ飛ばされた。
「剣技『風砲馬扇』!」
とか言ってやがる。
この技はドエリザベスの武技『拳風』と同系統だ。
剣圧で相手をぶっ飛ばす技。
私はズザザザァ、と地面にブレーキ痕を残して止まった。
距離を作れるのは正直ありがてえ。
とか思っていたが、
「剣技『暴打馬雷鞭!』
5本の剣から電撃が飛んできた。
雷は蛇みたいにのたうち回って石壁をなぞり、赤い線が残した。
「グギギィラバ!?」
「グギャギイッア……ッ」
城壁の上に陣取っていたゴブリン弓兵がポップコーンみたいに弾けた。
やば、ちょ……。
敵も味方もおかまいなしか。
「ルシウス君! こりゃ攻めたほうが安全だ!」
「だが、正面はまずい! 側面に回ろうシーナさん!」
「おう!」
遺憾だが、逃げらんねえ以上、もう倒すっきゃねえ。
でも、どうやって?
知らねえよ。
考える時間もありゃしねえ。
5本の刀剣が刃の暴風を巻き起こす。
そもそもブケファラオス自体が巨大で、暴走戦車みたいなもんだ。
ガ○ダムみたいな足で蹴られるだけで、こっちは余裕で死ねる。
でも、意外と戦えている。
「おっりゃあ!」
私は刀を真正面から受けて弾き返した。
「まこと人間離れした膂力よな! 馬我輩の剣雨をこうも凌ぐか!」
ブケファラオスのおっさんも仰天している。
私が一番びっくりだ。
こんなバケモノと戦えるとか、JK的には死よりも辛いリアルだ。
なんにせよ、――イケる!
中腕の剣と下腕の刀は受け太刀できる。
気をつけるべきは、上の腕が持つサーフボードだけだ。
あのアダマンタイトの両手剣だけは無理だ。
受けたら剣どころか、私の背骨まで折れちまう。
ブケファラオスがバヒンと嗤った。
「『漆黒』よ、貴様は今こう考えたな? 馬我が攻撃、受けるに容易いと。馬我が至宝たる剣『大断斬馬』にのみ気をつければよい、と」
うん、思った。
え、何、エスパー!?
「笑止。――剣技『馬落雷剣』」
5本の刀剣が稲妻をまとった。
あ、ヤバいやつだコレ。
「いざ、受けるがよい! 馬我が風雷の妙技を!」
刀が、剣が、どかんどかんと雷を落とす。
回避に専念。
……できれば苦労しねえ。
「ぎゃう……!」
受け太刀するたびにスタンガンをくらったような痛みが全身を襲う。
受けずに避けると、ドでかい風で体が持っていかれる。
距離ができれば、雷の鞭が飛んでくる。
ブケファラオスは要塞の中を、あらゆるものを壊しながら暴れている。
圧倒的な手数とパワー。
武器の性能も向こうのほうが上。
おまけにアウェーで、こっちは足手まといのアホ女を抱えている状態。
勝てる要素ゼロじゃねえか。
「そうらそうら! 耐え忍んでみせよ! よく戦い、よく果てるのだ! さすれば、貴様にも『馬我輩』を名乗るを許そうぞ! あの世でな! バーガハッハッハ!」
「わー、最高……」
完全にブケファラオスの独壇場。
あいつはここで気持ちよさそうに走っているだけで私たちを完封している。
生物としての格が違うっすわ。
エンヴィリッタは一向に目覚める気配なし。
ルシウス君も奮闘してはいるが、ほとんど戦力になっていない。
命懸けで戦うという縛りのせいで、捨て身の攻撃しかできないのだ。
でも、そんなことしたら本当に死んじまう。
よって、制裁覚悟で命令に背くしかない。
結果、場違いな電流芸人みたいになっている。
ブケファラオスも私しか見ていない。
馬オヤジに好かれてもなぁ。
「くそ! この首輪さえなければ僕も……」
ルシウス君は地面に拳を打ち付けている。
そういえば、ブケファラオスも言っていた。
首輪が力を封じているとかなんとか。
「風砲馬扇!」
「ぁぐ!」
盛大に吹っ飛ばされた私の、ぐるぐると回転する視界にゴブリンの弓兵たちが見えた。
城壁の上に並んで、矢を番えている。
ここで背中を射られたらガチ終わる。
「全員止まれええええええええええええええ!」
私は10倍の声量で拡声器そこのけの大音声を発した。
ブケファラオス以下魔物全員がビタッと停止する。
本当に止まってくれるとはな。
ラッキー。
「ええ、コホン」
と私は咳払いした。
どうしたらいいかわからん。
でも、とりあえず考える時間が欲しい。
なので、時間稼ぎだ。
「なあ、ブケ将軍! あんたの力が凄まじいのはわかったよ。でも、おつむのほうはどうなんだろうな?」
「む?」
「つまりさ、猛将であっても知将でなければ、真の将軍とは言えなくね?」
「……」
ブケファラオスは眉のあたりをピクっと動かした。
一理あるって顔。
「ハイ、ここで問題です! 馬と鹿が歩いています。それを見た美少女はなんと言ったでしょうか」
私はテキトーぶっこきながら城壁の上に居並ぶ射手を流し見た。
「魔王軍のみんなも考えてみてね! まさかこんな簡単な問題が解けないバカはいないよね?」
あまりに露骨な煽りだ。
でも、部下の手前、ブケファラオスは乗ってきた。
「知恵比べか、面白い!」
六ツ腕を組んで、すごい顔で考え込んでいる。
おっし、馬鹿確定。
1分は稼げるな、これで。




